第16話 仲介
「え? 小夜子ちゃんに会いたい?」
「ああ、アキから頼んでくれないか?」
俺としてはすぐに蜜蝋さんにコンタクトを取りたかったが、いきなり会いに行っても断られるだろう。だったらここは共通の知り合いであるアキに仲介してもらった方がいい。
だが俺の言葉に、なぜかアキは不機嫌な顔になった。
「佐久間くん! 錆川さんがいながら、もう他の女の子と仲良くしようとしてるの!?」
「え?」
「それとも、錆川さんが最近仲良くしてくれないから、小夜子ちゃんに狙いを定めたの!? 君そんな男だったの!?」
「待て待て、誤解だ誤解」
俺は必死に誤解を解こうとするが、こうなったらアキは止まらない。
「確かに小夜子ちゃんはカワイイよ! 目も大きくてぱっちりしてるし、メイクだって自分の強み活かせるようにやってるから似合ってるし、髪色も明るいけど派手すぎないし、体型もスラッとしてるし、性格も優しくておしとやかだけど! 君には錆川さんがいるじゃない!」
「……とりあえず、アキが蜜蝋さんを大好きなのはわかった」
「当たり前じゃん! 大切な友達なんだから!」
それにしても……さっきの写真の女子が蜜蝋さんなのだとしたら、倉敷先輩の情報とは随分食い違いがあるな。どう見ても地味な女子というより、ほとんどの男子が注目しそうな美人って感じだったが。
「とにかく! 小夜子ちゃんと仲良くしたいなら、錆川さんの許可を取らないとダメだよ!」
「錆川の許可?」
「当たり前でしょ! 錆川さんがヤキモチ焼いちゃうじゃん!」
「……わかった」
とりあえず、蜜蝋さんに接触するには錆川からもアキに頼み込んでもらうしかなさそうだ。しかし、上手くいくだろうか。
まだ蜜蝋さんが“空白”のアルジャーノンかどうかも、そもそも錆川の友人かどうかもはっきりしていない。仮に蜜蝋さんが錆川の友人ではなかったとしたら、彼女がアルジャーノンである可能性はかなり低くなる。
それにもう一つの懸念は、錆川と蜜蝋さんの関係が既に切れている可能性だ。アルジャーノンはかつての魔王の友人という設定だった。つまり錆川と蜜蝋さんも、今は既に仲違いしているかもしれない。もしそうだとしたら、錆川を連れていくのは無理だ。
しかしアキに仲介してもらうには、錆川を連れていくしかない。これはどうしたものだろうか。
「それならアキ、ちょっと蜜蝋さんに聞いて欲しいことがあるんだけども」
「なに? 好きな男の子のタイプとかならダメだよ」
「いや違う。実は錆川は蜜蝋さんと友達らしいんだが、俺が錆川を連れて手芸部の見学に行っていいかを聞いてほしい」
「え? 錆川さんと小夜子ちゃんって友達なの?」
「ああ。ただ錆川は蜜蝋さんと今は疎遠になっているらしいから、アキからそれとなく聞いてほしいんだ」
「……あ、なるほど!」
俺の頼みを聞いたアキは、なぜかにんまりと笑った。
「わかった、わかった。そういうことね。佐久間くんも悪い人ですなあ」
「は?」
「錆川さんと小夜子ちゃんを仲直りさせて、錆川さんからの好感度アップさせちゃおうってことでしょ? いやあ、なかなか策士ですなあ」
『しっしっし』とわざとらしく悪そうな笑い声を上げるアキ。どうやらまた勘違いをしているようだが、俺としては好都合だ。
「わかりました! このアキちゃんにお任せあれ! 今から部活だから、ちょっと聞いてきてあげるよ!」
「あ、ああ。頼む」
アキはそう言うと教室を飛び出していった。
さて、次は錆川をどうにか説得して、手芸部に連れて行かないとな……
翌日。
俺は朝早く登校し、岸本に絡まれないうちにA組から錆川を連れ出した。
「手芸部……ですか?」
「ああ、俺と一緒に手芸部の見学に行ってほしい」
「……なぜ私と一緒に行きたいのでしょうか……?」
「そこの葉山という部員が、『見学したいなら錆川を連れてきてくれ』と言ってきたからだ」
「はあ……」
錆川は釈然としない表情をしていたが、詳しく説明すると面倒なので割愛した。
「それと一つ聞きたいんだが、手芸部の蜜蝋小夜子って女子のことは知っているか?」
「……!」
錆川はその名前を聞いて、目を丸くして後ずさる。どうやら知らない仲ではなさそうだ。
「はい……中等部の時は、いつも一緒に行動してました……」
「今は違うのか?」
「……高等部に上がってからは、会っていません」
……どうやら何かを隠しているように見えるが、それを無理矢理聞き出すのも難しいだろう。
「じゃあ、蜜蝋さんに会うのは気まずいか?」
「いえ……佐久間くんが手芸部に行くのに私が必要だと仰るのであれば……ご一緒します……」
やはり錆川は他人の役に立つことに執着している。今回はそれを利用させてもらおう。
「わかった。とりあえず、見学の日時が決まったらまた連絡する」
「わかりました……」
錆川は俺に頭を下げると、教室に戻っていった。
「あーっ! 佐久間くん、やっと来た!」
「アキ、おはよう。それで、どうなった?」
アキは俺を見るなり近づいてきて、笑顔で親指を立ててきた。
「ばっちりだよ! 小夜子ちゃんが明日見学に来てくれって! 錆川さんにも久しぶりに会いたいって!」
「そうか、ありがとう」
さて、これで蜜蝋さんに接触する機会ができた。ここでなんとしても手がかりを掴む。
そしてその翌日。
「お待ちしておりましたわ、佐久間くん。錆川さん。どうぞ我が手芸部の活動を見学してくださいませ」
手芸部の部室で丁寧に俺たちを出迎えた蜜蝋小夜子と、笑顔を浮かべるアキに、俺は自らの不器用さを思い知らされることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます