ユウガ・エスニシティ
ユウガ・エスニシティは切り立った崖に都市を形成している。
そんなの学校の授業で言われなくても、周りの景色を見れば解るっつうの。
街の道路から景色を見れば、下は鏡餅の土台のように広がり、上は三角形に尖っている。
山というより表面が荒削りのピラミッドののうな崖の街だ。
街の構造はうつむいた顔が首を持ち上げて、表情が明るくなるように下と上でカラーが違う。
崖の下は鉱物などの資源を採掘したり、地熱をエネルギーに変える為の施設。
街の第五層と呼ばれている。
施設の周辺に製造業などの工場が広がる工業地帯。
電気などのエネルギーは下の工場地帯から電線が崖の上へ伸び、そこから街へ血管のように張り巡らされている。
工業地帯の上に工場務めの労働者が住む、団地や家々がある住宅地。
ここは第四層。
仕事場から近いから労働者はこの層に住むが、工場から林のように伸びる煙突の煙が風向きによって住宅街にかぶるので、あまりいい立地とは言えない。
その上、第三層。
ここまでは工場の煙は来ないので様々な仕事が行き交う商業の町だ。
俺達の学校も、この第三層にある所へ通っている。
崖の街は独特の都市作りをしていて、店や家は崖のギリギリで建てられたり、逆に岩の凹みに家を造って岩自体がそのまま屋根の役割を果たす。
道路なんて真っ直ぐな道は珍しく、基本は蛇のようにウネウネとカーブが続き、とかく坂が多い。
崖の街の特徴だろうが建物と建物の間や段差を階段同士が埋めている。
これが老人や急いで目的地に行きたい人間には困り物で、その悩みを解消する為、上層と下層の連絡路として
専用の電線伝いにレールを走るケーブルカーは、斜面に合わせた設計なので、移動する階段に屋根が付いたような設計だ。
第二層になると世界が変わる。
会社の社長や有名な芸術家、俳優など街の成功者が住む豪邸が立ち並び、政治家が集まる議事堂や省庁がそこにある。
この辺の市民になると、もう雲の上の人だ。
というより、崖が高すぎて本当に雲の上にセレブの街があるのだ。
街の成功者や政治家は雲の上から景色を見渡し、下層の人々を見下ろしている。
そう考えると何だか腹が立つな。
崖の頂上、第一層。
街の人間は天国に一番近い場所なんて言ってるくらい高みだ。
ここにはほとんど人は居らず、いくつかの灯台がカカシのように世界を見渡している。
灯台の役割は主に上空を飛ぶ航空機が、街に衝突しないように建てられた道しるべ。
話は街の第三層に戻る。
下層を見下ろすと工業地帯から漂う
どの建物も木々も、こっちを見上げて「おはよう」と声をかけているようだ。
この街は一年中気候が暖かく、陽気がフカフカの布団の代わりになるくらい心地良い。
それがあって歩く人の服装は胸の辺りが開かれ、袖口とズボンの裾がラッパのように広がって、風を通しやすいようなデザインになっている。
生地も薄く風通気性が抜群に良いのも特徴だ。
会社員はシャツにイチョウの葉っぱを模した逆扇のネクタイ、その上から桜や山、朝日の柄が入ったスーツを着る。
通りを歩く男の服装は七歩袖が主流。
イチョウは長寿を意味する植物だから首にネクタイとして巻くことで、いつまでも元気で働けるようにという願いがあるらしい。
んで、この街は工場などの産業で発展したから、機械の駆動部に袖口が食われないよう、七歩袖に工夫されたそうだ。
それが男達のファッションとして定着した。
逆に女の袖は手首を隠すほど長く、両腕から袋を下げたような、振り袖に近い服装が当たり前。
母、姉、妹は家事を任されるから買い出しが多く、ちょっとの買い物の時に財布を入れる空間が必要になり、袖口がポケットの代わりになるよう振り袖スタイルが広まった。
女の服は花柄が多いが男の服は多彩な柄や模様があり、工場から連想されるデザインも特徴の一つ。
煙を吹く煙突や歯車などが刺繍されている。
そして何故か街行く人は、"ヤドカリ"と神話に出てくる"ヒゲクジラ"の刺繍をした上着を好んでいる。
ヤドカリは街を守る守護神、ヒゲクジラは街の為に戦う軍神として崇められて、特に年寄りが好んでこの柄を選んだ服装が目立つ。
肩肘張ったイカツイ兄ちゃんもヤドカリを背負った入れ墨のようなシャツを着込み、白髪に長髪のサングラスをかけたファンキーな爺さんも、胸にヤドカリの刺繍、背中にクジラの刺繍入りのジャケットを着込んでいる。
それに反目するように今、
スピリチュアルブームに託けて、服のデザインに神社を取り入れるがトレンドだ。
俺のバッシュ、
締め縄デザインの紐。
かかとに守り札の模様と、これでもかってくらい神社ファッションを詰め込んだ、最高にカッコいい靴だ。
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