お爺さんと栗太郎

ぱっぱぱらぱ

第1話そして完

むかしむかし、あるところに

お爺さんと、お婆さんが住んでいました。

お爺さんは川へ魚釣りに、お婆さんは山へキノコ狩りに出かけました。


お婆さんがキノコを探していると、大きな栗が転がってきました。

「なんて大きな栗でしょう。持って帰ってお爺さんと食べましょう。」

おばあさんは栗の毬を剥いて、中身を家に持って帰りました。


家に帰ると

「お爺さんが帰る前に、焼いておきましょう。」と、囲炉裏にくべました。

ところが、暫くすると栗が弾け、中から元気な男の子が生まれました。

男の子は栗が弾けた勢いに任せて、お婆さんに体当たりをしました。

「こら、ばばぁ!熱いだろうが!ふざけんな!このクソが!」

と暴言を吐きながら、お婆さんをボコボコに殴り、蹴り、ついには殺してしまいました。


そこへ

「ただいま。帰ったぞぉ。」と、お爺さんが帰ってきました。

お爺さんは、倒れているお婆さんを見て、急いで駆け寄りました。

「婆さん!どうしたんだ!大丈夫か!」

そして、立っている男の子をにらみつけると

「お前がやったのか!」掴みかかろうとしましたが、ひらりとかわされてしまいました。

「俺は栗太郎。このばばぁは、俺を焼き殺そうとしたんだ。だから仕返しに殺してやったんだよ。殺されて当然だろ?」

それだけ言うと、栗太郎は外へ飛び出し、去っていきました。


お爺さんも、すぐに飛び出しましたが、遠くにちらりと背中が見えたきりいなくなってしまいました。


お爺さんは、悲しみにくれましたが、その悲しみは瞬く間に怒りに変わりました。

頭の中で、何かがプツリと切れる音がしたような気がしました。


そのころ、その村には、時折鬼が現れて悪さをしておりました。お爺さんはその鬼を見つけると、詰め寄りました。

「頼みがある。栗太郎というガキを叩きのめして連れてきてくれないか。婆さんの仇だ。」

ところが、鬼は鼻で笑いました。

「フン、どうして俺がお前の仇討ちをしなければっ!!………ぁ…が…ぁぁ…」

鬼は突然のすさまじい腹の痛みに息が詰まりました。

見るとお爺さんの拳が腹にめり込んでいます。

ウゲァォォォ!!!

胃の中身をすべて吐き戻しました。若干、血も交じっていました。

お爺さんは拳を引き抜きゆっくりと話します。

「どうして?おかしなことを聞くものだ。年寄りが困っているのだから、助けるのが当然だろう?そう教わらなかったのか?親切にしなさい、と。」

お爺さんが鬼をじっと見つめています。その目には逆らうことを許さない威圧感が宿っていました。

「悪さすることしか教わらなかったのなら、教えてやろう。年寄りには優しくするものだ。分かるな?どうしても分からないなら、二度と悪さもできなくなるかもしれんが?」

お爺さんが拳を握り直しました

「…分かった。」鬼が答えますが、お爺さんに軽く睨まれました。

「分かりました。…そのガキを捕まえて来ます。」

途端にお爺さんが笑顔になりました。

「おぉ、ありがとう!なんと優しい鬼だ!快く引き受けてくれるとは思いもしなかった。栗太郎は山へ向かった。すぐに行ってくれ。」お爺さんがお礼を言いました。

「そうだ、タダでとは言わん。団子をやろう。腹の足しにしてくれ。今、腹は空だろうからな。ただし食ってよいのは一日に一つだ。」

お爺さんに団子をもらい、鬼は山へ向かいました、



鬼が歩いていると犬が話しかけてきました。

「なんだ、どうした?そんなにしょぼくれて。」

「…うるさい。」

「なんだよ、困ってるなら助けてやろうかと思ったのに。ま、どうでもいいけど。それより食い物をくれよ。その団子。どうせ、あんた食わないだろ?」

犬は目敏く団子を見つけていました。

「…いいだろう。その代わり栗太郎というガキを探すのを手伝え」

「しょぼくれてるのは、そのガキのせいか?くれるなら、手伝ってやるさ。」

犬は団子をもらうと、さっそく食べました。

すると、どうでしょう。

鬼の膝丈ほどしかなかった犬が、見る間に腰丈ほどに大きくなりました。やせていた体は見違えるほど筋肉質になっています。

「どういうことだ!?」

「こいつは、すごいぞ!力が溢れる!」

鬼は、驚きましたがすぐに理解しました。

「…団子の力か?」

おじいさんのくれた団子にはとんでもない力が秘められていたのでした。

鬼は一つ疑問に思っていたことがありました。団子の力を見て、その疑問は更に大きくなりました。


突然、犬が鬼に襲い掛かりました。勝てると思ったのでしょう。

牙をむき出し、飛び掛かりました。が、簡単にいなされ、片手で押さえこまれました。

「……冗談だよ、冗談。ちょっと力を試したかっただけだ。さぁ、そのガキを追いかけようか。」

犬はヘラヘラと笑いましたが、明らかに鬼に脅えていました。

「次はないぞ。」鬼に戒められ揃って山へ向かいました。

途中、鬼が独り言のようにつぶやきました。

「…俺は弱くない…」




山へ着いたのはよいのですが、広い山の中、どこに栗太郎がいるかわかりません。

「おい、お前が探せ。」鬼が犬に向かって言いました。

「俺は栗太郎など知らん。分かるわけがないだろ」

「俺も知らん。お前は鼻が利くだろう。そのために連れてきたのだからな。役に立たんなら用済みだ。腹の足しになってもらうまでだ。火で炙れば食えんこともなかろう。」

鬼が犬に手を伸ばしました。

「分かった!分かった!探せばいいんだろ?」

慌てて、後ろに飛び退きました。

「ちょっと、下がってろ。…まったく、来るんじゃなかったよ…」

「なんか言ったか?」

犬は鬼の問いには答えず、鼻をひくひくさせて辺りの匂いをかいでいます。

暫くすると犬の動きが止まりました。

そして…「こっちだ!誰かいる!」犬が走り出し、慌てて鬼も追いかけます。


暫く走ると犬がピタリと止まりました。

「近い」

鬼が注意深く辺りを窺います。

緩やかな風が木の葉を揺らす乾いた音がかすかに聞こえるだけです。


鬼が素早くわずかに横に移動しました。その瞬間、鬼の前にあった樹の幹に穴が開きました。「なんだ!!」

犬が驚いて逃げ出しました。

鬼が素早く移動する度、辺りの樹が次々に倒れていきます。

「無駄だ。当たらん。さっさと出てこい」

鬼の恫喝に辺りはまた静まり返りました。


栗太郎はいきなり鬼の目の前に現れました。と同時に蹴りを放ちます。鬼は腕で防ぎつつ受け流し、その足をつかみ力任せに地面に叩きつけました。


激しい衝撃に落ち葉が舞い上がります。鬼の手を振りほどいた栗太郎は、舞い上がった落ち葉を目くらましに間合いを取り構えました。


「お前が栗太郎か?人違いでも仕掛けたのはお前だから、このまま叩きのめすがな」

「鬼が俺に何の用だ?」

「人違いじゃないようだな。…村の爺さんに仇討ちを頼まれた。叩きのめして連れて来いとな。」

栗太郎が怪訝な顔になりました。

「じじいの仇討ち?どうしてお前が?」

「年寄りには優しくするモンなんだとさっ!」

答えながら栗太郎に掴みかかります。かわして腕を前に突き出しました。その手から鋭い棘が飛び出しました。先ほど鬼を襲ったのは毬栗の棘だったのです。

後ろから不意打ちで当たらないものが、正面切って当たるはずもありません。難なくかわされますが、すかさずもう一撃放ち素早く姿を消しました。

次の瞬間、鬼は棘の弾幕に襲われました。四方八方から、そして頭上からも無数の棘が降り注ぎます。

数秒でまるで鬼こそが毬栗のようになっていました。栗太郎はさらに渾身の力で数発の棘を打ち込みます。


片が付いた。そう思われたとき、信じられないことが起こりました。全身を棘に貫かれたはずの鬼の拳が、息の上がった栗太郎の腹をとらえ、激しく殴り飛ばしました。栗太郎は樹に激突し地面に堕ちました。

肩で息をしながらも辛うじて立ち上がり、反撃に転じようと身構えますが、何かに押さえ込まれ、地面に伏しました。

「よし、そのまま押さえてろ。」

栗太郎を押さえたのは犬でした。弱った栗太郎の隙を突き襲い掛かったのです。

鬼が棘を振り払い、犬に指示します。その身には針孔ほどの傷もありませんでした。

栗太郎にゆっくり近づきながら、自分の角に手をかけ引き抜きました。角は見る間に見事な剣へと姿を変えます。その剣をしっかりと構え、

「動くなよ」と、一気に振り下ろしました。

犬が跳び去り、栗太郎は両膝下を切り落とされました。

グヮァァァァァァァァァッ!!!!

山中に響き渡るほど栗太郎の叫び声上げましたが、鬼がその口を片手で塞ぎ、そのまま顔を掴んで持ち上げました。

「やっぱり、斬ったら軽いな。楽でいい。」

鬼はそのまま、歩きだしました。

「おいっ!あんた!俺ごと斬ろうとしただろ!!!」

犬の抗議など素知らぬ顔です。

「ん?もう、行っていいぞ。用は済んだ。」

「済んだ。じゃねぇよ。全く何だと思ってやがる。…それより、よくあれで死ななかったな?絶対刺さってただろ?」

「……団子だ」

鬼はボソリと言うと、歩き出しました。

「なるほどな。駄賃にもう一つくれよ。」

鬼は睨みましたが、袋から団子を一つ出すと、頭に乗せてやりました。

「じゃぁな!何かあっても、もう二度と手伝ってやらねぇ!」

それだけ言い残すと犬は走り去りました。

「さて、俺たちも行くぞ。」

ぶら下げた栗太郎には一瞥もくれず、そう言うと村に向かいました。


村に着くと、鬼は早速お爺さんのところに行きました。

「爺さん、ご注文の栗太郎だ。」

「おぉぉ!!ありがとう、ありがとう。よく連れてきてくれた。さすが仕事が早い。」

お爺さんが満面の笑みで迎えました。

栗太郎をお爺さんの前に下ろしました。足を斬られているので、逃げることもできず無抵抗で地面に転がりました。

「さて、どうしてくれようか。とりあえず、婆さんを殺したことを謝ってもらおうか?」

お爺さんが近づきしゃがんだそのとたん、栗太郎がお爺さんに無数の棘を放ち吹き飛ばしました。

「ざまあみろ!お前が余計な事頼むから、俺がこんな目にあったんだ。死んで悔いろ!」

栗太郎が高らかに笑い出しました。が、その顔がこわばりました。棘が刺さったまま、お爺さんがゆっくり近づいてきたのです。

「不意打ちするなら、殺気はもっと抑えろ。見え見えだ。それに、やるんなら確実に仕留めろ。仕損じたら後がないだろ?」お爺さんは棘を振り払い、栗太郎をけり倒し、頭を踏みつけました。

「爺さんそれだけ強くて、何で自分で追わなかった?団子もあるし、こんなガキに負けるはずもないだろ?……まず、何者だ?」

鬼が疑問に思っていたことを尋ねました。

「‥‥…お前ら、馬鹿にしやがって…」栗太郎がお爺さんの足を払いのけて体を起こしました。

「まとめて、ぶっ殺してやる!!」いつの間にか、その手には団子の袋が握られていました。

「まずい!」鬼が駆け寄りますが一足遅く、栗太郎は団子をいくつか口に押し込みました。一瞬で足が再生し、鬼の倍はあろうかというほどに巨大化しました。鬼とお爺さんを腕の一振りでなぎ倒し、更に残った団子を口に入れました。

グヲォォォォォォォ!!!!!

もう人の形も留めぬほどに、巨大に、そして醜悪な姿と化した栗太郎が咆哮しました。その声は何とも不気味で、恐ろしいものでした。

その栗太郎はあたりの建物をなぎ倒しながらゆっくりと歩みを進め始めました。その前にお爺さんが立ちはだかります。栗太郎はお爺さんを認識すると、一瞬動きを止め、腕を振り上げそのままお爺さんの上に振り下ろしました。

その腕は完全にお爺さんを捉え、真っすぐに振り下ろされました。が、その腕がお爺さんの頭上でピタリと止まりました。お爺さんが片手で受け止めていたのです。

「…馬鹿者が。団子は一日一つまでだ。儂の家を壊した分も謝らせたいが、これでは無理そうだな。…もういい。逝け。」

そのとたん、栗太郎は四散しました。目に見えないほどの肉片になるまで、何度も何度も何度も砕けました。


「さてと、儂が何者か、だったな?」

いつの間にか、鬼が近くに来ていました。

「魔王を知っているか?」鬼が軽く頷きました。

「儂は、こことは別の世界で魔王をやっていた。その頃、その世界では人間が『世界の平和を取りもどす』という大義名分をでっちあげて『魔物狩り』をやっていてな、多くの魔物が殺された。当然、儂のところにも人間がやってきた。勇者を名乗とたがとるに足りない相手だった。叩きのめすのは簡単だったが負けてやることにした。どうせ倒してところで次が来る。そいつに勝ったところで、また次が来る。くだらないことだ。儂は死んだように見せかけ、この世界に転移した。そして、この村を結界にして、自分の力と記憶を封印することにした。儂が生きていることに気付けば、また勇者を名乗る殺戮馬鹿がやってくるかしれん。くだらん自己顕示に付き合いたくはないからな。それに関係ないこの村を巻き込むわけにはいかん。」

「封じた割に随分力が漏れ出しているようだが??」

鬼が口をはさみました。

「完全に人間として生きておった。このまま年老いて死ぬはずだった。ところが、栗太郎に婆さんを殺された時、激しい怒りで少しばかり記憶と力が甦ってな。完全に封印するにはもとの力が大きすぎたようだ。だが、村の結界は活きている。おかげで完全には封印が解けていないから問題ない。儂が栗太郎を追わなかったのは、村を出るわけにはいかんからだ。」

「そういうことか。で、これからどうするんだ?」

「今の儂の力で自分を封じ込めるのは無理だ。このまま、力を隠して生きていくさ。寿命も相当延びた。もう少し若い姿に変わって若い嫁でも探して、この村で生きてくさ。儂がおるからな、悪さはほどほどにせんと、死ぬぞ。」

お爺さんは笑いながら言いましたが、鬼の背筋に冷たいものが流れました。

「ところで、あの団子はすごいもんだな。何かの秘薬か?」

「ん?あれか?あれは儂の鼻糞だ。」

ウゲァォォォ!!!

鬼は胃液を吐きました。

「ふっざけんな!!じじぃ!!!!」

鬼は激しくお爺さんに突っ込み、村の外まで吹っ飛ばしてしまいました。


魔王の封印は完全に解けてしまいましたとさ。



めでたしめでたし。


                    



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