背徳の向こう側

 リィンは今、木々の中を彷徨っている。声をかけると、私の元へと戻ってくるのだが、放っておくと再び彷徨い始める。

 そんな姿を見ている内に、私は重大なあることに気が付いた。


 リィンは、いつまで『生きられる』のだろう……アニメイト・デッドで造られた以上、リィンも魔力が尽きれば灰になるのだ……


 そう考えると、私はいてもたってもいられなくなった。自分の頭にある知識を全て当たってみるのだが、アニメイト・デッドで造ったアンデッドの『延命』方法など、どこにも存在していない。


 この邂逅は、もうすぐ終わってしまうのだ。


 絶望が私を包み込む。私を受け入れてくれたリィンが灰になってしまうのを、私はどうすることもできず、ただ黙って見ているしかないのか?


「リィン!」


 しかし方法はない。私の元へと、覚束ない足取りで戻ってくるリィンを見て、胸が張り裂けそうになった。傍まで来ると、リィンは自分から、私の体に自分の体を寄せてくる。それがとてもいじらしく感じられた。


 リィンから感じられる魔力は、決して小さいものではない。だが、いつかはその魔力も尽きるのだ……


 リィンを抱きしめる。一瞬たりとも離れていたくはなかった。


「リィン、君を失いたくない。私は、どうすればいいのだろう」


 また私の頬に涙が伝う。リィンはそれを指で拭うと、今度は自分の唇を私の唇に寄せてきた。


「リィン……君は……」


 アンデッドがキスの意味を理解しているはずがない。ただの偶然か、それとも私の見様見真似だったのだろう。しかし私には、そんなことすら奇跡のように思えた。

 そんなリィンが、リィンが、居なくなってしまう……


「リィン、もう一度、私と繋がってくれるかい?」


 もちろんリィンが返事することはない。しかしリィンは、まるで私の言葉を理解したかのように、地面に座った私の上にまたがると、腰を沈め、自らの中に私を招き入れた。


 それから何度、私は自分の欲情をリィンの中に吐き出したことだろう。しかしそれは私にとって、私が持つ精力……いや、魔力の全てをリィンに注ぎ込みたいという、未来なき努力だった。


 もう自分の精力に限界が来たと感じたところで、私はリィンを胸に抱き、そして大声で泣いた。己の無力を嘆き、そして詫びた。


「すまない……リィンの為に私ができることは、何もないんだ……」


 返事も反応もしないリィンの銀色の美しい髪に、自分の頬をすり寄せる。お師匠様が言った言葉の本当の意味が分かったような気がした。


 私は結局、壊すためにリィンを動かしたに過ぎない。それが分かっていただろうに、私は自らの欲情を優先させてしまったのだ。

 結果、私は自らを絶望の淵へと追い込んでいる。別れがたくなってしまったリィンとの別れは、確実に私の許に訪れるのだ。その時、私を支配する感情がエロスによるものになるのか、それともタナトスに身を任せてしまうのかは、その時になってみないと分からないだろう。


 己の犯した過ちに、私は恐怖した。

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