挑発
1-14.男二人、偽乳令嬢を語る。
〇望〇
「ゲジ眉――あぁ、
「すまない、脳内が名前を受け付けていなかったのさ」
「お前、凄いヤツだな?」
「褒めても何も出ないぞ?」
言われ、反省する。共通認識とは言えない発言は相手に理解されない。
ただ他の女子よりは気にしているのは事実だ。
うまく計画に使えそうなのでね?
「鳳凰寺は――俺の乳スカウター曰くパッドだな」
「……確かに、変だね?」
言われてみれば、同じサイズの人に比べてあまり揺れていない。
何か固いものが入っているのだろう。
「多分、Dに見せかけてるがBだな、あれは……偽乳特戦隊か」
「お前も凄い発言するな、水戸」
さておき、周りの男子の視線を見やれば――美怜を三とするならば、ゲジ眉君への視線が二ぐらい向いている。
男というのは自分で自立している女性よりも頼ってくれる女の子の方が庇護欲を刺激される。
例えば、ウサギとライオン、どっちが自分に頼ってくれるかを想像すれば当然にウサギだろう。ライオンなんぞは食い殺される可能性もある。
また、どちらが手中にしやすい玉かというと――美怜だろうと一見思える筈だ。
僕がいる限りそれはないがね?
「そういえば、ミナモと野球部に届けを出しに行った時も鳳凰寺と同じ中学校だった奴がいて話題になったな」
興味があると聴き返すと、水戸は続けてくれる。
「総括としては、お茶でも武術でも何でも出来るパーフェクトハーフお嬢様ってとこだ」
「僕もお茶は流石に経験ないが、何でもできるぞ?」
「お前、実は負けず嫌いだろ?」
事実を言っただけなのに呆れたような目線で見てくるのは何故だろうか?
「でだ、お金持ちの割に電車通学で庶民的だとか、立ち振る舞いが奇麗だとか、
――このクラスでの女子の中心もあいつになるだろうな。
お前の他薦演説がなきゃ女子からの票のほとんどは鳳凰寺に入ってたんじゃないか?」
周辺環境からの評価はこうらしい。今も美怜が小牧君の後ろに隠れているだけに対して、何人かの女子と楽しそうに歓談しているゲジ眉君の姿がある。
確かに人を引き付ける引力のようなモノ――女王蜂に似たカリスマを感じる。
「ただな……うーん」
「聞いてもいいかね?」
言い淀む水戸に、こちらから興味があると示す。
基本的に人間、言い淀む場合は勿体つけているか、判断がつきかねている時なので、突っ込んであげると情報を引き出せる。
水戸はあくまでも「噂だと」前置きをし、一呼吸。
「結果的には自分が気に入らない生徒を三人ほど転校させたらしい」
「ほう」
興味深い、続きはよ。
「直接的に本人は虐めに加担をしたわけではない。
だが、結果的に虐めが発生してそうなった」
「間接的にということかね?
例えば、ヤクザとかでよくある
つまり、あいつが居なくなればと、言葉にして、それを汲んだ誰かが実行したのだろうと想像がつく。
「判らん。
だが、彼女を怖がったり、近づきたくないという奴も居たり――女子生徒カーストが構築され始めてご機嫌取りをするのもすでにいる。
あの今話してる集団なんかはそれが透けてるようにみえてな。
スポーツ推薦の俺が言うのも何だが、ここは進学校だろ?
プライドやステータスに拘る奴が多いみたいでなー。めんどーだわ」
水戸は更に真剣な顔をして後述を付け加えた。
「俺も胸が偽物くさくてあんまり関わりたくなくなったな。偽乳は悪だ」
「なるほど、いい判断だ」
虐めという単語。それを受けたことがある僕の感情が昂ぶるのは当然だ。
拳を強く握っている自分が居る。
利用はさせて貰おう。ただ――
「鼻の先をへし折り甲斐があるね」
計画目標への道筋が幾通りも浮かぶ。愉悦が体中にはしり、笑みが浮かんでしまう。
何を言っているんだ、お前はとでも言いたげな視線を水戸は向けてくる。
「……お前、変な奴だな?」
「胸の話ばかりする貴様は鏡を見てこい」
「負けず嫌いというにはちと違うし――そう言えば平沼ちゃんを委員長にした件も鳳凰寺を負かして楽しんでいたよな?」
確かに変な奴という評価は虐められていた時にもよく言われた言葉の一つだ。
しかし、自分がこのようなパーソナリティやそれに見合った能力を取得してからは、陰で言われるだけになった。
誰であろうと僕を抑え付けようとした奴をひざまづかせたため、軽口の一つですら僕に報復されるのではないかと皆が勘違いしたようだ。
そんなに小さい器ではないのにね?
「実は周りなんてライバルか有象無象なんかでしかみてなくて、友達なんかいなかったタイプか?
同じようなの中学野球部の後輩にいたわ。
プライドばっか高くて変に意固地で周りの言うことを聞かない奴でな……すぐ辞めてったけど」
「一緒にされては困るのだが?
僕は面と向かって意見を言ってくれるのはありがたいと思えるし、今までそう扱うしか無かっただけだ。
だから水戸、君とは長く付き合えそうだ。
友達になりたいと言ってくれたのが打算的だったとは言え、今のは評価が高い」
隠すことでもない、正直に言う。
「……変な奴だなぁ、お前。
まぁ、いいさ。素直に自身を認めることが出来る奴なら嫌いじゃないからな。改めてよろしくな」
「あぁ、よろしく」
飽きれたように言いながら、握手を求めてきてくれた。
今度は躊躇無く握り返せた。そしてお互いに強い力で容赦の無い握り合いになる。
「……お前、案外力強いのな」
「嗜み程度にはね?」
水戸と僕はお互いに笑みを浮かべ、納得しながら手を放す。
「さておき、気になるって意味が全然ちげーよ。
恋愛の対象としてだ。狙うならストレートに恋愛で落とせよ、男らしく。
弄るのは平沼ちゃんだけにしとけ」
「そんな日が来るならそうしよう。
現状では美怜で手一杯でね――さてそろそろ男子の番みたいだが、勝負するかい?
五百円ぐらいのモノをかけると水戸も楽しめるかな?」
「ぉ、いいね。この負けず嫌い。
俺も負けず嫌いでな――今日の昼飯でも賭けるか?」
自信満々に言われる。
昼飯は高校生にとって大きな存在。それを賭けに出してきたことからも自信の程が判る。
しかし、それは甘い。
「判った。
但し、手は抜かないからな! お前の鼻を俺が潰してやる」
フィッシュ!
心の中で叫びながら、それを表に出さないように平静を装う。
そして順番が来たとスタートラインへと向かう水戸の後ろ姿を見送る。
「水戸、その自信満々の顔は負けた時にどんな風になることやら」
僕を見下したり、見誤ったり、抑えようとしたり、言葉でなじったり、暴力を振るってきたりした全員の鼻をもれなくへし折ってきた。
人間として壊した人もいる。それら全ての思い出、人物の反応が反芻し――自分の中で愉悦に繋がるのが判る。
特に親の権力を笠にきていた奴を親から勘当させ、その後の変わり様は今でも忘れられない。
そんな人生しか送ってこなかった自分はコミュニティー障害なのは判っている。
友達と言ってくれた水戸にも同じような方法でしか接することを知らない。
「虐めというのは人格を狂わせるものさ、それを美怜は――乗り越えてもらう必要があるんだがね」
少し胸が軋んだが、水戸のタイムで勝ちを確信してニヤリと笑う自分を自覚せざる得なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます