第36話

100の予選の時間になった 予選は俺の組には佐倉島の2人や空島工業の選手はいない 恐らく余裕ではあるが、油断は禁物だ


俺が1組、2組に隆二、3組に秋山さんだ


ブロックを合わせ、スタート練習を行う 風は少し向かい風、強くはない


「on your marks……」


ブロックに着く とにかくリラックスを心がけよう


「set」


号砲で飛び出す 向かい風なので少し体をいつもより前傾させる 加速に乗り、先頭に立った 60くらいで勝負が決まったか あとは流してフィニッシュした タイムは10.89 やはり向かいだとこんなもんか


隆二も秋山さんも、無難に予選突破だ 4組に佐倉島の鉄川と空島工業の内田が出る 3人でそれを見守る


スタートした 内田が飛び出した 鉄川より速い!


「おい、鉄川置いてかれてるぞ」


60mで勝負あった 内田はあとを流してフィニッシュ 10.91 向かい風は俺たちより強かった


「……速いな 匠と同じ前半型か」


「ああ……鉄川さんより速いのは予想外だ」


「……やっかいだな」


次の組に牛島東の上田、空島工業の2走の石本という奴がいた 石本は隆二タイプらしい 後半で上田を差し、10.96でフィニッシュ


最終組に空島工業のアンカーの楠木と佐倉島の飯田だった これは飯田が前半から置いていき、楠木も無理に追いあげようとしなかった


準決勝は3組構成 俺は2組で、飯田と石本が同じ組にいる 隆二が1組で内田と上田 秋山さんが3組、同じ組に鉄川と楠木がいる 2着までとタイム上位2人が決勝に進出だ


「隆二……前半行かれても焦るなよ」


「分かってる……任しときな」




準決勝第1組 隆二と内田、上田の勝負だ

号砲 内田が飛び出す 上田がその次 隆二はスタートでは3番目だった


加速する 隆二が伸びてきた 上田は既に差し、内田を捉えられるかどうか しかし、なかなか捉えられない


内田は明らかに全力だ そんなに1着で決勝に行きたいのか 手をゆるめる気配がない


隆二とほぼ同着でフィニッシュした どちらが勝ったか……内田だ 内田が勝った 抜かしきれなかった


悔しい、自分のことではないのに 俺がやり返す そう思い、スタートラインにたった




俺の番だ 隆二は準決勝とはいえ内田に屈した 決勝には進出したが、自分の事のように悔しい 俺が1着で決勝に行き、必ずやり返す そのためにもここで負けるわけにはいかない


「on your marks……」


だれよりも早くスタートし、だれよりも早くゴールする それが俺だ 今回も同じことをするだけだ


スタートした いい反応だ 既に誰も着いてきてない 加速する 置いていく この瞬間が好きだ 周りから誰もいなくなり、一人旅になる この世に自分しか居なくなったような感覚がある


後ろから石本と飯田らしき足音がする ここで抜かれてしまうのはきつい 力は緩めたが、露骨にはスピードは落とさない


結局、スタートでできた差を縮めさせることなく、フィニッシュ タイムは10.68 予選と同じく向かい風なので、まあ悪くは無いだろう しかし思ったより流せなかったな


フィニッシュ地点の横のベンチに隆二が座っていた あまり悔しそうではない なんでだ?


「おつかれ匠」


「おつかれ……なんで、悔しそうじゃねえんだよ」


「いやまあ、あのまま全力で行ってれば間違いなく抜かせたからな 準決勝であまり力使いたくなかったし、無理せず2着で決勝行ったってこと あいつ、お前みたいな後半の粘りは持ってねえよ 明らかに全力だったのに、タイムも10.75だ 決勝では負けねえよ」


「なんだ……そういうことかよ」


「おう、さて、秋山さんだ 見とこうぜ」


秋山さんの組がスタートした 秋山さんが飛び出した 鉄川と楠木は無難なスタート この2人は突出した特技は無いが欠点が少ないランナーだ 無難なスタートから効率よく加速し、後半の落ちが少ない しかし秋山さんもスタートに少し重きを置いてはいるが、欠点は少ない


結局、スタートでできた差から少し詰まったが、そのままの順位でいった 2着は楠木だった

3着以下となってしまった上田、飯田、鉄川の3人は祈っている この3人以外に速い奴はいなかったため、3人のうち2人が上がってくるだろうが、皆全ての組のタイムを把握する余裕などなかったため、誰が行くのか把握はしていない


結果が出た 鉄川が落ちた 上田と飯田のふたりが決勝進出だ 鉄川は3年生 これで100は終わってしまった 鉄川は完全に希望を失ってしまった顔で、会場を後にした


スタンドの方からこんな会話が聞こえてくる


「鉄川……引退か……200には出てなかったからな」


「今年の1年はやばいな……決勝進出8人のうち5人が1年だぜ」


「誰が勝つんだよ……想像できねえ」


「1、2年だけで決勝メンバー埋められて……3年生もっと頑張れよ」


最後の発言は許せない 頑張ってない人なんていない 勝負は時の運だ 誰が勝つか負けるかなんて分かるもんじゃない 同じだけ時間をかけてきたなら、あとは運だ 言ってみれば俺たちは運が良かっただけなんだ


「……隆二」

「おう」

「……絶対、勝つよ」

「当たり前だ」

「秋山さんも」

「バーカ、負ける気なんてねえよ」




あとがき

30分ほど遅れてすみませんでしたm(_ _)m

次、決勝 壮絶なバトルです

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