第6話 一番聞きたかったことを訊けました!
言うべきことを言った俺は、ユウキを隣の家まで帰そうとドアの鍵を開けた。
彼女が何かを悩んでいるであろうことは分かっているが、
冷静に考えれば、彼女の底抜けに優しい性格を鑑みれば、僕が弱いままじゃ相談相手にはなれないだろう。
ユウキはお姉ちゃん気質なのだ。
元気ハツラツなくせに、いつも僕のことを気にかけてくれる。
そんな彼女だから、彼女が風邪をひいた時も、苦しそうな表情一つ見せなかった。
今の僕が悩みを訊こうとしても、きっとはぐらかされてしまうだろう。
だから、僕は強くなる。
雑用義務もなくなるから、言い訳はせずに、『死ぬ気』で強くなってみせる。
そんな決意を固めながら彼女を送ろうとして、僕は立ち止まった。
そういえば。
もっとも大事なことを聞いていなかった。
「ねぇ、そういえば、さ。その薬指のリングってどうしたの?」
「へ?」
問われたユウキはきょとんとしている。
「えっと……、確かアクセルがパーティメンバー全員に配ってたリングだったかな。ほら、ここに探知石が埋め込まれてるでしょ? 任務中に何かトラブルが起こったときにでもって、パーティで溜まった共通資金でアクセルが買ってきたんだよ。……もしかして、カルマくん、貰ってない?」
「もらってないなぁ……」
おそらく、購入したときにはすでに僕のクビは決まっていたのだろう。
というか、僕が彼等のリングを確認したのも、クエスト前やクエスト中は緊張や集中で気付かず、
あのクエストが終わってすぐだったから、購入したのはかなり最近の話のはずだ。
それも、僕が死ぬ、その前日とか。
探知石は登録した石同士が近づくと光る性質がある。
だから、これから王都への招集もあるぐらいに強くなったパーティメンバーたちの安全も考慮すると、妥当な考えのはずだろう。
「さすがアクセル。普通に優秀だな」
「何感心してるのカルマくん!! 分かってるの!? カルマくんだけハブられたんだよ!!」
「うっ……」
それを言われると何かキツイものがある。
だがまぁ、そんなことを気にしている場合ではない。
僕が聞くべきことは、そこじゃない。
「えっと、その……どうして薬指にしてるのかな、そのリングを」
「え? え~っと、どうしてだったっけなぁ」
と言いながら、彼女は思い出すように語り出した。
リングが全員に配られたとき、アクセルが面と向かって、こう言ったそうだ。
『そのリング、お前は薬指につけろよ』
言われたユウキは、訳も分からず言われた通りにしたらしい。
なぜか他の女子メンバーがキラキラとした視線で見てきたが、どういう意味かよく分からなかったそうだ。
「つまり、その……リング交換の噂とかはユウキは知らなかったってことなのかな?」
「うん? リング交換の噂って何のこと?」
本当に知らなかったようだ。
まぁ、良く考えれば薬指のリング交換の噂も耳にするようになったのは最近だったし、彼女は剣術道場の手伝いと冒険者業を両立していたから、忙しくて耳にもしなかったのかも。
昔はラブロマンスの小説とか大好きだったんだけどなぁ。そんなのを読む時間も、今の彼女にはないんだろう。
だから、彼女はなーんにも知らなかったというわけだ。
……そもそも二人はリングを『交換』したわけではなかったな。
「…………」
でも、分かっていても嫉妬しちゃうな。
僕は何も言わず、しれぇっと彼女のリングを人差し指へと移した。
よし、これでOKだ。
「今後、絶対に薬指には嵌めないでね」
「え? う、うん? 分かった?」
半ば脅迫染みた僕の言葉に臆されたのか、彼女はうんうんと頷いた。
彼女のことだ。約束を破るなんて悲しいことはしないはずだ。
問題はアクセルだろうが、ユウキの曲がらない性格からして問題ないはず。
……よし。
これで話すべきこと話したな。
そう思い、今度こそ家を出ようとしたとき。
「ねぇ」と今度は彼女から声を掛けてきた。
「どうしたの?」
僕が問うと、ユウキはその艶のある金髪を斜めに揺らしながら、
「さっきから私のリングのことばっかり話してるけど、その、髑髏のリングはどうしたの?」
髑髏?
ドクロ?
……どくろ?
何だそれ、と思いながら僕の手をみると、
「…………えっ?」
左手の人差し指に、
「な、何だこれ!?」
趣味の悪い、骸骨の頭が乗っかったような黒いメタルのリングが嵌められていた。
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