第18話 敵対
手芸部の見学で盛大に失敗を犯してしまった翌日。俺はアキからの追及を覚悟しながら、教室に入った。
「あ! 来たね佐久間くん!」
予想通り、アキは俺を待ち構えていたかのように教室の入り口に陣取っていた。そして俺を見るなり、ツカツカと近寄ってくる。
「ちょっと来て!」
「お、おい!」
有無を言わさず、俺はアキに腕を引っ張られて、教室の外に連れ出されてしまった。
アキに連れられた場所は、手芸部の部室だった。部室のカギはアキが持っていたようだ。
「さあ、聞かせてもらうよ佐久間くん!」
「ああ、昨日のことだろ? 俺が蜜蝋さんにあんなことを聞いたのはな……」
「そっちじゃないよ!」
「え?」
アキは怒りに満ちた表情で否定してくる。『そっちじゃない』とはどういうことだろうか。
「昨日のことだけじゃないよ。佐久間くん、どういうつもりなの!?」
「えーと、すまん。ちょっと言っている意味がわからないんだが」
「とぼけないでよ! 小夜子ちゃんから聞いたんだよ!」
そして俺を指さして、詰め寄ってくる。
「君と錆川さんが、小夜子ちゃんをいじめてるって!」
「は……?」
俺が、俺と錆川が、蜜蝋さんをいじめている? アキは何を言っている? 何がどうなって、そういうことを言っている?
「佐久間くん、どうしてなの!? なんで小夜子ちゃんをいじめるの!?」
「待て待て。いくらなんでもワケがわからない。俺は蜜蝋さんと昨日初めて会ったんだぞ。なんでその俺が、彼女をいじめてることになってるんだ?」
「でも昨日、小夜子ちゃんにあんなに辛く当たってじゃない! あんなのいじめと同然だよ!」
「だからそれにも理由があるんだ。まずはそれを聞いてくれ!」
俺が大声を出したことで、アキは少し怯んだ。その隙に会話の主導権を握ってしまおう。
「……俺が蜜蝋さんに聞きたかったのは、あの人が俺の姉さんの死に関わっている人間かどうか、そして錆川の命を狙っている襲撃者の一人なのかどうかだ」
「小夜子ちゃんが、錆川さんの命を狙っている? そんなわけないじゃん!」
「俺もあの人が襲撃者の一人とは信じがたい。だけど、姉さんの残した小説には、あの人をモチーフにしたと思われる登場人物がいる。だから俺は、蜜蝋さんから話を聞く必要があるんだ」
「いい加減にしてよ!」
俺の話を遮るように、アキは叫びだした。
「さっきから聞いてれば、小夜子ちゃんがまるで悪者みたいに言ってるじゃん! そんなのひどいよ!」
「俺は蜜蝋さんが悪者だと決めつけているわけじゃない。それを確かめるためにあの人から話を聞きたいんだ」
「でも! 君は錆川さんと一緒に小夜子ちゃんをいじめてるんでしょ!? そんなの許されないよ!」
「待ってくれ。俺はともかく、なんで錆川まで蜜蝋さんをいじめてることになってるんだ?」
錆川が他人をいじめているようには見えないし、そもそも錆川はA組で岸本からいじめを受けている。それを見て見ぬ振りをしていたのは蜜蝋さんの方のはずだ。アキの話はその事実と食い違っている。
「佐久間くん、とぼけるの?」
「え?」
「昨日、君と錆川さんが帰った後に、小夜子ちゃんが話してくれたんだよ。本当は錆川さんの方が、小夜子ちゃんを突き放したんだって」
「……なんだと?」
錆川が蜜蝋さんを突き放したなんて話は初耳だ。しかし改めて考えてみると、錆川は蜜蝋さんに負い目を感じているように見えた。ならそれが事実なのか?
「でも、いくら錆川さんの気を引きたいからって、一緒に小夜子ちゃんをいじめるのはひどいんじゃないの!? 小夜子ちゃんに謝ってよ!」
「……残念だが、それはできない」
「なんで!?」
「俺と錆川が蜜蝋さんをいじめているという事実はない。もし、蜜蝋さんが悪意でそんな噂を広めているなら、俺は彼女と明確に敵対することになるからだ」
蜜蝋さんが悪意を持っているかはまだわからない。しかし、俺と錆川が彼女をいじめているなんて話は全くのデタラメだ。それにそのデタラメを認めてしまったら蜜蝋さんに真実を聞き出すのはさらに難しくなる。だからこそ、俺はここで譲歩するわけにはいかなかった。
「……ひどい、佐久間くんがそんなひどい人だとは思わなかった」
「アキが蜜蝋さんの味方をするなら、それでいい。だが俺はそれでもデマを流す人間に屈するわけにはいかない」
「じゃあ、あくまで小夜子ちゃんをいじめたいって言うんだね?」
「だからそうは言ってない。俺は……!」
「いいよ、そんなこと言うんだったら、私にも考えがあるんだから」
アキは俺を睨み付けた後、俺に背を向けて教室に戻っていった。
まずいな、このままだと面倒なことになりそうだ。アキがどんなつもりか知らないが、このままではアキとも対立することになりかねない。
しかし蜜蝋さんが俺と錆川に敵意を持っている可能性が出てきた。そうなると彼女が錆川の命を狙う人間であるとも考えられる。
だとしても、まずは俺がやるべきこと、それは……
「錆川と蜜蝋さんの間に何が起こったのかを聞かないとな……」
やるべきことを整理した俺は、昼休みに錆川に話を聞くことにした。
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