第二章
第十八話 出発
【出発】
あの戦いから一週間が経った。
俺はただひたすら、圧の特訓をしていた。
フォースのメンバーは皆そうしている。
アランはこの組織は十番に入るかどうかと、そう言っていたことを訂正し、五十番と言った。
たった一人に惨敗し、その勝てなかった相手が他の人に惨敗する。
次元違いの世界を見せられ、俺たち全員が自分たちの弱さを知った。
あの戦いの次の日の新聞には、マーダーグループとクライン一家が手を組み、サイトスクールの本拠地を襲撃。
リージ氏とデザスト大将の活躍により追い返すことに成功。
しかしリージ氏はかなりの重症を負う、と書かれていた。
そして、フォースのメンバーと殺し屋二人のレベルが上がっていた。
俺を除いて。
俺は、警戒すらされない、そんな相手だったってことだ。ただ能力が珍しいだけ。
その新聞を見てから俺は、圧の特訓を始めたんだ。
圧波をただひたすら磨いていた。
レフィアから言われた、才能があるという言葉。
その言葉を信じて特訓し、なんとか体を動かさずに圧波を飛ばせるようになってきた。
今日はここまでで終わろう。
そう思い部屋に戻ろうとする。
しかしそこで魔王様と出会った。
「やあ功善君、ちょっといいかな?」
そう言い会議室に入り腰をかける。
「とても大事な話だ、よく聞いてくれ。」
改めてそう言われ少し緊張する。
「君に頼みたいことがあるんだ。つい先日危険な目に合わせたばかりで申し訳ないと思うが、行ってもらいたい場所があるんだ。」
申し訳ないなんてとんでもない。このチャンスを待ってたんだ。
「チャンピオンタワーという、闘技場があるんだ。
そこでは毎日のように賞金を求めて強者が戦っている。」
その賞金を求めて戦いに行けばいいのだろうか。
毎日行われているような大会にそんかに金がかけられているのか?
「そして、あと一週間後くらいだろうか。金の変わりに様々な道具や武器が景品となる大会があるんだ。その大会に出て武器を調達して欲しい。」
なるほど、金じゃなくて武器か。
「一週間後ですか?ならその大会ように修行をしたいんですが、ルールとかはわかっているんですか?」
賞金が出るような大会がただの能力バトルとは思えない。
例えば圧のみで戦うとか。
「いや、悪いがその時間はないんだ。ウィルインは一度見た場所にしかゲートを開けない。だから今回は徒歩で行ってもらおうと思う。」
「徒歩ですか?私は構いませんが、ちゃんと辿りつけるでしょうか。」
俺はこの世界の地図を知らない。
移動は全てウィルイン任せだったし、この城から離れることがなかった。
「大丈夫、ルートはちゃんと説明する。まずは君に行くと言って欲しい。」
「行かせて下さい。次はちゃんと目的を果たしてみせます。」
「ありがとう、助かるよ。」
俺は自分が弱いことを知った。
世界には次元が違うようなやつが沢山いる。
いつかそいつらを超える為の、意味ある旅にしよう。
「その大会は三人一組で出場できる。だからアランとレフィアを連れて行くといい。フォースの頭達は一時的に私が指示を出す。」
あの二人と一緒なら安心だ。
「分かりました、今夜中にでも出発しようと思うのですが大丈夫ですか?」
「あぁ、問題ない。気をつけて行ってきてくれ。」
「分かりました。」
そこで魔王様との話を終え、アランとレフィアに説明する。
得に驚いた様子もなくすぐに承諾してくれた。
十一時になったくらいで、俺達は頭達に見送られ出発した。
「まずは琴の都という国に向かう。そして次にカナタ王国、そこからチャンピオンタワー行きの船が出ているらしい。」
「カナタ王国って遠いですねー。」
「ウィルイン様の能力のありがたさを感じますね。」
俺たちがあの日から変わったことはもう一つある。
それは、俺が二人に壁を無くそうと言った。
とりあえず様呼びや敬語、そして上下関係を全て取っ払い、友達のような関係になった。
俺よりもこの二人の方が強さは何倍も上なんだ、こっちの方が俺も楽だ。
このまま歩いていれば、明日の昼には琴の都に着くらしいが、
「海賊、盗賊、山賊なんてものがうろついているらしいからな。しかもちゃんと連盟からのレベル付き。面倒だよな。」
もしかしたら、この山を降りたところにレベル1万超えの賊がいる可能性だってあるだろう。
それほど実力が必要な世界ってことだ。
俺の目標はとてつもなく高いだろうが、その方が頑張れる。
それからこの世界について話ながら都を目指し歩き続けた。
得に賊などと出会うことはなく、予想より三時間早く都に着いた。
時刻は午前九時、流石に疲れた俺達はこの国で疲れを取ることにした。
二人はハーフということを隠すためにそれぞれマントとフードをしていた。
「朝からうるせー。」
アランがそう言い嫌そうな顔をする。
琴の都、名の通り琴に関係するものが沢山置かれていて、どこからかは常に琴の音色が聞こえた。
「まるでお祭りですね。まあ疲れを癒すなら丁度いいかもしれません。」
「まあそうだな、それぞれやりたいことがあるだろうし、十二時になったらまたここに集まろう。」
二人とも頷きそれぞれ別行動をとる。
前までなら許してくれなかったかもしれないが、少しは信頼してくれているのかもしれない。
俺は何か食べ物を探して歩こうとするが、
「多い・・・。」
あまりの人の多さに嫌気がさし、俺は道をそれて細い別の道から奥に進む。
すると、道の奥から一人の少女が走って来た。
「助けてくれませんか!」
そう言い少女は後ろに隠れる。
すると向こうから数名の足音が聞こえてきた。
咄嗟に俺は右手で少女を吸い込み、何事もなかったかのように歩き出す。
すると三人の男性が走ってきた。
「おい君、ここに女が通らなかったか?」
そう言い警棒のようなものを持って近づいてくる。
「はい、いましたよ。金髪の子ですよね?あっちに走って行きましたけど。」
そう言うと三人は無言で横を通り抜けて行った。
俺はしばらく歩いて宿のような場所を借り、中の部屋で少女を出した。
「わわ!びっくりした!」
出てきた少女は12歳くらいで、金色の長い髪に宝石のようなものを沢山身につけていた。
「すごい!ワープさせる力があるんですか?」
そう言い興奮気味で少女が聞いてくる。
ワープとは少し違う。
俺の右手に吸い込まれた生物は、俺の脳内にいる間の記憶はないらしい。
だから吸い込まれてからどれだけ時間が経っても、一瞬で出てきたと思うみたいだ。
「まあ、そんな感じだ。」
無闇に能力は教えず適当に答える。
「あの!助けてくれませんか!お礼は何でもします!」
そう言い少女が頭を下げる。
助けてくれと言われても、俺にはやるべきことがあるんだ。
しかしお礼が何かによるな。
「助けたお礼って、何ができるんだ?」
「この姿だと信じてもらえないかもしれませんけど、私この国の王女なんです!」
王女!?
そんな偉い奴が何してんだ?
「ですが、とある事情で追われる立場になってしまって。助けてくれた暁には王女の権力で何でもします!」
何でもか、その何でもに武器を渡すってのがあるかもしれない。
しかも王女様からならかなり強力なやつが貰えると期待できる。
「あぁ、助けてやるよ。名前は?」
「あ、ありがとうございます!ソティラです!」
「そうか、よろしくソティラ。俺のことはトーマって呼べ。いいな?」
そう言い俺は手を差し伸ばす。
するとソティラは泣きそうな顔で手を握り、
「はいっ!」
と元気よく返事をする。
かなり予定はずれたが、目的が同じなら構わないだろう。
俺はソティラを連れて宿を出た。
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