第18話 ハレンチ娘といけない遊び

 昔から欲しいものは何でも手に入れてきた。


 かわいい振袖ふりそでも。

 三段のバースデーケーキも。

 女の子たちが憧れるドールハウスも。


「今度はミクが自力で手に入れる番なのです」


 手帳をめくって『東堂さんとやってみたいことリスト』と書かれたページを開いた。


 これは一生に一度の大チャンスである。

 ターゲットが寝ているうちに消化してしまおう。


 一つ目。

 愛の告白をする。


 ミクは髪を整えてから、手でお祈りポーズをつくった。


「東堂さん、あなたのことを世界で一番おしたい申し上げております。ミクをお側で可愛がっていただけないでしょうか?」


 ニコッと笑ってみる。


 なんという背徳感。

 エクスタシーが頭からつま先までガツンッと突き抜けた。


しょぱなからこれとは……いい意味で先が思いやられますね」


 二つ目。

 匂いを嗅いでみる。

 できれば耳の裏がいい。


「失礼します」


 猫のようにクンカクンカしてみる。

 ほのかに甘くてフルーティな香りに表情がほころぶ。


「さすが東堂さん。フェロモンが半端ないですね。体臭も男前なのです」


 三つ目。

 体毛をもらう。

 できれば入浴する直前がいい。


「またまた失礼します」


 毛根つきの髪の毛をあっさりゲットする。

 紛失しないようクマさんぬいぐるみに隠しておく。


「うふふ……ご利益がありそうです」


 四つ目。

 ラップキスする。


「かなり過激ですが……子づくりの予行演習なのです」


 ラップが手元になかったので、透明なポリ袋で代用してみた。

 大きさの不ぞろいな唇がチュッと音をかなでた。


「はぁはぁ……これほど甘美とは……生のキスをしたら寿命が縮みそうです」


 五つ目。

 スカートの中を触ってもらう。


「誰ですか……こんなハレンチな願望を書いた人は……とんだ変態さんですね……クスクス」


 椅子の後ろに回り込む。

 ワンピースのすそを広げて、ガニまたになり、ゆっくりと腰を落としていく。


「あッ……そこはッ……」


 ツンッと太ももに触れるものがあった。


「東堂さん……愛しております……指先もステキです」


 グリグリと押しつけてみる。

 目にハートマークを浮かべてハァハァする。


「ふふ……ふ……ふふふ……いけない遊びですね……でも、ミクが体を許すのは東堂さんだけですから……だって運命の人ですもの」


 六つ目の願望を果たすべく、手帳をチェックしようとしたとき、想定外のハプニングが起こる。


「そこにいるのは西園寺ミクか?」


 まだ10分しか経っていないのにイブキが目覚めたのである。

 奇声を上げそうになり、ギリギリ飲みこむ。


「ご名答です。さすが東堂さん。目隠しされているのに分かるなんて超人ですね」


 平静をよそおうため、悪女っぽく笑ってみた。


「これから東堂さんの遺伝子をもらいます」

「遺伝子といったか? それはDNAのことを指しているのか?」

「そうです。子種をもらいます」

「……それは事案だな」


 本気にされていないのかな?

 こちらの覚悟を伝えるため、ワンピースを脱いでみた。


「おい!」

「もう手遅れですよ」


 効果はテキメンのようだ。

 快楽がドバドバと湧いてきて、欲望のリミッターが外れる。


「東堂さんは子種の提供を拒めません。ミクがありがたく頂戴ちょうだいいたします。東堂さんのDNAとミクのDNAが一つになるのです。これって奇跡だと思いませんか? 想像したらワクワクしませんか? 一緒に幸せ家族計画を考えましょうよ」

「そういうのは長年付き合ってきた男女が相談して決めることではないだろうか?」


 イブキが困っている。

 それがミクの独占欲をくすぐる。


「私が下半身のお世話をしますので、東堂さんは体から力を抜いて、そのまま座っていてくださいね」


 さっさと既成事実をつくってしまおう。

 14歳の少女の味を知ってしまえば、イブキだって心変わりするかもしれない。


 いや、変わるはず。


 イブキの人生に爪あとを残したい。

 そのためなら罪を重ねてもいい。


「本当に考え直す気はないのだな?」

「もちろん。運命ですから」

「でも、体が震えている。迷っているのではないか」

「何をおっしゃっているのです。ミクの気持ちは本物ですよ」

「……そうか」


 イブキの雰囲気が変わった。

 たっぷりと息を吸い、胴体をひと回りもふた回りも膨張ぼうちょうさせた。


「いったい、なにを……」

「東堂流古武術……いちノ技……」


 筋肉がゴリゴリッと生き物のように動く。

 肌の表面がかなり熱くなっている。


「……破戒はかい!」


 バチンッと火薬がはじけるような振動が走った。

 繊維せんいの切れる音がして、麻縄がボロボロと落ちてきた。


 筋力だけで⁉︎

 引きちぎった⁉︎


 少女の妄想を吹き飛ばすには十分すぎる威力だった。


「すまない、驚かせたな」

「えっ……」

「西園寺の体温と心拍数があがっている。極度きょくどに緊張した証拠だろう」


 ミクはポカンとする。

 ビンタの一発や二発は覚悟していたのに、怒られるどころか、優しい言葉をかけられてしまった。


「その……だな……」


 目隠しをとったイブキが少しまごつく。


「女の子が大切な部分をさらすものじゃないと思うのだが……」


 照れている理由はすぐにわかった。


「胸元……とか……」

「ごめんなさい! ごめんなさい! 見苦しいものでお目を汚してしまいました!」


 ブラジャーの肩紐かたひもが二つともずり落ちていたのだ。

 ミクは赤面しながら急いで引っ張りあげた。


「やっぱり、罪悪の意識はあるのだな。さっきの西園寺は、どこか無理している様子だった」


 小さくうなずく。


「とにかく今日は寝るんだ。かなり疲れているだろう」

「はい、わかりました……」


 この後、イブキに連れられて、自室へ帰された。


 体が火照ほてって仕方のないミクは、


「あッ……東堂さんッ……そこはッ……ダメですッ!」


 とあえぎながら、ベッドの上で汗まみれになっていた。

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