第10話 鬼竜アカネと妖刀ムラマサ

「お〜い、やけに盛り上がっているじゃん」


 その女の子が見えたとき、猛者もさのセンサーがぴくりと反応した。


「私も仲間に混ぜてくれよ。 ……あれ? もしかしてサッカーの試合が終わったところかな?」


 興奮さめやらぬグラウンドに登場したのは一人の金髪ガールだった。


「ちぇっ……つまんないの……おいしい場面で私はいつも仲間はずれなんだよな」


 勝ち気そうな目をした女の子である。

 ライオンのようにまぶしい金髪を高い位置でポニーテールにしている。


 背は平均よりもやや高い165cmくらい。

 引き締まったボディラインをしているのが服の上からでもわかる。


 スカジャン、ミニスカート、ショートブーツという破壊力のある服装をしている。

 少年院にあるまじきファッションなのだが、これ以上にないくらい似合っている。


 耳のところに光る金属があった。

 太陽をモチーフにしたギザギザの黄金ピアスだった。


 なぜか木刀をかついでおり、もう片方の手をジャンパーのポケットに差し込んでいる。


 ふくよかな胸には『1日院長代理※もう35日目だよ』と書かれたタスキをかけているから、愛嬌あいきょうたっぷりのキャラクターが伝わってくる。


 月城エリカとはまるで対照的なのだ。

 あっちがすずやかな清流だとすれば、こっちはけつく砂漠のよう。


 ミクの前を通り過ぎようとしたとき、金髪ガールの足が止まる。


「ミクっち、もしかして……」

「ひぇ⁉︎」

「つかったでしょ?」

「なっ⁉︎ なっ⁉︎ ななななっ⁉︎ 何のことでしょうか⁉︎ アカネちゃんの香水を無断使用したりとか、けしからん真似はしませんよ……たぶん」

「いや、トリートメントだよ。私が先月にプレゼントしたやつ。つかっている気配がなかったから、あの匂いが気に入らないのかと思って、ちょっと落ち込んでいたんだ」

「あはは……逆です……ミクにはもったいなくて……開封する勇気がなくて……」

「かわいい子だな」


 アカネの指がっぺたをプニプニする。

 ミクは照れつつも嬉しそう。


「戻ってくるのが遅かったから、事故ったのかと心配したよ」

「不注意によるトラブルがありまして……」

「ドジっ子ミクちゃんだなぁ」


 ほっこりした空気が広がる。


「アカネちゃん、この人が新しい院長さんです。東堂さんです」

「そうそう。さっきの必殺シュートはすごかったです。久しぶりに体のしんが震えました」


 イブキとアカネは握手を交わす。


「東堂イブキと申す者だ。いままで院長代理をやってくれたこと、とても感謝している」

「いいって、いいって。人をまとめるのは得意ですから」


 アカネは人懐っこい笑みを浮かべると、三歩ほど後ずさりしてから息を吸った。


「関東最強レディースチーム魅琉怒羅亜須ミルドラースで総長をやっていました! 鬼竜きりゅうアカネといいます! 座右ざゆうめいは道は見つける、なければひらくです! よろしくお願いします!」


 威勢いせいのいい自己紹介をしてくれた。


「君が鬼竜アカネか……つかぬことをくようだが、ネットニュースで有名になったことはあるか?」

「あります! 妖刀ようとうムラマサの一件でトップページにのりました!」

「その若さで日本刀を振り回すなんてセンスのかたまりだな」

「恐れ多いっす!」


 いつの季節だったか。

 ようやく人々の記憶から消え去ろうとしているが、


『国宝級の妖刀ムラマサ、レディース総長が刃こぼれさせる』

『仲間を助けるために……刀一本で特攻した女子高生』


 というニュースが日本中を驚かせた。

 ネットの裏掲示板などには『現役JK=鬼竜アカネ』が公然の事実として書き込まれていた。


 最強レディースとして名をとどろかせていたところに、妖刀ムラマサというキラーワードが組み合わさり、全国区になったといえる。


 鬼とか竜みたいに暴れまくる女子だろうか?


 クマにも負けない巨大娘きょだいむすめをイメージしていたから、アカネのように素直で、すらりとした美人が出てきたのは、意外すぎるくらい意外だった。


「仲間を逃がすために、妖刀ムラマサを抜いて、機動隊を足止めしたのだろう。その結果、少年院に送られることになったが、友を守ろうとした心意気は一生の宝にすべきだと思う」

「なんか小っ恥ずかしいなぁ……いまじゃ私も南の島で丸くなっちゃいましたし……」

「いや、鬼竜はギラギラしている。こんなやつ、本土には滅多めったにいない」


 アカネが目を丸くする。

 かと思いきやクスクスと笑いだす。


「どうした?」

「いや、あのムラマサは私の祖父が秘蔵ひぞうしていた一振りでして……。ボロボロになったお宝を見て、どんな顔をしたのかなって思うと……」

「祖父とは仲が良くないのか?」

「まあ……それなりには……」


 アカネはかわいい八重歯やえばをのぞかせながら舌をぺろりと動かした。


「ねえねえ、お兄さん。ここで会ったのも何かの縁だから、私と一対一サシで勝負しようよ。格好いいところ見せてほしいな」


 男心をくすぐるような色気あふれる視線を向けてきた。

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