第十二話 圧
【圧】
次の日の朝、俺はレフィアのところに向かっていた。
昨夜イズハに言われたことはしっかり記憶に残っている。今でもいつ乗っ取られるか分からないと、そう思ってしまうだけで恐怖に襲われる。
だが俺にはやるべきことがある。
いつか来るかもしれない日のために、もう一人の俺にも力が使えるように。
俺はレフィアの部屋の前につきノックをする。
「功善だ。レフィアいるか?」
「はい、少々お待ち下さい。」
と返事が返ってくる。
部屋の前で待っているとドアが開けられ、戦闘服姿のレフィアが出てきた。
「お待たせしました。どのような御用件で?」
そう言い丁寧に聞いてくる。
「ちょっと聞きたいことがあってな。今までも何度か気になっていたんだが、中々聞けるタイミングがなくてな。」
「分かりました、立ち話もなんですし、どうぞ中に。」
そうやって部屋の中に案内される。
日本にいた頃の女子の部屋ほど明るくもなく、俺やアラン達の部屋ほど暗くもない。
昔なら女子の部屋に入るなんて緊張しただろうが、死刑を宣告されたあの日から俺の心は歪んでしまったのだろうか。
俺は椅子に案内され、ベッドに座るレフィアに質問する。
「俺が聞きたいことは圧についてだ。」
この世界に存在する生物には必ず宿っている力だ。
「圧ですか?」
一応レフィアには圧について一度説明をもらっている。だが俺が聞きたいのは圧の使い方だ。
「頭達や、連盟の奴等が使ったいた赤い光を纏うやつ。あれが圧でいいんだよな?」
あれで俺の攻撃を無効化されたんだ。
詳しく知っておきたいし自分でも使えるようになっておきたい。
「はい。右手に纏っていたというのは圧芯ですね。一箇所に圧を集め大きな力を出すことができます。」
圧芯というのか。あれで高速に飛ぶ剣を掴まれたときはかなり焦ったな。
「他にはこの間功善様も使われた圧波、そして体全体に圧を纏い身体能力と防御力を上げる圧体、五感を更に研ぎ澄ます圧感、そして、体の修復を行う圧癒の計五つの使い方があります。」
じゃあ昨日の二等兵が俺の攻撃を防ぐために使ったいたのは圧体か。
しかし圧癒なんてものがあるなら、火傷したあの状態からでも生きられた気がするが。
「圧癒を使うのに、何か条件とかあるのか?」
「いえ、とくに条件なんてものはありませんが、そもそも圧の力を使うのに体力と集中力を要するので、もう体を動かすことすらできないダメージでは圧癒なんて使えないんです。」
なるほど。あいつは使わないんじゃなくて使えなかったのか。
一通り圧について詳しい説明を受け、俺は本題に入る。
「ちょっと圧の特訓をしたいんだが、今日暇か?」
戦闘服の姿からどこかに行くのだとは思うが。
一人では中々難しい。レフィアには俺の能力の件でも良いアドバイスで力になってもらっている。
だから一緒にやってくれると非常に助かるのだが。
「少し外出しようと思っていましたけど、功善様が特訓されるのなら付き合いますよ。」
「そうか。じゃあちょっと付き合ってもらえるか?」
「はい。喜んで!」
そう言って笑顔で答え部屋を出ようとする。
アランといいレフィアといい、本当に頼りになる仲間を持った。
いつかこの恩を返せるときが来ればいいな。
城を出ていつもより少し遠い場所に移動する。
「功善様は一度、圧を発動されていますので、コツさえ分かればすぐにでも使えますよ。」
俺は一度無意識に圧波を使用したこたがある。
それも特殊な発動の仕方だったみたいで、レフィアにも称賛された。
「では初めに、目を瞑り体の中の圧の流れを感じて下さい。」
体に流れる圧の流れか。そんなもの感じられるのか。
俺は目を瞑り、静かに体中の圧の流れを感じようとする。だがそんなもの何も感じない。
そもそも俺にそんなものが流れているかすら怪しい。
「私は圧感を使っているので分かりますが、功善様の体からはとても大きな圧が溢れています。きっと感じることができると思いますよ。」
圧感を使えるとそんなことも分かるのか。
俺はもう一度目を瞑り、体中に意識を向ける。
深く、深く、意識が静まる中で自分の心臓の音が聞こえる。
それと同時に、体中に熱さを感じた。
これが圧なのかもしれない。
しかし、そうやって無駄なことを考えてしまったせいで集中が途切れてしまう。
「あぁ、せっかく熱を感じられたのに。」
しかしあそこからどうすればいいのだろう。
「もう・・・そこまで。」
すると前に立っていたレフィアが嬉しそうな、驚いたような、そんな表情で俺を見てくる。
「そこまで行けたなら、もうあとは簡単です。さっきの熱を思い出しながら右手に力を入れて下さい。」
言われたとおりにやってみると、右手に熱を感じる。目を開けて見てみると赤い光を纏っていた。
「うお、できた。」
「功善様の、集中力と圧の大きさが素晴らしいのです。通常では熱を感じることがとても難しいのですよ?」
俺は右手に入った力を抜き、圧を解除する。
「ありがとうレフィア。またお世話になった。」
素直に感謝し、お礼を言う。
「いえいえ、では私は少し出かけますので特訓の方頑張って下さい。」
「あぁ。気をつけてな。」
そう言いレフィアは青い光を纏い山の向こうへ消えていってしまう。
本当にあいつはコツを教えるのが上手だ。
今後もきっと世話になるだろうな。
アランもレフィアも、本当に頼れる仲間だ。
頭が痛い。意識が薄れていく。
「仲間じゃねえ、駒だ。俺が生まれた理由を忘れるな。」
また誰かの声が聞こえる。
いや、もう分かっていた。もう一人の俺の声だと。
「思い出せ」
視界がなくなり、意識が失われかける。
「仲間なんて、裏切られて終わりだ。」
完全に失った意識の中で、俺は夢を見ていた。
日本にいた頃の。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます