第16話 てんてこ舞いな一日(ユウキ視点)



 ―――ユウキ視点―――



「どうしよう……どうしよう!」


 太陽が燦燦さんさんと輝く真昼間。

 私――ユウキ・アレンドールは、自室で頭を抱えていた。


「カルマくんが帰ってこないよ~!!」


 今日の朝。

 パーティでの探索は休みで、道場も休みだというから、カルマくんを元気づけようと思って彼の家に向かったところ。


「まだ帰ってないさね」


 という彼の祖母の言葉。

 慌ててギルドに確認に行くと、なんと昨日あれから、彼は一人でクエストを受注していたらしい。


 備え付けの時計を見ると、時刻はすでに午後12時。

 昨日の晩に出たと聞いたが、ソロでの探索だ。普通なら、朝方には帰って来てもおかしくないはず。


 それに、昨日の出来事もある……。


「……駄目だっ! ジッとしてるなんて私無理っ!」


 昔から彼は危なっかしいところがあったのだ。

 一筋過ぎて、周りが見えなくなっちゃうところとか。

 危険を顧みないところとか。


 そんなところが出来の悪い弟みたいで可愛いとも思うんだけど……。


「私がカルマくんを助けなくっちゃ!」


 思った瞬間、もう私は動きだしていた。













 ―――



「ありがとうねぇ。このシチュー美味しいわぁ……。掃除も完璧だぁ。あんた、良い嫁になるよぉ」


「……」


「あたしゃ奥の部屋で休んどくから、気が済むまでここにおってええからねぇ。それじゃ」


「……はい、ありがとうございます」


 バタンとドアを閉じ、出ていく元気な彼の祖母を見送って、私はリビングの椅子に座った。

 そして湯呑に入った緑茶を飲みながら……、


「どうしてこうなった!?」


 と、一人狼狽えていた。



 約9時間前。真昼間。

 私は思い立ち、彼を探しにいこうとギルドへと赴いた。


 ギルドに事情を話すも、「一日ではちょっと……」と、彼のクエスト内容は個人情報として教えてくれなかった。

 一週間経っても帰ってこない場合、依頼内容を見て判断し、探索依頼を同業者たる冒険者に頼むこともあるギルドだが、

 さすがに一日では彼の向かった先すら教えてくれなかった。


 私は「それなら!」とギルドを出て、一人で探索を始めた。

 周囲一帯を「カルマくーん!」と叫びながら彼を探した。

 しかし、近くにある迷宮をいくつも潜ってみては彼の名前を呼んだが、返ってくる反応はなかった。


 それから探して探して……とっくに日は傾いていた。


「もしかしたらすれ違ったのかな?」


 そう思った私が街へと戻り、彼の家へと訪れると、


「お! いいところに来なさったさね!」


 と彼のお祖母ちゃんに捕まってしまったのだ。

 どうやら、カルマくんが家を空けてるせいで、家事が思うようにいかないらしい。


 それなら見捨てることはできないと掃除を手伝ったら、「次はあの戸棚の上の本を……」「トイレの方の掃除も……‥」「食器がそういえば……」「晩御飯もお願いしていいかぁい?」

 と次々に依頼内容が増えていってしまったのである。


 彼の安否を聞くも、「帰ってないけど、あの子なら大丈夫さぁ」と軽く流されてしまった。


 そしてなんやかんや晩御飯のシチューまで作ってしまったところ、時刻は午後9時。

 もうすっかり星も輝く夜になっていたのだ。


「カルマくん、まだ帰ってこない……」


 もう2日は経とうとする頃合である。

 彼のお祖母ちゃんはああは言っていたが、やはり心配だ。


「やっぱり、もう一回探しに行こう」


 そう思い、立ち上がろうとしたところ。


 がちゃ。


 っと、リビングの前のドアが、ひとりでに開いた。

 私が咄嗟にそこに視線を向けると、そこには――、

 身体中から痛々しい傷が見え隠れする、彼の姿があった。


「カルマくん!?」


 私が叫ぶと、彼は体を前後にフラフラと揺らして、倒れ込もうとする。


「危ない!」


 私の静止も聞こえないようで、彼は床に思いっきり顔をぶつけてしまった。

 そこから、だらだらと血が流れる。

 鼻血だった。


「あわわわわわっ!」


 私は一瞬パニック状態になったが、とりあえず彼の鼻先を摘まんだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る