第十一話 二重人格

【二重人格】


見事全員世界連盟協会の奴等に勝利し、迎えに来たウィルインのゲートで城へ帰って来た。

「これで更にレベルが上がったはずだ!」

「俺もいつかギンさん超えてみせますよ!」

「お前には無理だな。」

ファーストのメンバーはどうやらレベルに拘っているようだ。ギンにぴったりの部下だな。

「ではアラン様、功善様、失礼します。」

「失礼します。」

ガイとギランは丁寧に挨拶をしそれぞれ帰っていく。

真面目だな。鬼や竜なんてもっと暴れるものだと思っていた。

流石は魔王軍といったところか、しっかり統率が取れている。

「そういえば、戦闘が始まる前、向こうの上等が俺達のことをマーダーグループって言ってなかったか?」

隣にいたアランに尋ねる。

確かあいつはそういっていた。

そのときは戦闘前ということもあり対して気にならなかったが、魔王軍ではないのか?

「我々は魔王軍と名乗っていますが、連盟の奴等はマーダーグループ、犯罪集団と呼んでいます。」

犯罪集団か。

皮肉でそう呼んでいるのか。それとも、

「連盟の奴等は魔王様の存在を知りません。」

やっぱりか。未来を見ることができる組織のトップ。そんな存在が魔王を名乗っていれば嫌でも魔王軍と呼ばれるだろう。

しかし向こうの上等は知らないようだった。

「だから、ただの人殺し組織。マーダーグループと呼ぶのです。」

「この世界は、国際連盟協会対魔王軍の争いで成り立っているのではないのか?」

魔王軍、そう言われると世界の敵のような感じがするが、犯罪集団と言われてもそこまで大きな組織には感じない。

「我々の組織は、よくても十番に入るか入らないか程度の戦力ですよ。」

それは驚いた。

しかし確かに違和感はあった。

世界の脅威となる組織の最高幹部や幹部に、あれほどの自信を持って戦えるだろうか。

しかも魔王様の存在を知らない。

「そうか。じゃあ魔王様の目的ってなんだ?」

俺はてっきり世界征服的なのかと思っていたが。自分の正体も明かさない、戦力もトップクラスで強いわけではない。何がしたいのだろうか。

「この世界には、色々な組織があります。財宝を狙う盗賊や海賊、世界中の様々な動物や植物を狙うハンター、ある特定の種族に対して特化した軍事組織、戦争国家、殺し屋、グループ、そしてそれら全ての頂点に立つ世界連盟協会。」

多いな。しかしやはり一番は奴等なのか。

「どのグループにもそれぞれの目的があり、その目的を果たすために、ときに世界連盟協会と戦ったりはします。」

盗賊や殺し屋、戦争国家なんかは明らかにその対象だろう。

「しかしこのグループは、世界連盟協会を潰すのが目的の組織なんです。」

なるほどな。だけどかなり難しい話だろう。

今の戦力でも十番に入るかどうかの境目で、そんな俺達が狙うのは圧倒的なトップ。

だが、

「そうか、なら良かったよ、この組織に入って。」

アランが不思議そうにこっちを見る。

俺はアランの方に向き直り、

「共に潰そう、奴等を。」

そう言って手を伸ばす。

アランは驚いた様子で俺の手を見るが、すぐに両手で俺の手を握り、

「はい!頑張りましょう!」

そう言って笑う。


その後俺はギンに頼まれて今日のことを魔王様へ報告に向かう。

しかしいつもの部屋で待っていたのは魔王様ではなくイズハだった。

「お〜お疲れ。魔王様いないよ〜。」

いないのか。ギンにはあの部屋にいるはずと言われたんだけどな。

いないなら仕方ない、部屋に戻るか。

そう思い部屋から出ようとすると、

「あー待って待って、私君のこと待ってたの。」

イズハにそう言われ呼び止められる。

「待ってた?なんで。」

俺とこいつに接点は全くと言っていいほどない。

むしろ俺がこの城に来たあの日以来話してもいないしろくに会ってもいない。

「君さぁー、今悩んでるでしょ?」

悩んでる?なんのことだ。

逆に悩み事が一つも無いやつなんているのか。

「なんのことだ。」

とくに興味もないので適当に返事をする。

俺はレフィアのところに話があるのだ。

こいつと無駄話をする気なんて無い。

「じゃあ教えてあげるよ。君の秘密。」

一々周りくどい言い方に飽き飽きしてくる。

なんだ、と顔だけイズハの方に向ける。

「二重人格」

それまでヘラヘラしていたイズハが真面目にそう言ってくる。

だからこそ俺はその言葉を真剣に受け止めた。

少し前までなら、何言ってるんだと気にも留めなかったかもしれない。

だけど、今は違う。

自分でも薄々感じていたことだ。

俺は無意識に行動していたのではない。

意識を乗っ取られていたのだ、もう一人の自分に。

「何故それが言える。何故お前はそんなことを知っている。」

イズハ、というよりは、自分が意識を乗っ取られているかもしれない、という説に現実味が増したことへの恐怖が俺に襲いかかる。

「それは私の能力のおかげだよ。けどそれはまだ言えない。君が、ちゃんと乗り越えて強くなるために、私の力は頼っちゃいけない。」

無性に腹が立つ。恐怖を抑えるために怒りが募る。

「君は、近いうちに選ばなくちゃならない。とても大事なことを。」

何を言ってるんだこいつは。もっと的確に教えろ。

「それじゃ、どうしても分からなかったら私に聞いてね。」

それだけ言い残しイズハは部屋から出て行く。

今もこの先も、この問題が解決するまで頭から離れないだろう。

(君は選ばなくちゃならない。とても大事なことを。)

もう気づいている。何を選ばないといけないかを。

だから怖い。

自分が消えてしまうのではないか。

せっかく、ちゃんと仲間と呼べる存在に出会えたのに。

俺はレフィアの元へ行くのをやめ自室へ向かう。

この組織に必要なのは・・・

俺じゃない。

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