アラサーの俺が事故死したら、秀才少女として異世界転生した。

風邪予防

第1話-俺、死んだんだけど?

「はぁ……今日もやっと仕事が終わりかぁ、帰ったら一杯飲むしかねぇな!!」


 額の汗を腕で拭い、作業着の袖からひんやりと肌を伝う。

 地下奥にあるビルの監視室に一人佇む俺は、最後にメールチェックをしようとデスクに向かった。


「それにしても、まじで暇だよな。もう今年で30歳になるんだぞ俺。このまま、ずっと何も無い日常を繰り返す社会の歯車として生きていくのか……」


 学生の頃から、ずっと夢見てた社会人生活。好きな仕事して、好きな遊びをして、好きな人と結婚して、一家団欒して、おじいちゃんになって、最後は嫁と子供と孫に看取られて天国に行く。そう思っていた。

 しかし、だが、しかし。現実はやりたくも無い仕事を呼吸するかのように、ただひたすらにやり続け、帰って飯食べて寝て起きて仕事行ってのループ・オブ・ループの彼女いない歴=年齢の童貞男だ。

 結婚どころか、彼女がいた事がないしモテたこともない。


「たしか男って、30歳で童貞だったら、魔法使いに慣れるんだよな。はー、俺そろそろ魔法使いになれるじゃん! これがアニメならすっげぇ最強の魔法使いになっちゃう系のハーレム俺TUEEEE主人公決定だよな。ハハハッッ!」


 グスっ、と頬を伝う涙を目尻に、最後のメールを送信した。

 

「あ、やべっ! ボイラー止めるの忘れてた!」


 ちなみに、ボイラーとは、ビル等に使用する熱源を作るものだ。空調機の熱に使われたり、お湯にするために使用されたりする。

 俺は急いでボイラーが設置されている部屋に向かった。


 ボイラー室に到着し、ちょいと眺める。大きさはジュースの自動販売機が4台くらい連なったくらい。ドラム缶を縦に置いたような形のそれから発生する蒸気が流れる音を聞きながら、いつも通りの停止手順の操作をした。

 貫流ボイラーは無資格でも取り扱える便利なボイラーちゃんだ。ボイラーの中でも小さい部類で、子供みたいで可愛いと感じる時もある。今日も、朝一できれいな雑巾でふきふきしてしまった。

 ちなみに、俺は努力家の真面目君なので、ビルメン三種の神器すら取得している自称優等生だ。そこらの平社員には負けない。そういうわけでも、もし、転生したら最強クラスに違いないな。ま、死ぬなんてありえないけどな。


「はぁっ、はぁっ、っと、間に合ったー。今日は20時ぴったりに帰って、酒を飲みながらギャルゲーするぜえ!! ちゃちゃっと帰るぞー、…ん?」


――ガタガタガタガタッッギーギーガタガタッッギーギー


 いつもの工具セットを腰に巻いてボイラー室から出ようとすると、何故かボイラーが稼働しはじめた。まるで、俺に何かを伝えたいような感じに。

 いや、ボイラーが俺に何か伝えるってありえないっしょ。


「なんか操作ミスったかなぁ……、いや、手順は何もおかしくないぞ。なぜ? 故障?」


まっ、取り敢えずリセットして、正常に再起動出来ればいいっしょ。そんな軽い気持ちで、もう一度再起動した瞬間――


「うそだッ――」


 大爆発の音が微かに聞こえた瞬間、叫び終える前に俺の意識は吹き飛んだ。

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