ユウガ岬の聖女

 少女が着る服は高級感のある服装で、巫女の正装、千早に似ていた。

 頭で浮かぶ巫女の絵面とは違い、彼女の千早はデザインとして取り入れてるようで、ブラウスの上から着るモダンなカーディガンとロングスカートだ。

 生地は良い布地なのか宝石のような光沢を持ち、ピンク色のカーディガンは肩から色が変わり紫色の振り袖が腕を覆い、袖口は水色の波模様が描かれていた。


 純白のブラウスは清楚さを現し襟には緑のブローチ、腰に巻くリボンのようなベルトには青い宝石が装飾され、ロングスカートは腰から膝丈までは薄い青色。

 その下が足首を隠す白いスカートでフリルが付いている。


 何より少女の顔はこれまでに見た女子達の中でも、異次元の奇麗さを持っていた。

 

 瞳は紫色の宝石であるアメジストのような輝きを持ち、一枚の花びらのように細い顎に、唇は薄いが桃のようにしっとりした質感を思わせる。

 しかしロングヘアーは独特のスタイルで作られていて、両耳から垂れ下がる長い髪は扇のような形で、もみあげの辺りを白い布で巻き赤い糸で蝶々結びを形作り縛っている。

 扇のような髪とは別に両耳から短く着られた髪が、筆で跳ね上げて書いたように反り返っていた。


 街で見かけない独特とも奇抜とも言える髪型。

 ただこれだけは確信を持って言える。


 真正面から見るとスゲぇ可愛いぃ!


 黄金の空の輝きを浴びたその美女は、一層神々しさが増す。


「あのさ。俺、よくここ来るから、良かったらいつ来るか教えてくれれば……」


 少女は無言で歩き出す。

 右足を引きずるいびつな歩きを、補助杖を突いて歩行のバランスを補う。

 こちらとすれ違い背を見せた。


 なんて声をかければ言いのか思いつかず、引き止めるすべがない。

 咄嗟に出たのは。

 

「俺はディノン! 君の……君の名は?」


 彼女は無言で歩みを進める。

 俺の中では渾身のナンパだったんだけど、またまた無視か。


 見送る少女を唐突に白い影が遮り、どこから現れたのか白装束の男が少女を阻む。


 融通が利かなそうな表情の固い男。

 俺の嫌いな大人だ。

 そもそも、七三分けの髪型と不良は愛称が悪いって決まってんだ。 


 白服の男は少女に強く言う。


「【聖女】様。あまり長いはしない約束でしたが?」


 少女は顔を下に落として返す。


「ごめんなさい」


 どう見てもあの、絡まれてるよな?

 ここは弱気を助けながら悪さする、俺のような不良の出番だな。


 俺は駆け足で男と少女の間に割って入り、エッジの効いた相殺あいさつをかます。


「なんどぅえすか~? ぬあんか用どぅえすか~?」


 男は俺を見下し顔を一ミリも動かさず機械のように言う。


「坊や。このことは誰にも言わないと約束しなさい」


「ぁあ? 坊やじゃねぇ! 何で命令口調なんだよ? この街の十代ティーンズがみんな大人の言うこと聞くと思ったら、大間違いだぜ!」


 白服の男に掴みかかろうとすると、足に何かが絡み付きスクいあげられる。

 男に足を払われた俺は、そのまま地面に倒され岩肌とこんにちは。

 痛みが顔面に走る前に立ち上がり、涙をこらえて言う。


「ア、アレ? 今、なんかやった?」


 白装束の男はユーモアがないようで、何も答えず睨みつける。

 負けじと俺はフットワークを作りからのパンチで空を切って見せたが、男はまったく動じない。


 膠着こうちゃくする時間は少女の言葉で終わる。


「……ノリア」


「な、何?」


 俺は振り向き彼女のアメジストのような瞳を見る。


「名前。私、イノリア」


 そう言って彼女は再び歪な歩き方で足を進め、白装束の七三分けは彼女の後について行く。

 取り残された俺は、あ然と見送ることしか出来なかった。


 ボディガードが付いているところを見ると、どこかの企業家の令嬢か貴族かと考えを巡らせる。

 海外から来たブイブイのVIPかも?

 

 イノリア……イノリアか。

 君の名前を俺の心に刻むよ。

 そして、仲間のアホな不良連中に自慢する。

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