退屈な日常が破壊された

 次の日、俺ことディノン様が率いる不良チーム【ウルヴァリンズ】は、先生共が説教しようと待ち構えてるのが目に見えていたので、学校をサボった。

 何もアリ地獄に、わざわざ自分から足を入れることないだろ?

 ほとぼりが冷めたころに登校して、またイタズラすればいい。


 せっかく一日遊ぶ時間ができたのに、相棒であるクリムは「俺、親の仕事を手伝わないとならねぇから、今日はいいや」とか言って帰りやがった。

 学校サボってんのに親の仕事は手伝うって、どんな理屈だよ?

 不良のくせに律儀に親の言いつけ守りやがって。


 ヤツの親は郵便配達。

 配達のバイトでいくら貰えんだ?


 だから今日はキノコメガネのタロと二人で、街の第三層にして表側に位置する、遊戯場へ行くことにした。

 道中、俺はタロへ自慢げに話す。


「ユウガ岬に行ったら何を見たと思う? 少女の幽霊を見たんだよ」


「ウソ? 本当?」


「あぁ……いやウソじゃねぇ。本当だっつうの!」


 タロはメガネの奥を輝かせて質問。


「その幽霊ってどんなのだった?」


「片足を引きずって杖突いてんだ」


「何ソレ? 本当に幽霊?」


「まぁ、これにはいろいろあってだなぁ……」

 

「ディノン。アレ、なんだろ?」


「聞けよ! お前は聞き下手か?」


 口を半開きにしたタロの目線を追って見上げた。

 いつもと変わらないはずの黄金の空に、シミのような影が映り込む。

 シミは徐々に大きくなり、まるで月が落ちて来たように見えた。


 それは大きな岩だ。

 岩が空で砕けて無数の流星のように降り注いだ。

 

「タロぉ⁉」


「ディ、ディノン!?」


 崖の上段に当たった拍子に土砂崩れが起き、俺とタロはそのまま砂の波に飲まれた。

 どれくらい流されたのかわからないが、俺は砂の上に乗り滑り台のように崖の街を落ちて来たから、何とか助かった。

 だが土砂崩れではぐれたのか、タロの姿がない。

 俺は慌てて周りの砂山を見て姿を探す。


 頼む! 上手い具合にキノコが頭の傘を出すように、土砂の中からキノコ頭を出しててくれよ。


 だが、すぐに意識は別の事柄に奪われた。


 ズズゥゥン……。


 地響きが断続的に続く。

 その轟音は一つの方向から響いるのだと気が付き、そっちに視線を移す。


 広大な溶岩の地平。

 その上空には狼煙のろしのように縦へ広がる積乱雲が、綿に見える雲を激しく回転させながらこちらの街へ迫って来る。

 雷を糸ミミズのようにまとった雲の中は、無数の黒い島が浮いたように見え、島それぞれが徐々に大きく膨らみ一つに合体する。

 夜の闇が光を貪り食うように巨大な影が現れた。


 山が――――山が動いている?


 突如現れた山の頂上は、積乱雲よりも高い位置にある上層雲が覆っているが、それでも影の形が解る。

 牛刀を寝かせた形の角が両端から伸び、牛のようなシルエットを成す。

 背中にはコウモリのような羽が鋭く天へ伸びていた。


 月並みの言い方なら、神話に出てくる悪魔そのもの。


 地響きは更にけたましく鳴り背中の片翼が、扇を開くように広がったのかと思ったが、違った。

 羽の先は槍のように突き出て三本に割れる。

 それは鋭い爪を持つ三叉の形をした手の平なのだが、山のてっぺんを影で覆う程、巨大。

 

 凶悪さを感じる手は自然の岩山を砂場で作った山を崩すように、容易たやすく砕いた。


 砕かれた山の頂上は蹴飛ばしたボールのように、上空へ飛ばされながらバラバラに粉砕。

 雨あられのように街へ降り注いだ。


 大きな岩が右五十メートルへ落下すると斜面を砕き、雷が地を這うように亀裂がこっちまで走った。

 道が砕けて割れた地面がソリのように滑る。


「お、おぉぉおおっ!? マジかよぉぉおお!!」


 バランスを崩して倒れた俺は、爪を立てて滑り落ちる地面にしがみつく。

 このまま滑り落ちれば、崖の街の外に放り出されてマグマで岩盤浴。

 血行が良くなる前に燃やされてドロドロに溶けちまう。


 足場の悪い中、立ち上がり滑り落ちる方向とは逆に走り出す。

 ソリのように滑る地面の端まで来ると、できる限り膝を曲げてジャンプ。

 滞空時間を得ている間に滑る地面は崖の外へ放り出されて消える。


 がに股で着地すると九死に一生を得た。


「た、助かっ……た」


 日頃から学校で悪さして身体を鍛えていた介があったぜ。

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