第4話-目覚めろ!! 真の俺!-

 ……なんか、色々おかしくね? 

 前世の俺である大葉友樹が事故死した後に、異世界転生して、しかも女の子で年齢は5歳くらいで、パパママに保護されて、歩いて帰るところに幻獣種という魔界からきたクマがいて、パパが食べられそうになって、ママも泣いて動けなくて、多分次は俺が食べられて死ぬ。

 ふざけんなよ!! これからトモミ・グラシエとして、異世界生活を満喫するっていうのに。

 世の中理不尽すぎる、くそっ! せめて俺が、前世の姿だったら、目の前のクマをぶち殺すことができたはずだ! 絶縁抵抗計メガーで1000ボルト一発してぶっころできた。ママはショックで気絶してしまったようだ。

 

(どうにかして、パパママを助けないと……でも、どうやって?)


――一重陣魔法シングル


 ここまで約2秒の思考。パパは気絶していて、もう食べられる寸前だった。


―――― 目覚めなさい 至高の少女よ ――――


 もう、アレにかけるしかない。

 

 『目覚めろ!! 真の俺!』


――氷壁打尽アイス・ウォール


 前世の俺は、彼女いない歴=年齢の29歳。そう、魔法使い大元帥候補だったわけだ。転生した異世界ならば、最強の魔法が使えるに決まっている!

 そうして、俺はクマに向けて右手の手のひらを向けた。


「しんぐる……あいす、うぉーーーる!!」


 脳内から聞こえた呪文を唱えると、俺の右手から幾何学模様の円を描いた氷の魔法陣が展開された。その瞬間、その魔法陣から大きな板状の氷が射出され――、クマの図太い腕をぶち折った。同時に、パパがクマから解放される。


「グルゥォォォォォォォォォォォォォォ!」

「ゴホッゴホッッッ」


 クマが俺を標的にした!

 どうやら致命傷を与えられなかったみたいだ。


 すぐ近くにいる俺に、毛むくじゃらの太い腕で思いっきりなぎ払われ、さらに鋭い爪で俺の全身が切り裂かれた。


 「イ、イギャーーーーーーー!」


 痛すぎる!! やばいこれは、ヒリヒリするどころか、ちょいと見ると、爪によってお腹の皮膚とその肉が血の跡でぶちまけられていた。


――五重陣魔法クィンティプル 氷霜全癒アイシング・ヒール


「くうぃんてぷる! あいしんぐひーる!」


 一枚魔法陣が出現して、それに連なるように合計5枚の氷魔法陣が重なると、俺の身体が全身氷に包まれて、一瞬のうちに裂かれたお腹が修復した。


「ま、まほーってしゅ、しゅごい……! ――ッ!?」


 猛威で爪撃を仕掛けてくるクマの攻撃を、小さなステップで躱し、土道に落ちていた砂利を手に掴み、クマの目に投げつける。視界を潰したのち、俺はトドメの魔法を放つ。


 (倒しきるなら、火炎系魔法で仕留める!!)


――四重陣魔法クアドラプル 獄火波乱フレイム・ウェーブ


「く、くぁどぅらぷる! ふれぃむうぇぃぶ!!」


 炎の魔法陣がかざした腕から4枚展開され炎が出現し、爆発するよう波状に広がりクマに直撃。全身の黒い毛が焼けこげ爆発した。


『ガルアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーー―――――――――――』


 焦げたクマが野太い断末魔を上げ、ドスンと道端に倒れ息絶える。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……、やったぁ、やったぁぁっ!」


 嬉しさのままぴょんぴょん飛び跳ねてしまった。くるくるっと回ると、青いワンピースの裾がひらーっと舞い上がった。それからすぐに、気絶しているパパとママを近くの大きな木の下に魔法で運ぶ。

 

「よっっしょっと! ふーっ」


 それにしても、黒いオーラのクマが襲ってくるのは想定外だった。たしか、幻獣種っていったか。異世界には魔界があって、そこに住まう幻獣種っていうモンスターが精霊界を襲うらしい。それに、魔法が実在していて、パパママが魔法を使おうとしなかったところから見ると、誰もが使える代物というわけではないようだ。

 今、俺が使った魔法がどの程度なのか想像はつかないけれども――


 そう考えていると、遠くの方から人の声が聞こえてきた。

 田舎の道に佇んでこっちに声を掛けているのは白銀の甲冑をきた騎士だった。


「そこのお嬢ちゃん!! 早くここから離れなさい! 先ほど原因不明は不明だが、幻獣種が大量発生し、ここの地域一体が魔物の巣窟となりかけている。残念ながら我々天聖魔導軍ベルターでも一小隊では時間稼ぎしかできない。僕達が死ぬ前に、お嬢ちゃんだけでも、この地域から逃げるんだ!!」


 甲冑を装着した男性が、俺に小さな袋を渡す。その中には、一枚の写真と、手紙が入っていた。


「あと、お願いがあるんだ……、これを、僕の妻になる人に渡して欲しい。

 っていっても、都市にある天聖魔導軍本部にもっていくだけでいい。

 お願いできるかな、お嬢ちゃん」


 白銀の甲冑は既に使いふるされたのようにボロボロで、それでもなお、人々の為に立ち上げる青年からお願いを託される。


「おじさん、かえるばしょ、ある? なら、おねがいはきけない」


「それはどうして? 無事に帰る事ができる道はある!」


「おてがみ、おじさんがわたして。このまちは、お、わたしがまもる!」

 

 そうして俺は、白銀の騎士がやってきた町の方面からやってくる数百の大群で群がる幻獣種達と戦うことになった。






 


 

 

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