第14話 三度目の正直、です!



 目を閉じれば思い出す。


『ねぇカルマくん!! 一緒に大冒険者になろうよ!!』


 今もなお燃え続ける、この『想い』の原点。

 つまらない僕の世界を変えてくれた。

 夢を持っても良いのだと教えてくれた、彼女の言葉を。


『雲の上には、たっくさんの島が浮かんでるんだよ!! そこには色んな人がいて、宝物があって、たっくさんの面白いがいーっぱいあるんだよ!!』


『危険なことなんて承知だよ!! でも、でもさ……やっぱりワクワクしない!?』


『才能があるとかないとか、そんな話をしてるんじゃないの!! カルマくんは……行きたくないの?』


 追い立てるように、記憶の中の彼女が上目遣いで僕に問いかける。


 僕の答えは決まっていた。


 ずっとずっと昔から、決まっていた。


「僕は、君と――――」



 ―――



 戦いは熾烈を極めた。

 振るわれる棍棒を躱し、剣を振るう。魔法を放つ。

 だが、奴は倒れない。

 肉を抉られ、焼かれようとも、片膝すらつこうとしない。


 そして僕にも、徐々にダメージが蓄積されていった。

 大振りな攻撃が掠るだけでも鮮血が舞った。

 地面と棍棒が叩き合った瞬間の飛び散る土破片が、何度も僕を殴った。


 奴は戦いの中で進化していた。

 攻撃は荒々しく、だが頭は冷静に。

 奴の動きは、剣を交わすたびに洗練されていくようだった。


 おそらく、奴と僕の力は同等だ。

 繰り返し迷宮にもぐった僕と、ゴブリンの王たる奴の力はイコール。


 ならば決着は。

 より『執着』の強い者が勝つのだろう。


 生への執着。

 想いの執着。


 より醜く、藻掻いた者が、勝つ。


「はぁ……はぁ……はぁっ」


『…………………………』


 決着は、すぐそこまで迫っていた。

 身体はお互いに限界を迎えていた。


 僕は剣を杖代わりにして肩を上下させ、

 奴はすでに折れてしまった棍棒が手から滑り落ちるのを、ただ目で追っていた。


 やがて。

 僕の黒い目に、奴の大きなギョロリとした琥珀眼が映る。


 それは決闘者同士の了解。

 この一刀で終わらせようという、意思確認だった。


 僕は剣を構える。

 構えは、『突き』。


(この一撃で、お前を倒す!)


 言外に僕がそう宣言すると、


『ゲギャァァアアア!!』


 奴は叫びながら、両拳を構えた。

 その口角は、引き裂かれんほどに曲がっていた。


 僕は足に魔力を込める。

 最速の一撃を見舞うために、魔力を込める。


(もっと一点に、魔力を、凝縮、凝縮……)


 上昇したであろう能力値ステイタスの全てを込める勢いで、僕は足先に集中した。


『死ぬ気』で戦い始めて、僕が発想した走法。

 魔力というものは、込めれば、膂力を強化することができる。

 だから冒険者は、走る時は足に、剣を振るう時は腕に魔力を込める。

 そうすることで、人間の限界を超えた動きを成すのだ。


 今まで僕は、並の冒険者と同じように各部位ごとに魔力を込めて戦っていた。

 だが戦っていて考えたのだ。


 もし、その力を一点に集中するのなら。

 今よりもっと速く、もっと強く、攻撃が可能なのではないか。


 必ず奴の動きを超える。

 奴を倒し、憧憬と肩を並べるために。


 そのために僕は――、

 もっと速く。

 もっともっと強く、在らなければならない。


 だから僕は込める。

 彼女への熱情も、夢も、醜いほどの欲望も、執着も。

 全てを込めて、僕は地を駆ける。


「――――『彗星走コメットファスト』!」


 瞬間、景色が消え失せた。

 白熱する視界。

 視線が捉えるのは、標的の弱点ただ一つ。


 覆いかぶさる障害が振るわれた。

 僕は僅かな隙間に、身体をねじ込ませる。


「うぉぉおおおおおおおおおお!!!」


 僕は疾走した。

 直線を駆け、走り抜いた。


 そして。

 永遠にも感じる一瞬が、終わった。


 迷宮の中から、一切の音が奪われる。


「…………」


 僕の剣の先には、砕けた魔石が突き刺さっていた。

 やがて、「バシュン」と。

 肉体が灰に変わる、魔獣モンスターの死を告げる音が背中の後ろから聞こえてきた。



 僕は、『死闘』に勝利した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る