第3話-異世界転生したら、さっそく死にそうです

(「アラサーの俺が事故死したら、異世界で女の子に転生してるぅぅぅぅ!!」)


 美人系の女性に身体を抱きかかえられながらも、やましい事を思わない理由――

 それは、俺が女の子に転生したからだ。しかも、推定4歳くらい。

 男性がさしていた大きい傘は俺の小さな体にあたっていた冷たい雨粒から守る。

 

「今日から僕の事は『パパ』、彼女の事は『ママ』って呼んでくれてもいいんだよ」

「トモちゃん、ママって呼んでくれる?」


 抱きかかえられながら、女性から頬っぺたをぷにぷにされる。

 悪い気分じゃない――が、しかし! 俺は29歳だあぁぁぁぁぁ!!

 くそっ、タメにこんな事やられて恥ずかしくないのか俺! 自我を保つんだ!

 自称優等生の俺はどこにいった!! ばぶみプレイに目覚めてしまったんか!!


「……ママっ」


 あああああああいってしまったあああああああああああ!!

 やはり、身体というか精神的にというかなんも逆らえない。

 つか、これが一番自然! そう、ネイチャー! ネイチャーよ!


「ほんとうにかわいいねっ、よしよし」


 ママに小さな頭をよしよしされて、心が落ち着く。

 なんだか色々なものを捨てている気がするけど、転生した俺にとってそれは些細な事だ。もう、アラサーの大葉友樹は死んだんだ。

 俺は、トモミ・グラシエとして、人生を満喫するんだ!


「じゃそろそろ、帰ろうか。ママ、トモちゃん」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 あれから、パパとママに挟まれるようにして軽く舗装されている土道を歩いている。何分くらい歩いたのだろうか。

 雨音と共に、ゆっくり流れる景色は、田んぼというか畑みたいな感じだ。

 かなりド田舎といっても過言ではない。せっかくの異世界転生だから、貴族の娘ポジションとか俺TUEEEポジションとか、そういう系が理想だったけども、この夫婦と一緒に歩いていると、ここに転生してきて良かったんだなと思った。

 きっと、ぼのぼの系日常生活になるんだろうな。あっ、パパと目が合った。

 

「トモちゃんは、今までの記憶とかあるのかい?」


 今までの記憶……そういえば、トモミ・グラシエとしての俺の記憶は、今日が初めてだ。つじつま合わせがめんどくさいから、記憶はないことにしておこう。

 俺は、考えるしぐさをした後、小さい首をぷるぷる振った。

 ぷるぷる振った際に、セミロング茶色ツーテールの尻尾が一瞬視界に入る。

 つか、俺の髪型ツーテールなのかよ、しかも茶色系か。特徴とかなさそー。

 ザ・一般人系の女の子らしい。まあ、よくある貴族の家系争いとか派閥争いとかなくて良かったわ。ぼのぼの生きていきたいしな。


「そうなのね、トモミちゃんっ。これからママたちと、いーっぱい、思い出つくっていきましょうね〜」

「はははっ、ママは、もうトモちゃんが結婚した時の事を考えてるよきっと、早いね〜。パパも『パパを倒してからだ!』、って言ってみたいよ」


 最初に出会った時よりも笑顔な二人を見ていると、死んだ俺も嬉しくなる。これが、死にがいがあるっていうことなのか。

 パパとママの服装を見てみると、正直かなりボロボロだ。裕福な家庭ではないのが想像つく。それでも、彼らは一緒に生きる事を選択したのだろう。

 歩いている途中、農業をやっているような事を言っていたが、まさにこのド田舎が俺たちの拠点だろう。交通が不便な代わりに街が非常に安全らしい。

 ま、この田舎だ。出たとしても、キツネ一匹くらいじゃね?

 そろそろ歩き疲れてきたわ。5歳児の体力って相当少ないな。つか、パパママは俺に合わせて歩いてるから、実質全然進んでないんじゃ? 二人は今日の夕飯はの話してるし。どうやら、シチューらしい。


「きゃーーッッ! あなた! あそこに!!」


 突然、ママが叫んだ。

 指を指してる後方をみると、何か辛いオーラを出した、四足歩行の大きな獣がいる。

 距離は20メートルくらいだろうか。


「……幻獣種。なぜ、ここにいるんだ。

 ここは天聖魔導軍が配属されている指定地域のはずなのに……!!」


 幻獣種? 聞いた事ないぞ。田舎特有のクマが、道端に現れたんじゃないの? ここから見たら、大人三人分くらいの太さの大きなクマに見える。


「パパ〜、げんじゅーしゅってなにぃ?」


「トモちゃんには難しいと思うけどね……この精霊界、通称ベルディに対する世界の『魔界』からくる人類と精霊の敵だよ。人々を襲うために送られてくる。簡単にいうと、悪いモンスター……

 ママッ! トモちゃんを連れて遠くに逃げて! パパが相手をしているうちに!」


 そう言うと、パパは背負っていた大きめのシャベルを両手に構える。


 ――グゥルルルルルッッ! ガウガウ、ガウ‼︎


 クマみたいな幻獣種が、一直線で向かってきた。


「はやいっ! ――グッ……」


 それは一瞬の出来事だった。

 ほんの1秒の間にクマが俺たちの目の前に移動し、パパのスコップを毛太い腕でぶっ飛ばした後、仁王立ちになってパパの首を持ち上げた。


「い、いゃぁーーーーー‼︎」


 ママは泣き叫ぶと尻餅をつき、鋭い犬歯を剥き出しにしたクマになす術がなかった。

 今のうちに逃げて、と言っているかのようにパパは俺を目尻に――瞳を閉じた。

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