第2話- トモミ・グラシエになっちゃった -

 真っ暗な空間から、雨音が微かに聴こえる。

 肌に水が張り付いたような感覚によって、俺はこの世界・・・・で意識を軽く取り戻す。

 どうやら俺は、雨にモロ打たれながらポツンと立っているようだった。


(「っ、め、た、ぃ……」)


 発する声も枯れていて、ザーザーと落ちる雨音が混ざると自分の声が全く耳に入らない。微かに視界に入ってくるのは、4本の脚だった。

 空を見上げると、顔が2個ある。20代後半と思われるの男性と女性だった。


 訂正、4本の脚ではなくて、男女二人だった。傘らしきもので雨から守り、俺の目の前でお話をしているようだ。

 だが、俺の耳には「ガヤガヤ」としか聞こえない。まだ目覚めたばかりだからっぽいが。


(なんで知らないおじさん・・・・おばさん・・・・が、いるんだろ。てか、二人とも背高くね? 俺が170センチだから、軽く100センチ以上身長が高いぞ?)


 世の中、身長が高い人もいるんだなぁと思いながらも彼らの顔を眺める。

 美人系のはずなんだけど、どうしてもおばさんにしか見えない。なぜだ。

 よく見てみると、女性の方は泣いていた。なぜ泣いているのだろうか。口元を見てみると、男性が女性に胸を貸す様にして、なにかを諭していた。


 ――いや待て

 何故、20代後半らしき人たちをおじさんおばさん扱いしているんだ俺。

 俺と同じ年か、もしくは彼らの方が年下の可能性もあってもいいというのにな。


 こうして考えてると数秒経ってて俺の耳も慣れてきたのか、彼らの言葉がはっきりと聞こえてきた。最初に聞こえたのは涙声の女性だった。


「ありがとうございますっ、神様――グスッ。私達の為にくださったのね、諦めていましたが、恵まれるなんて――」

「ああ、きっとそうに違いない。この娘は、神様からの贈り物だ。まさか、夢の中の出来事が本当に起きるとは――」


 うーん。なんか感動の展開になっているようだけど、この人たちの目の前にいていいのだろうか俺は。つか、完全に場違いだろう。

 そういうわけで、俺はこのなんかよくわからない感動場面から移動すべく、足を動かすと、何故かすぐに、女性に脇下から身体を持ち上げられた。

 

(ちょっ俺、体重60キロあるんですけど!? なんで女性が簡単に持ち上げてんの? 身長高いだけじゃん。マッチョじゃないじゃん!!)


「こんにちは、可愛いお嬢さん。お名前はいえるかな?」


 お嬢さん? いや、俺はアラサーで今年30歳のおっさんなんだが……

 持ち上げられながら何故か意味不明な言葉を掛けられ、正直戸惑った。

 俺の名前は、大葉おおば友樹ともきだから――


「とも……ぃ」

 掠れた声は、途中で力尽きた。

 女性は笑顔で話しを続ける。 


「トモミちゃんっていうのね、可愛いお名前。

 じゃぁ、今日からあなたのお名前は、トモミ・グラシエよ。

 ずーっと、ずーっと、あなたの事を大切にしていくわ」

「トモちゃん、僕達のところにきてくれてありがとう」


 ――なぁ、全然意味わからないんだが?

 と、言いたい所だけども、なんとなーくわかっちまったわ、この展開。

 よくよく考えてみると、俺、ボイラーが爆発して死んだじゃん?

 でも今生きてるじゃん? んで、持ち上げられてるじゃん?

 お嬢さん言われてるじゃん?


 何故は全て解けた。つまり――


(「アラサーの俺が事故死したら、異世界で女の子に転生してるぅぅぅぅ!!」)





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