第十四話 本当の仲間
【本当の仲間】
急いでイズハの元へ向かう。
思考を邪魔される。考えてもいないことが頭の中に入ってくる。
いつもの部屋へ向かい、ドアを開ける。
「おっ、やっぱり来たか。」
そこにはイズハがいた。
「良かった、いてくれて。前言ってたよな?どうしても分からなかったら聞きに来いって。」
「うんっ言ったね。」
「俺がどうなっているか、分かるか?」
急ぎ口調で質問する。
本当にこいつに分かっているのかは分からない。ただもう頼れる人がイズハしかいない。
「昨日まではね、君の中のもう一人の君、そして普段の君が順番に体を借りて行動していたんだ。」
もう認めている。俺が二重人格なことは。
「けど今は、同時に二人が同じ体に入ってしまっている。これがどういうことかわかる?」
分からない・・・そう言いたかった。
だがもう頭が理解している。
「体を・・・乗っ取られてかけているのか?」
「そうだねっ。」
一気に血の気が引いていくのを感じる。
一瞬でも気を緩めれば二度と戻って来れない気さえする。
「私の能力はね、相手の思考を読む力なの。」
思考を読む?
そんなので俺の症状が分かるのか?
「私が君に能力を使うと、二人分の思考が入ってくる。」
俺は恐怖で座り込んでしまう。
今ももう一人の俺が何かを考えている。
そんなことを直接言われて正気を保っていられるやつなんているだろうか。
「もう一人の君はね、君のトラウマから生まれた闇の姿だね。」
俺のトラウマから生まれた闇の姿?
トラウマといったらあの事件しか出てこない。
いや、間違いなくそれだろう。
そしてそれの闇の部分とは、
「正義と仲間に裏切られた、憎悪と悪意の姿。ただただ復讐のことしか考えていない、そんな奴だよ。」
さっきも聞こえた謎の声。
正義や仲間なんてゴミ・・・。
やっぱりあの声はもう一人の俺だったんだ。
「俺は、アランやレフィアと出会って、一緒に頑張りたいと思った。守れるようになりたい、そんな風に思ったんだ。」
イズハは静かに俺の話を聞いてくれる。
「ただ、心のどこかで思ってたんだろうな。また裏切られるのではないかって。だから、もう一人の俺に乗っ取られそうになったんじゃないのか?」
俺は、もう一人の俺のことを考える。
トラウマから生まれた闇。
つまり、俺にできた醜い心が実体化したんだと思う。
「どうすればいいと思う?」
イズハが優しく聞いてくる。
そんなの決まっているだろう。
俺はもうあいつらの上司で、仲間だ。
俺が信じたんだ。もう一人の俺にも分かってもらえる。
「レフィアとアランを呼んで貰っていいか?もう一人の俺と手合わせさせよう。」
「イズハ様に呼ばれたのですが、どうかなさったのですか?」
「俺はな、功善の中のもう一人の俺だ。二重人格なんだよ、俺。」
「「・・・え?」」
「こいつはさぁ、昔仲間に裏切られたんだよ。そしてそのトラウマと憎悪から、仲間なんて駒としか思っていない、ただ奴等への復讐のことしか考えていない、そんな俺が生まれたってわけ。」
「そう・・・だったのですか。」
「でさぁ、俺と勝負してくれよ。仲間面したゴミに、俺が裏切られるのはうんざりなんだよ。だからお前らを倒して、俺を守らないといけない。」
「分かりました・・・。」
「レフィア?本気?」
「勝負は受けますが、負けるつもりはありません。あなたを倒して、本当の功善様に戻ってもらいます。」
「そうか・・・じゃあ行くぜ。」
「はい。」
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俺が生まれたのは、本当の俺を守る為だったんだと思う。正義に、仲間に裏切られ、死刑を宣告された俺の心の支えになるものは、憎悪だったんだ。
しかし、こっちの世界に来て、また新たな仲間と呼べるやつらに出会った。本当の俺も、最初は信頼なんてしていなかった。
ただ、時間が経つにつれて心を許していった。
頼りになると、出会えて良かったと、そんな風に思って行ってしまった。
俺は怖かったんだ、またこいつの心が壊れるのが。
また大きなトラウマと恐怖を、心に抱えることが。
だから焦って、何回も入れ替わり、闇の心を戻そうとした。
復讐だけに囚われている間は、何にも裏切られることはないのだから。
だがこいつは・・・
もう一度だけ・・・信じようとした。仲間を。
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頭に大きな一発を食らい、俺はなくなっていく意識の中でこいつらに最後のお願いをした。
「俺を・・・守ってやってくれよ・・・はぁ、仲間なんだから。」
俺はしっかり目を合わせてそう言う。
「はい、この命に変えてでも!必ず!」
レフィアは真っ直ぐに俺を見て答えてくれる。
その言葉を聞き安心した俺は、初めて笑った。
やっぱり良いよな。
笑うって。
目が覚めた俺は、
「いっって。」
何かを考える前に痛みが体を襲った。
「おかえりなさい、功善様。」
「おかえりなさい。」
レフィアとアランが座りながら俺の治療をしてくれている。
「もう一人の功善様から、最後のお願いをされました。」
最後のお願い?何だろう。
「俺を、守ってやってくれと。」
もう、俺の中には俺しかいないだろう。
今後この問題で困ることもないし、怖がることもなくなった。
だけど・・・
良い奴だったんだな、あいつ。
俺の心に少しだけ残った、もう一人の俺の想いと記憶。
「ありがとう、けどもう大丈夫。新しい仲間達と頑張っていくよ。」
俺は消えたもう一人に向かってそう告げる。
「頑張っていきましょう。」
「頑張りましょう。」
すると二人が嬉しそうにそう言ってくる。
「あぁ、頑張ろう。」
俺も笑顔でそう答えた。
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