第二十六話 能力の使い方
【能力の使い方】
試合開始の笛が鳴り、俺達は全速力で前へ走る。
Aフィールドは、大きな岩がそこら中に置いてあるだけのフィールドだ。
だからレフィアが一度ジャンプをするだけで、相手全員の位置が確認出来る。
「右から二人、真ん中から一人が走って来てますよ。」
レフィアが着地しながら教えてくれる。
「なら二人は右に行ってくれ。俺は真ん中から来きてるやつの相手をする。」
「わかりました!」
アランがそう言いレフィアを連れて右へ走って行った。
二人と別れた俺は前に走り続けていたが、目の前の地形に違和感を感じて立ち止まった。
二度このフィールドで試合をしたが、こんなにデコボコしていた場所なんてなかったはずだ。
「やっぱ気付くか〜。あまり時間がなくて雑になっちゃったかな?」
すると、一番大きな穴から人が歩いてくる。
「これはお前の能力か?」
俺はそいつに向かって問いかける。
出てきたのは試合前に挨拶に来たやつだった。
「そう!これは俺の能力でやったんだ。君を落とし穴に落とす予定だったんだけど、思ったより来るのが速くて痕跡を消す時間が無かったんだよ。」
能力で落とし穴を作った?
いや、きっとそんな単純な力では無いだろう。
落とし穴はあくまで色々な使い方のうちの一つに違いない。
「だらだら喋るのも楽しくないし、さっさと行くよ!」
相手はそう言って右腕を上に振り上げた。
その瞬間、俺の立っていた地面が急に飛び出し打ち上げらた。
「なんだ?」
そこまでダメージは無かったが、いきなり空中に放り出され次の攻撃への対処が遅れた。
「ぐっっ!」
俺の後ろにあった岩が急に伸びてきて背中とぶつかる。
前へ飛ばされたと思ったときには、既に目の前には別の伸びた岩が向かって来ていた。
バゴン!!
なんとか圧体で岩を砕き着地する。
「お見事!反応早いんだね〜。」
そう言って拍手をしながら歩いてくる。
「もう俺の能力は分かったかな?物体を伸ばす力さ。ただし右腕と左腕でそれぞれ動かすから、二つまでしか操作出来ないんだけどね〜。」
わざわざ弱点まで話しながら自分の能力について説明する。
自信からなのか、ただの馬鹿なのかは分からない。
「そんな面白い能力の奴もいるんだな、さっさと倒さなくて良かったよ。」
俺も挑発気味にそう言う。
別に意味なんて無い。単純にイラッとしたので言っただけだ。
「そうか、まあ頑張ってね!」
そう言い両腕を構えて攻撃する姿勢に入った。
おそらく相手が操作するのは俺の左右にある岩だろう。
相手は左腕を右に振った。
それを見た俺は少し後ろにジャンプし、目の前を通過する岩を確認する。
そのせいで相手の姿は一瞬見えなくなったが、操作できる岩が一つに絞れれば圧体で砕ける。
そして予想通り俺めがけて伸びてきたもう片方の岩を砕く。
「腕を振った通りにしか動いてくれないのか、不便だな。」
俺は馬鹿にするようにそう言う。
「なら避けてみろよ!」
完全にキレた相手が、この近くで最も大きな岩を操作し俺めがけて伸ばす。
向かってくるスピードもさっきより断然速い。
流石にこれほどの大きさとなると俺の身体能力では躱せない。
だが躱す必要は無い。俺は右手を伸ばし近づいてきた岩を消した。
「はぁ?何をした!」
相手は俺の攻撃に備え、自らの近くにあった岩を自分を守るように配置する。
「次はお前が守ってみろ!」
俺は近くにあった岩を消し、すぐに相手めがけて飛ばした。
しかし相手はそれを受け止めようとせず躱した。
やはりこれなのだ、俺の左手の弱さは。
普通、剣や岩を飛ばされてはまずただでは済まないだろう。
しかし俺の左手の飛ばす能力にはスピードが足りない。
「岩を飛ばせるのか?すごい能力だな!」
褒めているのか煽っているのかは分からないが、
油断しているのか相手は岩の操作を解除している。
俺はすぐに左手を伸ばし剣を飛ばす。
しかし、
「でも遅いよ!」
そう言って体を曲げて躱される。
だが、相手に俺の飛ばしたものを躱せるだけの力があることが分かった。
だから今こそ試してみよう。
俺は左手を伸ばし、さっき消した大きな岩を飛ばす。
だがそれは相手の目の前の地面に衝突し、辺りに礫を飛び散らしながら砕けた。
「何?」
相手も分かっていない様子で、飛んでくる礫を躱しながらそう言う。
「さあ避けてみろ!」
俺はそう叫び、琴の都で貰った強力な剣を、試合前に消した空気と同時に放出した。
すると突風と共に放出された剣は、通常で飛ばした時よりも何倍もの速さで飛んでいき、
「がっ!」
相手の腹に突き刺さった。
やはり上手くいったか!
イザナギの落とした隕石を消して飛ばした時、落ちて来た時とは違う電気の纏い方で飛んで行ったのだ。
あれはつまり同時に岩と電気を飛ばしていたんだな。
相手は蹲りなんとか声を出す。
「はは・・・全く見えなかった・・・負けたよ。」
相手は最後にそう言い動かなくなった。
ピーー
すぐに音が鳴り、相手は医療室に連れて行かれた。
俺もフィールドから出ようかと思ったとき、
「っ!いってー。」
今更になって背中に痛みが走った。
試合中はアドレナリンのおかげで痛みを感じるにくくなっていたようだ。
まあ生身で岩とぶつかったら当然痛い。
何もしていないときでも圧体をする癖を付けないとな。
「やりましたね功善さん!流石です!」
フィールドから出ると嬉しそうなアランとレフィアが迎えてくれた。
「私達はこそこそ隠れる相手に中々大きな一撃を与えられず時間がかかってしまいました。」
そうは言っているが、実際は俺に協力してくれたんだと思う。
俺が試したいと言ったことをできるように。
「これでワンステージの相手には全勝したな。」
あとは出来るだけ勝利数を稼いでトップ3以内に入れば昇格だ。
そしてその後も全戦全勝し、時間の問題で一位にはなれなかったが無事ツーステージ昇格を果たした。
「楽しいですねー、チャンピオンタワー。もっと早くからやってれば良かったな。」
ツーステージに上がってもアランのモチベーションは下がることなく、むしろどんどん上がっている。
「明後日の大会ではもっとレベルが高くなるでしょうね。」
「そうだな、大会ではステージの壁が無くなるらしいからな。」
まあ無くなるといっても全ステージの選手が同じ大会に出る訳では無い。
ワンステージからセブンステージ、エイトステージからファイナルステージと二つの大会に分けられる。
「もしかしたらロキ達と試合することもあるかもね。」
アランは嬉しそうにそう言う。
「とりあえず明後日に向けて今日と明日は休もう。」
みんなのことを考えてそう言ったつもりなのだが、「えーやだ。僕一人でも個人リーグに出てるよ。」
とアランが急にそんなことを言い出す。
「どんだけハマってんだよ。」
まあでもアランなら大丈夫か。
それに、初めて自分の意見を言ってくれたようで嬉しかった。
「じゃあ俺達はカナタ王国で適当にぶらぶらするか?」
俺はレフィアにそう聞いた。
「ん?・・・あ、行きます、行きましょう!」
俺からそんなこと言われると思っていなかったのか驚いたように返事をする。
「よし、じゃあ今日はもう帰ろう。」
そう言って俺達はカナタ王国に帰った。
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