退屈の牢獄
一通り悪さを謳歌した後、今日の武勇伝を称える為たまり場にしている公園へ、場所を移す。
小さい公園で午後になると遊ぶ子供はおらず、丁度、俺らウルヴァリンズの作戦会議に利用しやすくなる。
俺はジャンルジムの上に登り座った。
まっ白なキャンバスに何色もの絵の具で塗りたぐるように、今日も盛大なイタズラで色を付けてやったぜ。
学校で生徒達が俺らのパフォーマンスに話題持ち切りだと思うと、全身がウズウズしてくる。
明日学校行ったら先生共に叱られるだろうが、そんなことに腰が引けてたら何も変えられない。
なのにコイツときたら。
下でジャンルジムに背を預ける相棒のクリムは、マズい飯を食ったような沈んだ顔でボヤいた。
「あ~ぁ。明日学校でこってり絞られるんだろうな? 明日なんかこなきゃいいのに」
「クリム。今更ビビってんじゃねぇよ? 俺達の戦いはこれからだ!」
「今時、流行らねぇ漫画みたいなセリフ言ってんじゃねぇよ。バ〜カ」
「るっせぇな! お前も学校サボってんだからバカだろ?」
優等生のタロが割って入った。
「二人ともバカなんだね」
相棒がすぐに降りられない俺の代わりに、タロのキノコヘッドを殴る。
「痛いっ⁉」と叫び、タロは変な髪型の頭を抑えた。
ニット帽で隠れた眼差しを虚空へ向け、クリムは何か不安をはぐらかすように言う。
「悪さばかりだな、俺ら……ずっとこんなバカやって生きてけんのかな?」
「どうしたんだよ急に? 恥ずかしセリフ言いやがって」
「いや、なんかさ……どんな大人になるのかって、ふと思ってさ。十年後、二十年後も俺らつるんでんのかな~……てな?」
思春期から来る一種の憂鬱なのだろうか、キノコメガネのタロまでセンチメンタルな言葉を言う。
「僕達、もう十五歳だもんね。そろそろ将来のことも考えないと」
「もう十五歳? 何言ってやがる。まだ十五歳だろが!」
「ディノンはいいよね、バカで。将来のこと何も考えてないんだな」
「タロ、コロスぞ? お前らバカと違って将来ならもう決めてるぜ」
「ウソ? 本当?」
ウソなのか本当なのか言葉の矛盾をなじりたいが、代わりに俺は
「あぁ、俺はパイロットになりてぇ」
相棒のクリムがズリ下がる黒いニット帽を指で上げて茶化す。
「ははは! ありがちだなぁ? 翼を手に入れて自由になりたいってか?」
「うるせぇ! この退屈な街から出る方法は飛行機か戦闘機のパイロットなって、空から脱出することだ。俺は普通に大人になってネクタイの形した鎖を首に巻いて、他の奴と同じスーツを着て囚人みたいに会社へ行くのはヤダね」
「まるで牢獄みたいな言い方だな」
「あぁ、牢獄だぜ。ここは退屈の牢獄だ! で? クリム。お前は大人になったら何になりたいんだよ?」
相棒はこっちを見やった後、目を反らしてうわ言のように呟く。
「この街じゃ何もねぇなぁ……」
「何もって、なんかあんだろ?」
「なんつうか。今、生きてるのか死んでるのかわからねぇしな」
「は? 哲学か? 学校サボってるくせに」
「くたばれ、バカ」
相棒は舌打ちの後、何かを思い出したように、右腕を九時に上げて切り上げる。
「じゃ、俺は家の手伝いがあるから、これで帰るぜ」
「え〜!? まだ早ぇよ。この前も同じこと言って早く帰ったろ? 本当のこと言えよ」
「マジで家の手伝いだって」
「お前の親、郵便局の配達だろ? 何を手伝うんだ?」
「おい。配達を見くびるなよ?」
相棒が帰るのを見計らってか、キノコメガネのタロも便乗する。
「僕も帰るよ」
「お前もかよ? 政治家様の息子は学校では悪い子ちゃんで、家では良い子ちゃんですか〜」
俺が皮肉を込めると「ムカつく」と、タロは顔を膨らませて威嚇した後に、負けじと水を差す。
「ディノンはどうするの? また一人で【ユウガ岬】行くの? 案外、根暗だよね」
「るせぇよ。あそこの眺めが好きなんだ!」
「でも怖くないの? あそこの崖で人がたまに落ちるから大人が近づくなって言うし、それに……幽霊の噂も」
「崖から落ちた少女の幽霊だろ? だから何だよ? 幽霊がいたら俺が捕まえて見世物にしてやるよ」
「幽霊だから無理でしょ?」
「だぁ~! 大人の言うことばっかり聞いてたら何もできねぇ、どこにも行けねぇよ!」
「はいはい、最後はいつもの屁理屈だね? じゃぁ、また明日ね」
俺が
たくよ。あのチビ助の黙ってられない余計な一言がムカつくぜ。だから減らず口が閉じるまでケツをぶっ叩きたくなる。
仲間二人が公園の出入り口から姿を消すと、いよいよ俺一人になりユウガ岬へ行くことにした。
本音は学校で悪さしたことを今頃、家にチクられ帰って母親に説教されるのが嫌なだけだが……。
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