第5話-騎士おじさんが死にそうでピンチ-

「お嬢ちゃん! そっちにいってはダメだ! 君一人ではどうしようも――」


「おじさん、うるさいっ!」


 (いい歳して弱気なおっさんだな。前世の俺みたいだ)


 白銀の騎士がやってきた町の方面からやってくるのは、数百の幻獣種だ。

 土砂降りの雨の中、5歳の少女の俺は、群れへ向かって駆けた。


「はっ、はぁっ、はぁっ……」


 ―――グルルルルルルグルォォォーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 ―――グルルグルォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 ―――ガルゥゥルルルグルォォォーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 ―――バロゥルルルルグルォォォーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 ―――ギゴガガガルギゴゴオォォーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 ―――ギャルグアルルグルォォォーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 ―――ピロロロロロオオオォォォーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 飛んでいる大きいカラスのような幻獣種、鋭利な爪を持つトラのような幻獣種、蛇のようにくねくねしながら前進する幻獣種等々が視界の向こう側に存在している。

 地上と空の両方からの攻撃を対処するのは厳しいと判断し、数が少ない飛行幻獣種から撃ち落とすことにする。撃ち落とすには――


――五重陣魔法クインティプル 蒼弓の太刀風ソード・オブ・テンペスト


「くぅぃんてぃぷるっ! そーど、おぶ、てぇんぺすとぉっ!!」


 雨雲から降り注ぐのは、太刀の嵐。一本一本が高精度に錬成された風魔力の塊。

 嵐のような突風が地域を巡り、無数の幻獣種が無数の風矢が突き刺さり、浮遊している数十の幻獣種を地上にぶっ刺した。


 ――― グォ ――――――――――――――――――――――――――――――


(よし、とりあえず飛行種系のモンスターを仕留めれたが、まだまだ数が多い)


 脳内に聞こえた風魔法の詠唱を唱えて一掃するも、数えきれない程の幻獣種が視界いっぱいに広がっている。なぜ、詠唱が脳内に聞こえるのかはわからないけど、そこは異世界転生の主人公補正なのだろうか。

 後ろから、白銀の騎士が恐る恐る俺に話しかけてきた。


「お、お嬢ちゃん……、お嬢ちゃんって、一体何者……? ランク5ランク・ファイブクラスなのは、見て分かったけど……って――ウアァァァっ!!」


 俺か? 俺は元29歳会社員のドン底正社員で、ボイラー爆発死して異世界転生した5歳の女の子だ。目が覚めたら、目の前にパパとママが立ってて、帰っている最中に幻獣種というクマが俺らが襲った。その後、魔法に目覚めた俺がクマを倒して、更に幻獣種を倒して今に至る、異世界では日常の女の子に違いない。

 そう考えていると、地上組の大群幻獣種が目と鼻の先までの距離に縮まっていた。


「おじさん、びびりすぎぃ……」


 ―――バロゥルルルルグルォォォーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 ―――ギゴガガガルギゴゴオォォーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 ―――ギャルグアルルグルォォォーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 ―――ピロロロロロオオオォォォーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 大群の地上の敵を一掃するイメージ。水平線による範囲攻撃だ、導け――


――五重陣魔法クインティプル 雷神の魚鎗ゴッド・ライトニング


「くぅぃんてぃぷるぅっ! ごっど、らいとにんぐぅ!!」


 手かざす雷の魔法陣は、雷鳴を轟かせながら5枚重なり一本の雷槍が前方に射出し、大群の中に貫通する。矢の側面からは放電するように、雷雨を雷が混合して、幻獣種が連鎖するように感電死していく。その一本で、数百もの幻獣種が断末魔の合唱が大雨に上書きされた。


「はぁっ――はぁっ――はぁ―――――」


 魔法を使えば使う程、身体がだるくなり、呼吸の乱れが目立つ。

 視界の敵を一掃したが、町の奥からまだまだ幻獣種が湧いて出てきた。


(くそ、まだまだ敵がいるっていうのか、もう一度だ! 導け――)


「お、お嬢ちゃんそれ以上はダメだッッ――!!」


――一重陣魔法シングル・マジック 氷雪の風フロストウィンド

――一重陣魔法シングル・マジック 氷結の壁アイスウォール

――一重陣魔法シングル・マジック 稲光の突風ボルトウィンド

――一重陣魔法シングル・マジック 火炎球ファイアボール


「な、なじぇ!?」


(なぜ、もっと強い魔法の導きがない!?)

 一重陣魔法では目の前の大群の排除はできない。五重陣でなくてはいけない。

 もう一度だ ―― 導け――


――|五、五重陣魔まおぅkjad;lfghnjas;taikdvmga;lkhoiznkj;ahsdiotaklgdfak:lg――


「ぷッハァっ――!!」

 

 俺の小さな口から吐血した。両手で口元を押さえたが、血が思いっきり手のひら一面に赤が染まる。

 なぜこうなった、と考えていると、白銀の騎士が俺の身体を支えてくれる。


「だから言ったじゃないか! お嬢ちゃん、凄い魔法の才能はあるけど、戦闘の素人だよね。今のお嬢ちゃんは、魔力欠乏症だよ。体内の魔力を使いすぎると、体調不良になったり、最悪死んでしまう恐ろしい症状だ。だから、気をつけないと――」


(魔力欠乏症? って死ぬってマジかよ! また死んだら俺どうなるのっ!?)


 俺は、火力のごり押し作戦を変更する為に周囲を見渡すと、柵用の銅線が数本ちぎれて落ちていた。


(こ、これは……、これなら作れるっ!! )


 俺は銅線を魔法で熱してクルクルと螺旋を描くように折り曲げていく。


きたぁ!」


 俺は、1mくらいのぐるぐるコイルを手にし、金属の両端を摘み、幻獣種の群れに構える。


――一重陣魔法シングル・マジック 稲光の突風ボルトウィンド


 その瞬間、巨大な雷ビームが発射されたかのような轟音が、田舎道に轟く。コイルを向けた一直線上にいた数十の幻獣種は削れた土道とともにあとかたもなく消えていた。

 金属に流す雷魔法と、流してるコイルの中心を通過するように稲光の突風ボルトウィンドを放つと、一重陣程度の魔法とは思えない火力で一掃したのだ。どうやら、この世界でも電磁気があるらしい。コイルが作った一直線の磁束に雷魔法を放つと、増強されて射出される。魔法でちょちょいとすれば造作もない。


「これにゃら、しょうえねでまほーつかえるっ! えいやっ! えいやっ! えいやーっ!」


町中から大量に湧き出る幻獣種が向かって来るたびに稲光の突風ボルトウィンドをお見舞いし、はや数十分。俺の魔力より先に幻獣種が尽きたようだ。


「おじさん、まだたたかえる? まちのひとたち、まだあぶないかもだから、いくよ」


「えっ、お、お嬢ちゃん! まだ戦うの!? たしかに、まだ町奥に幻獣種の気配はするけど……って、あとオレはおじさんじゃないよっ、今年天聖魔導軍に配属されたばかりの一六歳の青年だよ!」


「おれは、にじゅうきゅうさいだっ!」


「え、えぇ……どうみても5歳にしか見えないよお嬢ちゃん……ってちょっとまってよー」


 俺は青年の話をぶった斬って、自身に浮遊魔法を掛けてスーッと街へ入る。門を潜った先には荒れ果てた商店街が広がってた。あたり一面は黒い生物の死体が山ほどあり、住民がいないところから天聖魔導軍ベルターがうまく避難誘導できたらしい。だが、大きな民家方面は、白銀の鎧を着用した死体も山のように転がっていた。

 白銀の騎士も浮遊魔法を使ったのか、既に俺の真隣に追いついていた。


「向こうの方は、村長さんの家っぽいね。どうやら、その裏山から幻獣種が大量発生したようなんだ。今日は、年に一度ある豊穣の祭祀だったんだよ。村の人々だけでなく、都会の人や警護の天聖魔導軍ベルターが配置された。そして、みんなで願い事を願うんだ。奇跡の導きによって願いが叶う人もいるらしい」


「そ~なんだぁ」


「だけど、幻獣種は無慈悲にやってきた。人々を待っていたのかのようにな……

 っと――ッ!? 敵襲、幻獣種だ! あ、あれは……、幻獣種レベル4フォー!? あ、ありえなぃ」


「ありえなぃ??」


 白銀の騎士が向けた剣先には、漆黒の人型モデルの幻獣種が仁王立ちしていた。


『ギゴガガガガガァッ!! マダ イキノコリ ガ イヤガッタノカァァァ!!』


 突如、幻獣種が俺に向けて手を伸ばすと、届かぬはずの黒い腕が直線状に伸びる。騎士がすぐに危険を察知して俺を抱えて飛び、逃げながらも俺に話しかける。


「お嬢ちゃん、幻獣種の定義は知ってるかい。四人一組が幻獣種一体と同様ランクの場合 討伐可能 だよ。ちなみにランク四ランク・フォースの魔法使いなんて、そうそういない。現在でも全国で100名前後だ。そのランク四ランク・フォースが四人必要だというのに……はぁっはぁっ」


「おじさんは、らんく、いくつなの?」


「私か? 私はランク三ランク・サードだ。努力で叶えられるのは、ランク三ランク・サードまでだ。それ以上は、才能も必要になる。悔しいけどな。だが――」


 大きな建物裏に隠れて、白銀の騎士は俺をとすん、とおろした。

 同時に、魔法剣に魔力を流す。


「――僕が、学園卒業と同時に天聖魔導軍ベルターの小隊長に任命されたのは少しばかりワケがあってねッッ!

 集う風よ! 天空に導き白き波。

 纏えよ纏え、風剣に集え!! ――西風神ゼフュロスッ!!」


 白銀の騎士が持っていた剣が、風圧と共に風色に輝いたのを横目に俺は、魔力の本流で発生している風を感じながら、こちらも戦闘モードに移行する。


『ミツケタァァァァァァッッ!! ローレン・ジャイブゥゥゥゥ!!』


 漆黒の悪魔が数十メートル腕を伸ばし、辺りの民家事なぎ倒す。

 大地震が起きた時のように辺り一面崩れ落ち、その隙間から俺は魔法を行使する。


「しんぐるまじっくっぼるとうぃんどーっ!!」


 襲いかかる民家の瓦礫を稲光の突風ボルトウィンドで打ち倒す。一つ一つコイルの標準に合わせ、雷撃とともに破砕音が空間に轟いた。その隙に、白銀の騎士は、風色に煌く神剣を肩越しに構え、浮遊魔法で一直線に先進んだ。


『キゴガガガガア!! ーーガァァッッ!?』


「遅い! 西陣、北風の太刀ッッ!」


 漆黒の幻獣種は伸びきった両腕をクロスするように身を呈するも、白銀の肩から振り下ろされた一太刀と爆風によって両腕が吹っ飛ぶと同時に、黒き上半身に深い剣筋が切り刻まれた。


「仕留めきれない!? 浅かったかッッ! マズいッ」


『キゴガガガガアーーーーーーッッッッ!! テメェ ヨクモ ヤッタナアァッッ!』


 大技を繰り出したことによる硬直だ。白銀の騎士は剣を振り切った状態から次の型に繋がることができずに幻獣種に振り切った右下半身を向ける状態で、幻獣種に首元を掴まれる。


 さすがにマズいと思い、俺は咄嗟に持っていた金属の棒を騎士に当たらない程度に幻獣種の真左に向かって投げつけ、稲光の突風ボルトウィンドを真右に通るように射出する。


「えいやっ! っと、しんぐるまじっく、っぼるとうぃんどーっ!!」


『コレデ オワリ ダッッ!――ガ、ガァァァァァァガァァァァァァガァァァァ‼︎」


(あのままだと、アイツの首の骨が折られる! 

 他の魔法でどうにかしないと、神の声、導けるかっ……!?)



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アラサーの俺が事故死したら、秀才少女として異世界転生した。 風邪予防 @minminsecondrun000

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