第34話 許せない
文芸部が廃部になった。
部長を務めていた裕子先輩が亡くなったことで、それまで部としてどうにかまとまっていた部員たちが活動の意味を見出せなくなったのだから、当然の結末ではあった。
いや、正確に言うと、心当たりはあった。裕子先輩が亡くなった日、
正直言えば、違和感はあった。そもそも裕子先輩が亡くなったというのに錆川さんはそのことについて何も言及していない。この間の電話にしてもそうだ。
その疑念を抱いたまま、
「おい、蜜蝋」
休み時間、教室でじっとしていた
「なんですの? はっきり言いますが、今はあなたと話す気分ではありませんの。日を改めてくださいます?」
「俺だってお前とは話したくはねえよ。だけど聞きたいことがある」
「……裕子先輩のことでしたら、
「そうじゃねえ。錆川のことだ。アイツは何をしてるんだよ?」
「はあ?」
「今日は学校に来てねえ。裕子先輩と最後に一緒にいたのはアイツのはずだ。なのに俺たちに何の説明もしねえ。おかしいとは思わないのか?」
「それは……」
おかしいとは、思う。
だけどそれ以上の気持ちはなかった。錆川さんは
その代わり、裕子先輩の死を悲しむ気持ちも、錆川さんに対する怒りも湧いてこなかった。もう
彼女のことを憎めるかどうか、わからない。
「もう一度聞く。錆川は何をしてるんだ?」
「知りませんわ。……
「なんだよ。もう仲違いしてやがったのか。じゃあ俺が錆川に何をしても口を出すんじゃねえぞ」
「なんですって?」
「もしアイツが裕子先輩を追い詰めて、自殺させたって言うんなら……俺はアイツを許さない」
「許さないって……錆川さんに何をなさるおつもりですの?」
「決まってるだろ。裕子先輩を追い詰めた報いを受けさせるんだよ」
「……そうですか」
岸本くんの目には、はっきりとした怒りの感情があった。だけど
錆川さんは
だけどその代わり、
季節は流れ、
柏原学園は中高一貫校なので、大多数の生徒は高等部への進学を決めていたし、
なぜなら、この時点で岸本くんは錆川さんを完全に裕子先輩の仇だと決めつけ、同学年の生徒たちにも彼女を許すなと焚きつけていたからだ。
錆川さんはクラス内のみならず、校内で完全に罪人として扱われていた。彼女と会話すること自体がタブーとなっていたし、彼女を擁護する意見を口に出すことすら異常であるという空気が流れていた。
以前の
『痛み』を忘れてしまった
錆川紗雨とは、なぜああも歪んでいるのだろう。自分が他人の苦痛を背負い込むことを徹底的に求めているというのに、
錆川さんは徹底的に自罰的だ。だけどその在り方は、彼女を大切に思う人たちすら傷つけていることに気づかない。
きっと岸本くんたちが錆川さんをどれだけ攻撃しても、どれだけ傷を『肩代わり』させようと、彼女はそれを受け入れてしまうんだろう。だからもう、
だからもう、
『錆川紗雨に、復讐しませんか?』
その文面を見て、
送り主は『“潔白”のバルマー』と名乗っていた。以前、裕子先輩に読ませてもらった、小説の登場人物のキャラ名だ。つまりこの送り主は少なくとも裕子先輩の小説を読んだことがあるほど、彼女に近い人物なのだろう。
だけど、復讐なんて物騒な単語を送り付けてくる正体不明の人物に従うわけにもいかない。“潔白”のバルマーが何の目的で
だから無視しようとしたけど、その考えは直後に送られてきたもう一通のメッセージによって簡単に揺らいだ。
『あなたの痛みを奪った、錆川紗雨という魔王を許せますか?』
……なんでそのことを? 誰にも話してないはずだ。こんなこと、話せる相手なんて既にいない。
一方で、バルマーの指摘は
許せない。
そうだ、既に
裕子先輩の小説を頭の中で思い返す。白髪の魔王を倒すと決めたのは、魔王のかつての親友だった。
『あなたが“空白”のアルジャーノンとなるのです』
だから
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます