城塞都市

 土で舗装された道路を横切ろうとすると、黒ずくめの相棒に肩を掴まれ無理に引き戻される。

 直後、目の前をカートを引く馬が、土埃を巻き上げながら駆け抜けた。

 俺は肝を冷やしながら相棒のクリムに感謝を述べる。

 

「あ、危ねえ~。助かったぜクリム」


「おい? 周りをよく見て歩けよ?」


「解ってるよ」


 自動車が街の道路を走っているが、最高時速五十キロじゃ馬や犬の足の方が早い。

 馬や犬がカートを引いて荷物や飯を運ぶ、ウマゾンやウーマー・イーヌという配達が頻繁に通りすぎる。


 建物で言えば五階建て石造りのビルが、階段のように段になって並び、建物の間を石膏で作った回廊が結ぶ。

 岩を掘って洞穴を作りその穴に八百屋や古着屋が店を構える。

 洞穴の店の周りに柱をいくも建てて、その上に木造の住居が作られ、スペースを余すことなく利用する。

 街の土料は特別で栄養分が高いから、養分にしてる植物が化物みたいにデカい。

 チューリップの花は人間の身長より頭一つ分高く、木の長さは十階建てのビルを追い抜く。


 そんな特殊な土から作られた野菜や果物もやっぱりデカい。

 普通の大きさの三倍で、林檎りんごは両手を使わないと持ち上げられない。 


 道を歩いていると顔見知りの八百屋の兄貴が声をかけてきた。


「よぉ! 三羽ガラスの不良ども。また学校サボたのかぁ?」


 ねじりハチマキをした八百屋の兄貴は、人一人くらいある大きさの大根を、お姫様抱っこしながら説教染みた話をする。


「あのな。学校も平和な今の時代に行っとかねえと後悔するぞ?」


「兄貴も学校サボってたくちだろ?」


「へ、揚げ足とってんじゃねぇよ」


 不良仲間だから共感できる話に、せせら笑った後、八百屋を後にした。


 街は昔、城塞都市として街全体が戦争する時の砦になっていた。

 終戦になると武装は解除されて防空壕や塹壕に家や店が建てられ、今では活気溢れる商店街へ発展。


 だからこの鏡餅に似たピラミッド型の街は、軍の施設がある方が正面で、その裏側が市街地として扱われている。

 なので俺達がいるのは街の裏側だ。


 唐突に相棒のクリムがニット帽から瞳を覗かせながら言う。


「なぁ? 前から言おうと思ってたんだけど、俺らのチーム名、うるゔぇゔぁ、ゔぁゔぁ……」


「ウルヴァリンズ! ウルヴァリンズ・ウェイト・レッドドーン! 自分のチーム名くらい覚えろよ?」


「長いんだよ。覚えらんねぇよ? 短いチーム名にしてくれ」


「いや、ダメだ。このチーム名には深い意味があんだよ。暁を待つ……なんだったかな?」


「自分で考えて覚えてねぇのかよ? せめて、略称を作ってくれ」


「略称? どんな?」


「あー……ウルレドとか、ウルウェ~イとか」


「それじゃ元の意味が訳わかんねぇし、カッコわりぃだろが?」


 チビ助のタロが提案する。


「頭のウルヴァリンズでいいんじゃない?」


 相棒のクリムが「おっ、いいじゃん」と、推したので俺は調子を合わせて仕方なく、泣く泣く、百歩譲って妥協した。


 黒ずくめの相棒クリムは、まだちゃちゃを入れてくる。


「ところでよ。なんで俺達、こんなバカみたいに暴れてるんだ?」


「バカみたいとか言うなよ? 俺達は退屈な世界を壊して、自由な生き方を手に入れる為に暴れてんだ」


「お前はどっかの革命家かよ?」


 キノコメガネのタロが肩を落としながらボヤく。


「あ〜あ、明日登校したら、また先生に怒られるね」


「ソレがどうした?」


 俺は両腕を広げて日の光を全身で受け止めながら返す。


「大人はいつもアレはするなコレはするな、そんなこと聞かなくていい。ソレだけしてればいい。子供は知らなくていい。なんにでもダメだって言いやがる。大人の言うこと全部聞いてたら何もできねぇよ。大人になったら絶対に後悔する」


 影を落とした相棒は顔を明るくして「だよな?」と同意した。


「なぁ? どうせ明日、学校で怒られるんなら、今を最高に楽しく過ごそうぜ!」


 クリムとタロは声を揃えて俺の考えを言い当てる。


「「遊技場!」」

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