第20話 金は命よりも重い! と誰かが言った……。



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 夜。

 自室の机の上で久々にぼんやりとしながら、僕は今日の一日について振り返っていた。



 今日も今日とて、僕はいつものように依頼をこなした。

 クエスト内容はとある迷宮のボスの討伐だった。


 ギルドがわざわざ迷宮ボスの依頼を出すことはあまりないのだが。

 勇者パーティの連中が不在ということもあって、『被害及ぼす恐れあり』として、僕が頼まれたのである。


 敵は巨人種のサイクロプスだった。

 中上級者パーティ向けのモンスターである。

 15メートルもあるほどの曲で、ゴブリンキング(いつかどこかのトラウマ野郎)のように棍棒を振り回す。

 巨体から繰り出される一撃は重く、

 打ちどころが悪ければ死に、そうでなくとも直撃すれば立ち上がることができなくなり、最終的に詰み、死ぬ。


 まぁ、そんなことは同じ相手に何回も死んでる僕は理解しているわけで。

 今日は難なく一人で討伐することができた。


 奴は単眼だから視界も狭い。

 僕は『彗星走コメットファスト』を駆使し、常に死角から致命傷を与え続け、屠ったのである。

 ソロでの討伐だったが、比較的スムーズに討伐できたので、自分の成長を実感することができた。


 余裕もあったのでそれから探索&討伐を繰り返し、都合三十体のC級魔獣を倒した。

 今日の収入はこれで合計7万Gゴルド

 うん。


「目標額まで、これまたあと一歩ってところかな」


 言いながら、僕は引き出しから一冊のノートを取り出す。

 そこにはデカデカと、『空船ソラブネ資金!! 目標額1000万G!』と書かれていた。


 空船というのは、空に浮かぶ島と島の間を飛空する乗り物の総称だ。

 その一番小型の物を購入するのに必要な金額が、1000万G。


 僕の所持金は現在990万G。

 この三年間で貯めたお金だ。

 目標金額まであと10万Gというところまで来ていた。


「これで、明日大物をれれば、届くんだ……!」


 思わずニヤついてしまう。

 自室で一人「でゅふふ」とニヤニヤしているのは何とも気持ち悪いと思うが、

 こんな僕を許してやってほしい。


 ようやく。

 ようやくなのだ。


 最初は思うようにいかず、何度も失敗した。

 死んで、死んで、死んで……。

 金の重さというものを実感しながら。

 生きて帰れるようになってからも、目標金額や生活費のことを考えれば、

 はした金しか稼げなかった。


 でも、強くなれば強くなるほど稼げる資金も増えていき、

 ここ数カ月は安定して一日に5~8万ほどを稼げるようになっていた。


 僕は権利を得た。

 これであとは、明日を待てば、彼女に告白することができる。


「~~~~~っ!!」


 妄想しただけで頭が沸騰するくらいに恥ずかしくなり、僕は悶える。


 勇者パーティの面々は、ようやく最近になって王都からの招集があり、彼女もそれについていっていた。


 帰ってくるのは明日の夜。

 僕はそこで彼女に、もう一度言うのだ。


「僕と冒険をしよう」と、彼女に告げるのだ。


 だから明日は、僕にとっての最大限の冒険をしよう。

 ギルドの中でも最難関のクエストを受けてクリアすれば、『剣術』スキルのランクだって上がるはず。


「どうせだったら、心残りなんて欠片も残らないようにしたいな」


 そんなことを呟きながら。

 無駄だと分かっていつつも、居ても立ってもいられず、

 僕は朝のトレーニング以外ではしないような剣の素振りをしに、家の前へと向かった。


 街灯だけが照らす場所で。

 僕は隣のユウキの家を見ながら、瞳に熱を灯し、愛剣を振り続けた。


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勇者パーティから追放された僕。目覚めた『死に戻り』のスキルで【死の未来が確定しているサブヒロイン(幼馴染)】を救うために、死ぬほど努力してみます!! 雷撃 @Raigekinonariagari

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