第4話 現状確認、です!
俺が状況を理解できずに茫然としていると、
長い茶髪をぐるぐると手で弄りながら、アクセルは凄く面倒くさそうにしていた。
「……おい、聞いてんのか? クビって言ったんだよ。ク、ビ。ちゃんと理解してる?」
「え、えっと……それは、うん。大丈夫」
「はぁ?」
怪訝そうな表情で睨むアクセル。
だが僕は、そんなことよりも重大な何かが起こっている気がしてならなかった。
ゆえに、未だにグチグチと愚痴をこぼし、僕を煽るアクセルのことなんか、気に掛けている余裕はなかったのである。
(これは一体、どういうことだ?)
僕は確かに、迷宮の奥で頭を噛み砕かれて死んだはずだ。
なのに、ここはいつものギルド会館。
そして、いつもの強いけどウザいパーティリーダーのアクセル。
自分の服装を確認するに、先ほどまでクエストをこなしていたようだが、直近の記憶がない。
そもそも、僕は先ほどまで迷宮の最奥にいたのだ。
こんなところに無傷で立っていられるのは、どう考えてもおかしかった。
(これは、夢?)
ちょうどさっき見たような、死ぬ直前に見る、走馬灯のような夢の類か。
(だとしたら僕、往生際が悪すぎるぞ……)
幼い頃の夢を見て、十分過ぎるほどに後悔したはずなのに。
僕はまた、諦められないからと夢を見ているのか?
「……笑い話だな」
「あぁ?」
アクセルは「コイツおかしいんじゃねえの?」みたいな目線で見てくるが、
それには僕も同意だ。僕はちょっとおかしいのだろう。
こんなにリアルな夢を見るなんて、段々と自分のことが不憫になってきた。
と、僕がひとりでに悲しんでいると、
受付の方から跳ねるような足取りで一人の女性が小走りにやってきた。
「何の話をしてたの?」
リンとした鈴の音のような声が、僕の耳の裏で反芻した。
肩口まで切り揃えた艶のある金の髪が、ふわりと揺れている。
碧眼の瞳は、まるで水晶のように輝いていた。
きょとんとした表情を浮かべる彼女から、僕は目が離せない。
もう会えないと思っていた彼女が、ここにいる。
声も。
姿も。
何もかもが、彼女が彼女であるということを証明している。
「って、ええ!? カルマくん! どうしたの!?」
「……え?」
「えっと……どうして、泣いてるの?」
言われ、頬に手をやって気付く。
僕は、泣いていたのだ。
そして確信する。
ここは夢なんかじゃないということを。
ここにいる彼女は、夢の中の産物なんかじゃない。
だからここは、紛れもないリアルなんだ。
「――――っ!」
それに気づいた瞬間、僕はツーっと伝っていた頬の涙を乱暴に拭き取ると、
「来て!!」
「えっ?」
困惑する彼女の手を引き、ギルド会館を走って出ていった。
店が立ち並ぶ会館前を、風を切るように真っ直ぐ走る、
後ろからアクセルの怒声が聞こえてくるが、関係ない。
僕は、僕の家の自室へと彼女を連れ込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます