境界に舞う天使
『少女』は周りの様子を見回し、ゆっくりと立ち上がった。掛けてあったドレスが下に落ちる。『少女』は『少年』へと変わり、一糸まとわぬ姿のまま、ふらふらと歩き始めた。セミロングの銀髪が、時折吹く風になびく。時々立ち止まり、視点の定まらない目で何処かを見つめる仕草をした。
美しい。
ただその一言しか出てこない。
「おはよう。目覚めの気分はどうかな」
私はそう声をかけたが、少年はその声に反応する様子もなく、また、ゆっくりと歩き出した。
「チャネリング」
霊話を開始する。少年が私に視線を向け、そしてこちらへと近づいてきた。
この子に『霊魂』はない。だから霊話を用いても、意思の疎通はかなわないのだ。しかし、二人の交わりに、そのようなものは必要ない。
「名前を付けようか。そうだな……リィンにしよう。今日から君は、リィンだ」
私はそう言って、私の傍まで来たリィンを抱き寄せた。抵抗することもなく、私の胸の中に納まるリィン。その体からは、ゾンビが放つような死臭は感じられない。だが、骨ばかりのスケルトンはもちろん、リッチ……さらに上位のアンデッドとも違うようだ。
「リィンは随分と高位のアンデッドになったようだね」
私が今まで造りだしたアンデッドで一番高位だったのはリッチだが、この子はそれすらも凌駕していそうだった。しかし、リッチ以上のアンデッドを造りだせたという嬉しさはない。ただ、こうやってリィンと触れあうことができる、そのことだけが私を喜ばせた。
リィンの銀髪に唇を寄せる。リィンは表情を変えることもなく、ただ虚ろな紅い瞳で私を見つめ返した。
それでもいい。
再びドレスを着せると、リィンが『少年』から『少女』へと変わる。その変化に、私の胸は震えた。
リィンの銀髪に手をやり、そして軽くこちらに引き寄せる。
合わせた唇は、冷たかった。
リィンを腕から解放する。再びリィンは、当てもなく彷徨い始めた。
レースのドレスに木漏れ日が当たると、隠されていたリィンの体のラインが浮き上がる。日陰に入ると、それが再び闇へと溶け込んだ。
光と闇の狭間に舞う天使……その美しさに、私は自分を押さえることができなくなり、リィンの元へと走り寄る。
その気配を感じたのかリィンは私を振り返ったが、その焦点の合わない視線は、どこかこの世とあの世の境界を見ているようで、そのことが更に一層私を欲情させた。
リィンを抱き寄せ、そして唇を合わせる。脚に手をやり、そっとドレスの裾から中へと手を入れた。冷たい感触の中、柔らかい膨らみが私の手に包まれた。
と、リィンの瞳が私を捉える。
まるで意思があるかの様なハッとしたその視線が、私の理性を完全に破壊してしまった。
リィンを地面に横たえると、私は自分の押さえようもない性衝動の証を、リィンの中へとゆっくり差し込む。それが奥まで入るその間中ずっと、リィンは私を見つめていた。
快感も苦痛も感じないはずの体であるにもかかわらず、なぜか時折眉を寄せる仕草を見せる。それが私の衝動を加速させ、とうとう私は自分の欲情の塊をリィンの中へと注ぎ込み、そして果ててしまった。
リィンに覆いかぶさり、しばらくの間、押し寄せる脱力感に身を任せる。
人である自分が、あろうことかアンデッドと交わってしまったという罪悪感や背徳感は、一切感じることはなかった。
ただ、リィンの反応だけが怖い……
しかし、顔をあげた私に、リィンは虚ろな瞳のまま手を伸ばし、私の額に浮かんだ汗をそっと拭う仕草をした。
ふと、私の眼から涙がこぼれる。
リィンはそのまま、今度は私の眼から涙を拭った。
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