第四話 指導者
【指導者】
レフィアに連れられて来たのは、かなり大きな部屋だった。正面からではなく裏口から入り、舞台上に登場して欲しいとのことだ。
「では、私が紹介をしましたら出て来て下さい。」
「分かった、じゃあまた」
丁寧に頭を下げ入り口の方へ向かうレフィアと別れ裏口から中に入る。
ざわざわと多人数の話声が聞こえる。
「この中で話すのか。」
意気込んではいたものの、いざとなるとやはり緊張するな。
俺は自分の右手を見る。
さっきのドアがなくなっていたのは俺の能力だろうか。すぐにあの場を離れた為何も分かっていない。
ここにある物で試してみようか。
そんなことを思っていたとき、
「フォースの皆さん、集まって頂きありがとうございます。」
レフィアの紹介が始まってしまった。
まだ心の準備はできていないが、もうやるしかない。
「今日集まって頂いたのは、私たちの新たな指導者を紹介するためです。」
「指導者?」
「レフィアさんじゃなくなるのか?」
「どんな奴だ?」
そんな声が聞こえる。俺が最高幹部になる前は、この部隊はレフィアが指揮をとっていたのかもしれない。
「では、さっそく登場してもらいます。魔王軍四人目の最高幹部で、私たちの新たな指導者、冬馬功善様です。」
とりあえず行くか。後のことは行ってから考えよう。正面にレフィアが見える。舞台の横から登場した俺は舞台からみんなを見渡した。
「っ!」
できるだけ平常心を保とうとしたが、皆の姿を見て
息が詰まった。
確かに大体は人間の姿だ。そいつらは問題ない。
だが所々にいる明らかな人外生物に脳が追いつかなかった。
蛇?蜘蛛?鬼?様々な人外生物を前に俺の頭に入ってくるのはそんな言葉だけだった。
恐かった。誰でもいきなりあんなものを見ればこうなるだろう。
横でレフィアが淡々と紹介をしてくれているが、頭には何も入ってこない。
なんとか心を落ち着かせようとしていると、レフィアがこっちを向く。
何だろう。全く話を聞いていなかったため何をしたらいいか分からない。
何故レフィアは何も言ってくれないんだ。
焦る気持ちが募る。舞台下のみんなが不審そうな目でこちらを見る。
やばい、何か言わないと。
最高幹部として、認めてもらうために。
「ねぇ、本当にあなたが最高幹部なんですか?」
そんなことを考えていたとき、舞台下のみんなの先頭に立つ少年が俺に問いてくる。
「なんか怖がってるみたいだし、とてもあなたには付いて行けそうにないですよ。」
そんなことを言われる。だがごもっともだ。こんな状態では信頼なんてされないだろう。そうは思うが直接そう言われ焦る気持ちで更に鼓動が早くなる。どうすればいい。
こんなとこで躓いている暇はないっていうのに。
何か言おうとしても考えがまとまらない。
「僕たちの姿を見てその表情、その怖がる顔。」
すると少年の目が一気に冷めていくのが分かった。
「まるであいつらみたいだよ。」
あいつら?誰のことだ。だが悪い意味なのは間違いないだろう。
「正義の味方ってやつ?」
「・・・・・・・・・・」
「はぁ、気分悪いな、もういい帰ろうよ。」
「まあ待てよ」
鼓動が収まっている。焦る気持ちが引いていく。
その代わりに込み上げてくるものは、怒りだった。
「「「!?」」」
一斉に皆がこちらを見る。レフィアでさえ驚いた表情で俺を見ている。
「俺が、正義の味方みたいだと?」
自分でも驚くくらい冷たくて低い声だ。
「・・・」
さっきの少年も驚いた表情で俺を見ている。
「俺はなぁ、正義が大っ嫌いなんだよ。」
今、俺の前に見えているのは駒だ。
俺が気持ち良くあいつらを潰すためのな。
何を緊張することがあったのだろうか。
「だからよ、お前ら」
だから俺が言うことはただ一つ。
「黙って俺に従え、な?」
その瞬間衝撃波のようなものが俺から放たれる。
円状に広がったそれはここにいるもの全てに届いた。
「以上だ。」
そう言い終え俺は舞台の横から出て行く。
去り際に皆が驚いた表情で俺を見ていたから、効果はあったみたいだ。
裏口から出て自分の部屋に戻ろうとする。
「ちょっと待って頂けますか!」
後ろから走ってきたレフィアに呼び止められる。
「今のは、故意にですか?」
きっとさっきの衝撃波のことだろう。
あんなのは俺も知らないし出した覚えもない。
「いや、知らない」
嘘をつく必要もない。どうせいずれ知ることだろう。
「そうですか、とりあえずはお疲れさまです。威厳ある見事な演説でした。」
怒りのあまり思っていたことを口に出しただけなんだけどな。
「先程の力のことや、部隊の詳しいことはまた今夜説明しますので。」
「あぁ、頼む。」
「はい、では後ほど。」
そう言い部屋の中へ戻ったいくレフィアと別れ、部屋に戻るため歩を進める。
部屋に向かう途中俺は先程の少年の言葉を思い出す。
正義の味方ってやつ?
そう言ったときのあいつの表情。
憎しみ、恨み、怒り、そんな感情を持っているような顔だった。
つまり、この世界にもいたんだ。
また気持ちが昂ぶる。色んな妄想をしてしまう。
すぐにでも殺したい。日本ではそう思ったときは既に手遅れだった。
だから慎重にやろう。
こっちには大量の駒がいる。
能力が俺にも発言したら更に目標達成に近づく。
「待ってろよ、ゴミ共が。」
また気持ちが昂ぶっていたみたいだ。
死んでから何度かあるな、こういうこと。
そういえば、とても怒った顔をしてたなあの少年。
俺は考え事の続きを始めた。
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