第5話 僕は、決意を固めました。
「ちょ、ちょっと、どうしたの? カルマくん?」
困惑する彼女の手を引っ張って走りながら、
僕はこれから話すべきことについて考えていた。
死ぬ間際の、あのとき。
僕は強く後悔したんだ。
彼女のことを全く気にかけてやれなかったこと。
彼女と並びたつほどに、強くなれなかったこと。
きっとユウキは、僕のことを『守るべき存在』として見ている。
当然だ。僕が彼女よりも弱いのだから。
「……」
だから、僕が伝えるべきことは決まっていた。
―――
僕は自室に上がると、内側から鍵を閉めた。
よし、これで邪魔者が入ることはないな。
そう思い彼女の方を見ると、何故か顔が真っ赤だった。どうしたのだろう。
「ユウキ、実は話したいことがあって君をここに連れてきたんだ」
「え!? 話したいこと!?」
顔から湯気が出るほど真っ赤にさせたユウキが「ど、どどどどうして? どうしてこの場所なの!?」と聞いてくる。
……何をそんなに慌てる必要があるのだろうか?
幼い頃はよく隣同士だったからお互いの部屋に入って遊んでいたというのに。
「どうしてって……皆には聞かれたくない話、だからかな?」
「皆には聞かせられないような行為なの!?」
彼女は恥ずかしがってついには顔を隠した。「きゃああああ!!」だなんて叫んでいる。
ドキンドキンという心臓の音がうるさいくらいに聞こえてくる。
……うん?
何か凄い思い違いが起きている気がするが……。
まぁ、いい。
僕はとりあえず、酒場でアクセルに言われたことについて話した。
―――
僕がアクセルに追放されたことを教えると、
ユウキは、(おそらくは)さっきとは全く違う理由で顔を真っ赤にさせていた。
というかぶちギレていた。
「アクセルの奴そんなこと言ってたの!? 許せない!!」
「いや、いいんだ。僕がこのパーティのお荷物だってことは、ちゃんと自覚してるから」
「カルマくんまで何言ってるの!! カルマくんの索敵能力にどれだけ助けられてるか……、カルマくんもアクセルの奴も、全然分かってないよ!」
……うーん。何だかユウキは僕のことを過大評価している気がするけど。
僕の持つ索敵用スキル、ユニークスキル『危機察知』は、その名の通り、あらゆる危機を察知する。
とはいえ、索敵の範囲は限られている。
4、5人くらいのパーティで動くときには使えるが、大人数を率いるとなればカバーしきれないだろう。
……というか。
索敵用のスキルなのに元来備わったものだというのだから、生まれつきの自分の臆病さ加減に辟易する。
だが、そんな自分とも、今日でオサラバだ。
「……ありがとう。でも、さ。僕は聞いてなかったけど、たぶん今の実力なら、もう王都から特別任務の依頼は来てるんだろ? さすがに今の僕じゃ、きっと皆の足を引っ張ると思う」
「そ、そんなこと……」
僕の自虐を否定してくれる優しい彼女を手で制して、僕は続ける。
「だから、僕は強くなるよ。皆に、アクセルに……、君に認めてもらえるくらい強くなる。だから、そのときまで僕を見限らずに待っててくれないか? 僕は、きっと追いついて見せるから」
一息で言い切って、僕よりほんの少しだけ背の高い彼女の瞳を見つめながら、
「僕は、君と冒険に行きたいんだ」
死ぬ間際に言いたかったことを言った。
幼い頃に話した、夢のような約束。
もっと早くに告げるべきだったこと。
弱い自分と別れるための、決定的な言葉。
それを告げると、
「……うん。それなら、わかった」
そう言って、彼女は複雑そうに笑った。
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