プロローグⅡ
豪華絢爛な国は、軍事国家へと変貌した。ソロンに逆らう者は、ことごとく殺された。女神に関する物が消え、国民は女神信仰を固く禁じられた。女神を祀る神殿が壊され、経典も燃やされた。それだけではない。ソロンは遠征を行い、他の国や村の神殿も、破壊してまわった。ソロン軍の強さは圧倒的で、誰も勝つことができなかった。
五年の時が過ぎ、もはや敵なしとなった、ソロンの国に、黒いローブを着た者が一人、訪れた。その者は、門の前に立っていた。門番は叫んだ。
「何の用だ。用がなくば、立ち去れ」
黒いローブの者は、鼻で笑った。声からして、男だ。男は、門番に近づくと、肩に手を置いた。次の瞬間、門番の体が燃え上がった。門番が絶叫する。
「何をする貴様!」
そう叫んだ、もう一人の門番は、凍りついていた。その様子を見張り台から見ていた兵士は、鐘を鳴らし、敵襲を知らせた。門の上から、矢が放たれる。男は、何かを払うように、手を振った。風の刃が矢を粉砕し、門の上にいた兵士たちを真っ二つにした。男は門に歩み寄り、手をそえた。爆発が起き、門が粉々に崩れ去った。待ち伏せしていた兵士たちが、四方から、闇の玉を放った。闇の玉は、男に吸い込まれたかと思うと、ものすごい速さで、兵士たちへ射出された。ある者は腹に大穴が空き、またある者は頭を吹き飛ばされた。
「退けぇっ」
隊長と思しき者が叫んだ。兵士が退いていく。男の反応は早かった。男の手から、剣の形をした光が現れ、次々と兵士を撃ち抜いた。一人、また一人と兵士が地に伏していく。次第に、兵士の顔に、恐怖の色が浮かび始めた。男は、炎・氷・雷・風・光・闇、六つの属性を操りながら、城に向かって歩いていく。兵士は懸命に魔法や矢を放っている。だが男に届くや否や、跳ね返り、兵士を穿つ。男が通る道には、物言わぬ死体のみが残されていた。
男は、城門の前にたどり着いた。もはや攻撃する者は、いなかった。天下のソロン軍が、雷におびえる幼子のようであった。隊長は、鎮座しているソロンに駆け寄った。ソロンは、隊長の様子を見て、何かあったのだと理解した。
「て、敵襲ですっ。門が破られ、目前まで迫っております」
「数は」
「それが、黒いローブを着た男が、一人のみだと」
ソロンが驚いた時、城が大きく揺れた。兵士たちが、ざわめく。兵士の一人が、悲鳴を上げた。
「竜巻だぁッ!」
轟音をたてながら、壁や天井が崩れ去る。風に触れた兵士が、バラバラになっていく。ソロンは、なす術なく吹き飛ばされ、床に叩きつけられた。シャンデリアが落下し、ソロンに直撃した。ソロンの体が赤く染まった。兵士の絶叫が止む。同時に、竜巻も消えた。数秒前まで、城だった瓦礫を踏みながら、男が近づいてくる。血を吐きながら、ソロンは男を見た。
「お前は、一体何者だ。我が精鋭をこんなにあっさりと」
男は答えない。ふわりと宙に浮く。悠々と空を移動し、上空で止まった。
「我々が何をしたというのだ!」
「罪深き者め」
初めて男は声を出した。若い声であった。
「貴様と、この国が、存在しているだけで虫唾が走る」
雷が、ほとばしった。国中の建物が崩壊していく。雷が当たった国民が、灰となる。さながら、天からの罰であった。すさまじい国力を誇ったはずの国は、姿を消した。たった、一日の出来事であった。
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