1-13.野外活動。

〇美怜〇


「――家族ってサイズまで知ってるものなのかな?」


 そのブルマはピッタシのサイズだった。なお、『みれい』と書かれた体操服もだ。

 スリーサイズを聞かれた覚えも無い。聞かれたら答えるけど、あまり自信は無い。

 背の高さに反して少し太めなのだ――特に胸が。

 着痩せするほうだと自覚はあるが、体操服ではあまり意味が無い。皆の視線――特に男子の視線がささってきて怖い。

 さておき、疑問へと思考を戻す。


「……あの人と繋がりがある?」


 顔が脳裏に浮かぶとイラっとした。

 あの人、つまり、私を捨てた唯莉ゆいりさんのことだ。

 診断書の件からも明白だ。あれは唯莉さん以外知らないことだ。

 

「何を聞いているか聞いといたほうが良いのかなぁ……」


 ――それにもしかしたら、唯莉さんと何かを企んでいる?


「どうしちゃったん、怖い顔して?」

「……、目立ちたくないなぁって」


 小牧さんが声を掛けてくれて思考の海から引き戻される。

 ようやく出来た家族相手に何を考えているんだろうか、私は……と打ち消す。


「確かに、ブルマは目立つわよね、ブルマは」


 ブルマは自分だけだ。他の女子はハーフパンツで大層目立つ。


「そういえば体育の授業に参加って初めてだよ」

「そりゃそうやね、私が知る限りではいつも保健室やったやん?」


 三時間目で十時を回っているため、校庭に射し込む日差しが眩しい。

 そもそもに幼稚園で虐めにあってから外で遊ぶこともなくなった。


「二人でペア作ってよーく柔軟しとけー、怪我されたら面倒やからなー」


 ――へ? 


 思考と共に世界が止まったように見えた。


○望○


 ――城崎先生や、男女各十五名のクラスでその指示は酷くないかね? 


 予想通り、一人ずつあぶれた男女が仕方なくペアを作っている。

 慌てていた美怜は小牧君に拾われ、ストレッチを始めている。

 ちなみに僕は慌てず落ち着いていたところを水戸に声を掛けられペアを組んだ。

 余った人を委員長らしく回収し気遣いを見せるもよし、誰かに誘われるもよし、慌てる必要が無かったからだ。

 本当だよ?


「美怜をみてどう思う?」


 ――白い髪が太陽の光を吸って神々しく光る様は美しい。

 自分の評価はこうだが主観が入っている恐れがある。客観性を確保するために水戸に問うた。


「なんというか、小学校の五年生から同じクラスな訳だが――あぁ言うのをロリ巨乳って、ぉぉ、俺のバストスカウターがFカップはあると囁いている。なんだあのアルプス山脈の戦闘力は! 俺はこんな逸材を五年間もの間、見逃してたと言うのか!」


 小牧君の腕をもち、背中合わせで下になって支えていた美怜の体操上着が重力に引っ張られる。

 すると二つの雪山とブラジャーが紫色ブルマの山越しにチラチラと見えそうになり、水戸の目線がそちらへ。

 周りの男子も同じ場所に視線が動いているのが確認できる。


「見えがふっ!」


 上にいた小牧君の足が動き、狙い済ましたかのように発車された靴の動きは水戸の股間を直撃した。

 周りの男子も悶絶して前に蹲る水戸を見、自分の股間を抑えながら準備体操に戻る。

 背中が後方に反り、頭や視線は真反対側なのによくもここまで正確に出来るものだ。


「いつものことなので、こいつが巨乳に眼が無いのは……!」


 そうコメントに笑みを付け加えた小牧君は自分の靴を回収し、美怜の元へと戻る。


「イテテテテ、お前があのブルマ持ってきたんだよな。

 ……事前に告知されてたのは夢も無いハーフパンツな筈だが。

 ――お前の趣味か?」


 正直、ブルマに関しては趣味と言うわけではない。唯莉さんの趣味だ。

 一、美怜が注目されるということに少しでも慣れさせるため。

 二、それに対するクラス全員の反応を見、また次の段階に移すためであること。

 それら全てを正直に答える訳にはいかない。

 だから、


「あの食い込みだ。

 紫と白肌のコントラストを想像したからに決まっている」


 と、黒と紫での選択肢が出たときの決め手を言う。


「胸ばかりに目がいっていたが、確かに細く白い足は壊れそうだけど、なんか女の子っぽい柔らかさがあって確かにいいな。

 ……それを彩る紫の布。深いなぁ」


 それを聞いた水戸は改めて観、感銘の声を上げてくれる。


「そういえば、実はどっちが上なんだ?

 平沼ちゃんが妹みたいに言われるけど」


 ニヤニヤと腑抜けた顔を彼はしながらも、ストレッチの格好が様になっているのは野球をやっているからだろう。背中を押してやらなくても良く曲がる。

 ゼロ点七秒悩み、


「僕も知らない。

 気にしても仕方ないのでね」


 さっきから微妙に想定外の質問をされるので答えにくい感じがあり、楽しい。


「あぁ、成る程。

 だから、姉でも妹でも言えるシスターなわけか。

 そうだそうだ、お前、女のタイプってどんなんだ?」

「――はっ?」


 想定の完全に外のことを言われ、思考が止まったのが判る。


「女のタイプって――自分も押してもらわなくても曲がるから平気だ――好みのタイプのことを聞かれたんだね?」

「あぁ、そうだ――ぉお、良く曲がる。

 って足を頭にまわなさくてもいいぞ!」


 自分を落ち着けようとし、ストレッチがヨガに移行してしまった。

 体を元に戻しつつ考える。

 そもそもにお義父さんに認められるためと他人からの抑圧を跳ね飛ばすのに必死で、異性との付き合いを打算以外で考える暇なんて無かった。

 いや、あの人の話があるがあれは憧れである、違う。

 どうしたものか。


「ほらあれだ、高校生になったら好きな女のタイプぐらい決まってるもんだろ?

 高校生としては普通の話題で俺はおっぱいだ。

 恥ずかしがらずに言ってみ」


 胸が女性のタイプに属することを初めて知りつつ、悩む。


「無い」

「はっ? お前、まさかホモか?」


 水戸が目を見開きこちらを見る。

 その視線は異質なモノをみるかのようだ。そして後ずさりし、自分の身を庇うように手を前で交差させる。

 正直、嫌悪感を覚えるポーズだ。殴り飛ばしたくなり、これが小牧君の気持ちかと、理解してしまう。


「ホモではない。

 好みのタイプというモノは存在しないだけだ――押しが強すぎる僕が相手では苦労をかけてしまいそうだし、受け入れてくれる人物がいいかもしれんがね」

「――何か判った。

 自分を受け入れてくれる女子、包容力、おっぱい、うん、凄くいいな!」


 水戸は首を何度か縦に振り一人で納得しながら戻ってくる。


「んじゃ、気になる人物とかは?」

「美怜」


 どうやって彼女を素直に、そして行動的にさせるか二十四時間考えている。

 将に気になっている人物だ。


「あぁ、平沼ちゃんは何と言うか俺もこっちに引っ越してきた五年生以来の付き合いだが、あの容姿なのに必死に周りから消えようとする感じが庇護欲を煽られて――って平沼ちゃん以外で頼む。お前のあふれ出る家族愛やシスコンについては聞いていないんだよ!」


 一人乗り突っ込みだが、注文が多く再び悩む羽目になる。


「このクラス結構、容姿レベル高いからな。お前が悩むのも分かる」

「真っ白な平沼ちゃんといい、浅黒肌金髪の鳳凰寺といい、他にも――まぁ、ミナモはどうでもいいが――今度、全高一男子の中でランキング取って見るが恐らく一位で平沼ちゃんか鳳凰寺が決選投票になるんじゃねーか? ぉ、女子は短距離走の記録取り出したな、よく胸が揺れてる、大変良い」


 水戸の視線の先、走る女子を僕も眺めながら考えてみるが、


「ゲジ眉君が気になるといえば気になるな」


 答えに対し、水戸がこちらを怪訝そうな顔で見てきた。

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