第五話 能力
【能力】
演説を終え自分の部屋に戻ってくると、やはりドアがなかった。
あのときは後ろを見ずにドアを閉めたので、何故消えたのかは分かっていない。
ゆっくり部屋に入ろうとする。なんともなく入ることができた。ただ見えなくなっているとかでは無く、本当に消えたのだ。
確認のため、何度か部屋にあったものに触れてみるが消えはしない。
「あのとき、どんな事思ってたっけ。」
感情と能力が関係しているのかもしれない。
あのときは少し過去のことを思い出して苛立ってたんだ。そして、強くドアノブを握っていた。
とりあえずやってみるか。
部屋の真ん中に置いてある椅子の背もたれを強く握ってみる。少し過去のことを思い出して握ってみたりしたが何も起こらない。
「気持ちじゃないとしたら、言葉か?」
あのときは過去の中の奴等を思い出していたんだ。
あのときの恐怖に比べればなんともないと、記憶の中で笑っている奴等に俺はこう思ったんだ。
[消えろ]と。
「・・・」
とてもしっくりきた。これが答えだろう。
ほぼ確信しながら俺は椅子を再度握り直しこう言う。
「消えろ」
その瞬間、右手から黒い風が竜巻のように現れ一瞬で椅子が手の中に消えていった。
手にはなんの感触もなく音すらない。
ただ一瞬で椅子が吸い込まれただけだった。
「なるほど、これが俺の能力か。」
これならさっきのドアが消えていたのも納得がいく。吸い込まれたのだ、俺の右手に。
しかし何か違和感があった。
脳の中に椅子とドアが置いてある部屋のような記憶があるのだ。こんな部屋見たこともないが、そこにあるドアと椅子は俺が消したものだった。
「もしかして。」
そう思い右手を突き出し椅子を出すイメージをしてみる。しかし何も起こらない。
次に左手を出し椅子を出すイメージをすると、
バン!!
と音が鳴り左手から出てきた椅子がもの凄いスピードで壁にぶつかる。
その衝撃で椅子はバラバラになっていた。
「びっくりした。」
なんとなく左手でやってみただけなので、まさか成功するとは思わなかった。
けどこれで分かった。
俺の能力は、右手で物体を吸い込み、脳内にある空間に保管できる。そして、取り出したいものを左手から出すことができる。
「これは便利だな。」
自分の能力が分かったってのにあまり驚かない。
それよりも、復讐の為の力を得られた事への快感が体中に巡る。
もっともっとこの能力のことを知っていく必要があるな。
そう思いバラバラになった椅子を消そうとした時、「あれ、功善様?ドアは?」
困惑した様子のレフィアが部屋の前に立っていた。
「あー、それな。」
そう言い、できるだけゆっくり、壁に手を近づけてドアを出すイメージをする。
バン!
とさっきよりは小さな音だが、それでも勢いよく壁にドアがぶつかる。
「まだまだ練習が必要だな。」
そう言いドアを持ち上げ元にあった場所に設置する。
「えーっと、今のは、功善様の能力でしょうか?」
レフィアは驚いた表情でドアと俺を交互に見ている。
「多分な。右手で触れたものを消して、左手から出せる。そんな感じだ。」
少し雑すぎる説明だが大体は分かって貰えるだろう。
「それはすごい力ですね。消したものは別の空間に移動し、そこから左手で出すといった感じでしょうか?」
すごいな、全くその通りだ。やはり魔王軍の幹部として過ごしてきただけあって、そういうのには詳しいのかもしれないな。
「あぁ、本当にそんな感じだ。」
この力がどれほどのものなのか、今は分からない。もっとこの力について知りたいな。
どれくらいの大きさまで吸い込めるか。物体だけなのか?吸い込める量の上限は?
確かめないといけないことは沢山ある。
とりあえず外に出て色々試しに行くか。
「あ、功善様少しお話宜しいですか?先程の力と部隊について。」
ああ確かそんなこと言ってたな。色々考え事してて忘れてた。
「あぁ、できるだけ手短に頼む。」
「分かりました。では先程の力について。」
先程の力ってのは演説中に出た謎の衝撃波のことだろう。俺も無意識に出したのであまり覚えていない。
「あれは圧というものです。その中でも圧波ですね。」
圧、魔王様が言っていた生命なら誰もが持っていると言っていたあの力か。
「圧にも色々種類はあるのですが、先程功善様が発動なされたのは圧波といって、衝撃波を飛ばします。」
確かに周囲にそのようなものを飛ばしていたな。
けど誰にも害はなかったようにみえるが。
「あのときはまだ小さな衝撃波でしたが、すごいのはそこじゃありません。」
やはりあれはしょぼい衝撃波だったのか。
まあ、兵士一人にすら害がなければそらそうだろう。
「あれが凄かったのは、功善様は体を動かしていないんですよ。」
どういうことだ?
「普通であれば手を振ったり、足で空を蹴ったり、そのようなことをして衝撃波を飛ばすのですが、功善様は目で威圧し、周りに衝撃波を飛ばしたのです。」
なるほど。だからみんな驚いていたのか。
「それができるのは圧波を極めた者だけなのです。」
圧波の存在を知ったのは今が初めて。
極めた者ではないが、それほどの力を使っていたというのは素直に嬉しい。
「あの力を極める事をオススメします。私が知っている人でも、あれをできるのは数人程度なので。」
「そうか、それはいい事を知った。ありがとう。」
そのあと部隊についてもう少し詳しく聞き、レフィアとは別れた。
あの少年がもう一人の幹部だったのか。
レフィアといいあいつといい、全く幹部感がないな。
まあ俺の新しい仲間だ。仲良くしたいものだな。
外に向かいながら俺は自分の能力について考える。
どう使うのが、1番絶望するだろう。
どうやって殺すのが、1番気持ち良いだろう。
あぁまただ。何を考えてたんだっけ。
そうだ、俺の部隊についてだ。
そういえば少年の名を聞くのを忘れてたな。
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