第15話 必ず君に追いつくから、その時は――、


 

 ゴブリンキングとの激闘後。

 僕はモンスターもしばらく出現しないであろうダンジョンの中で仮眠を取り、迷宮の外へと出た。


 そのまま真っ直ぐと、ギルド会館の方向へと歩く。


「……う、うぅ」


 頭が割れるように痛い。

 身体中の傷が風に触れる度に痛む。

 特に、最後の一刀で酷使した左足の親指は歩くたびに激痛を訴えてきて、

 確認したら、ぐちゅぐちゅと血が滲み出していた。

 骨折もしているようで、そこだけは動かなかった。


「…………」


 周囲の景色は目まぐるしく変化していく。

 どれくらい歩いただろうか。

 気づけば周囲の風景は再び夜になっていて、時間経過の体感的な速さに違和感を覚えた。


 と思えば、僕は家の前に着いていた。

 背中に抱えるバックパックの中からはじゃらりとゴールド同士がぶつかる音が聞こえるので、ちゃんと換金は済ませたようである。


(やばいな……。意識朦朧とし過ぎて、戻ってくるまでの記憶がない……)


 僕は心の中でぼやきながら、見慣れた玄関のドアを開ける。


(あ、やばい)


 ドアを開けた瞬間、強烈な睡魔が襲ってきた。


(このまま、落ち――……)


 バタン。

 床に思いっきり顔をぶつけた。

 どうやら、僕は意識を失ったようだ……。












 ―――



 暖かな心地の中、僕はうっすらと目を開ける。

 頭の部分が、何か暖かなものに触れている。心地いい。


「か、カルマくん? 大丈夫?」


(……?)


 これは夢だろうか。

 いや、夢のはずだ。

 だって、最愛の人が家にいて、

 かつ膝枕をしてくれるなんていうシチュエーション、現実にあるはずがない。


「…………」


 幸せな気分に包まれながら、僕は彼女に手を伸ばす。

 その手を、確かに彼女が握ってくれた気がして。

 僕は失いそうになった意識を無理やり繋ぎとめて、言葉を紡いだ。


「……僕は、強く、なる」


 あの日、力を得た時に誓ったことを、誓い直すために。

 夢の中の彼女の手を握りながら、その目を見つめながら。

 現実では絶対にできないような、真剣さで。


「強く、なるよ。必ず、君に追いついてみせるから……」


 こんなみっともない姿じゃあ、説得力なんて欠片もないかもしれないけれど。

 この気持ちは、紛れもない本物だから。

 この言葉は、伝えなくちゃならないと、そう思った。


「だから、僕が君に追いついた、その時は、僕と――」


 冒険に、出よう。


 最後の一言を言えたかどうかは分からなかったが、

 それ以上僕の気力は持たなかったのか、意識は消えていった。



 ―――



 同じ家に住む祖母に聞いたところ、それから二日間は寝込んでいたらしい。

 まぁ、何はともあれ、ようやく第一歩を踏み出せた。


「……よし」


 朝日に向かい、僕は歩み出す。

 ここからが、僕の物語の本当の始まりだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る