第十話 もう一人の俺

【もう一人の俺】


俺の方に向かって2人の2等兵が向かってくる。

俺は右の兵士に左手を向け、脳内から剣をイメージし、飛ばす。

ついさっき武器倉庫で消しておいたものだ。

先端を相手に向け高速で飛ぶ剣が敵の右脚に突き刺さる。

「ぐぁ!」

叫び声をあげ崩れ落ちる兵士を庇うように、もう1人の兵士が前に立つ。

「何だ?何の力だ!」

そう叫びながら兵士は、右手と両足に赤い光を纏い、かなりのスピードで突っ込んでくる。

俺はそいつに向かって右手を突き出し、

「消えろ」

竜巻を飛ばす。

しかし紙一重で避けられ、思いきり腕を振り被って飛んでくる。

俺はそこに左手を突き出し、コトのシールドを出す。

実は昨日、アランとレフィアと別れた後、コトとノーズに会いに行っていた。

俺の能力と事情を話すと、喜んで力を貸してくれた。

そのため今俺は3人分の能力を使える。

といっても、シールドは後2枚で、熱は3回分しかないが。

シールドを思いきり殴った兵士は痛がる様子もなく距離を取る。

「竜巻にシールドに剣だと?手配書にも載ってないやつが、それほどの能力を持っているとは。」

そう言い右耳を押さえ何かを言っている。

誰かと連絡を取っているのか?

俺は左手を突き出し剣を飛ばす。

しかし次は赤い光を纏ったままの右手で掴まれる。

「それはもう食らわねぇよ!」

そう言い男は剣の先端を折り投げ捨てる。

想定外だ。まさかあれを受け止められるとは思っていなかった。

あいつの後ろでは倒れていた兵士が起き上がっている。

面倒だな、どうやって倒そうか。

そう考えていると、

ドーーン!!

と大きな音が近くで聞こえた。

そっちを見ると4人の2等兵そして上等兵と1人で戦うアランが見えた。

「恥ずかしいな、俺は。」

駒が頑張っているのに、俺は何をしているんだ。

これは勝負じゃない。

対等なルールの中の戦いでもない。

俺がやるのは、

「一方的な虐殺だ!」

俺は左手で後ろに熱を放出し前に飛ぶ。

手前の兵士が俺に向かってジャンプしてくるが、俺は自分の前にシールドを貼り左手を後ろに構える。

相手はシールドを出されることを分かっていたのか、空中を蹴りもう1段ジャンプし俺の背後に回る。

「くたばれ!」

そう言い殴りかかってくる兵士に向かって、あらかじめそっちに構えていた左手から、残りの熱を一気に放つ。

「くっ!」

もろに熱を受けた兵士が後ろに飛んでいく。

そして俺は熱を飛ばした勢いで更に前へ進む。

その先にはようやく回復したであろう兵士が右足に包帯を巻き立っていた。

俺はそいつに向けて部屋内にある剣を乱射しながら着地する。

逃げられないと悟った兵士が、全身に赤い光を纏い受け止めようとする。

俺は距離を詰めながら剣を放出し続け、1本だけ残し相手に左手で殴りかかる。

相手は無数の剣を弾くためその場から動かず堪えていたが、もう飛んでこないと分かり体中の光を右手に集めて雄叫びをあげながら振りかぶる。

「おらぁぁぁ!」

グサッ

俺とこいつの距離は約2メートル。

しかし、俺が消した中で最も長かった剣が、俺の左手に掴まれていた。

「ぐはっ!・・・んぁ!」

相手は突然現れた剣に反応できず、心臓に剣を刺されていた。

「はぁ・・・はぁ・・・っぐぁ!」

光は消え、膝から崩れ落ちる。

俺の勝ちだ。

倒れて動かなくなったこいつの周りに弾かれた剣を消しながら、俺はもう1人の方を見る。

全身の皮膚が焼け、なんとか呼吸を保っている状態だった。

俺が近づいていることにも気づかず、今を生きるためになんとか息をする。

俺は考える。

岩石で潰されすぐ死ぬか、このまま時間をかけて死ぬか、どっちが辛いだろうか。

すると俺に気づいた兵士が小声で何か言っている。

「た・・・け・て」

助けて?何を言ってるんだろうか。

俺はこいつの顔を踏みつけ、

「お前らはゴミの処理に、躊躇したことがあるのか?」



ついに死んだ兵士から離れアランの方へ向かう。

すでに死んでいる四人の兵士の真ん中で、上等兵が倒れていた。

「はぁ・・はぁ・・くっ!」

アランは右脚に赤い光を纏い、上等兵の頭の上へ持っていく。

「最後に何か言い遺したことはあるか?」

すると上等兵はニヤリと笑い、

「おま」

グシャ!!!

「おま、ね。次また連盟の奴等に会ったら伝えておいてやるよ。」

足を上げたアランの下には、ぐちゃぐちゃの肉塊があるだけだった。

「お疲れ様です、功善様。」

「あぁ、お疲れ。」

若干引き気味に答えた俺に、

「安心して下さい。こんなことをするのは魔王軍でも僕だけですから。」

確かアランはこいつらに恨みがあるような顔してたな。だとしてもここまでやるとは。

「僕達はここで待ちましょう。いずれみんな集まります。」

「そうだな。」

そう言い俺は思い出す。

さっきの二等兵の言葉を。

何故二等兵が倒れているのか分からない。

その記憶はないからだ。

ただ・・・

「俺がやったんだろうな・・・」

とても気持ちが良かったのだ。

それだけは体と脳が覚えているのだ。

皮膚が焼け、必死に生きようとする二等兵を見て、俺は気分が良かったんだ。

最近この体験をするとき、身に覚えのない記憶があることがある。

そしてその記憶の後は決まって気分が良い。

俺は、無意識に何かをしているのではない。

俺の中には・・・もう一人俺がいる













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