第22話

「男子4×100mリレー 第1組 スタートです」


アナウンスがそういった後、会場は静寂に包まれる 俺達は4レーン この与えられたレーンを、バトンを繋いで走る 女子は先程、無難にバトンを繋いで、全体1位のタイムで決勝進出を決めた 俺たちも続かなければ


号砲がなり、スタートした 山本が飛び出す スタートから明らかにいつもより速い 渚の1件が吹っ切れ、いい走りができるようになったのか 先程アップの時バトン練習をして、普段より1.5足長スタート位置を遠くしてある


「はいっ!」


先頭で隆二にバトンが渡る 綺麗に渡った 既に独走だ 周りは全く着いてこれてない 隆二がチェックマークを超えた 全力でスタートする


「はいっ!」


その声と同時に右腕を伸ばす 綺麗に受け取れた この間の食事会から明らかに上手くなれた


コーナーを駆け抜ける 4継は3走が最も難しく、最も重要だと俺は考えている コーナーでバトンを受け取る技術、コーナーリングの技術、そして冷静な状況判断能力、全てをこなせないと3走は務まらない そんなところを任せてくれた監督には感謝だな


「はいっ!」


バトンを嵜本さんに渡す 少し詰まり気味だった 俺も調子良かったらしい


嵜本さんがフィニッシュした タイムは41.21 このチームにおいて、練習より0.8秒も速かった




「いきまーす!」


「「「「「はーい!!!」」」」」


4継の予選を終えたメンバーはダウンもそこそこに、スタンドに戻り、村上の高跳びを観戦していた 今年は出場人数が例年より多く、村上の跳ぶ高さになるまでかなり時間がかかったらしい ちなみにトラックでは女子400mの準決勝の準備中だ


村上は高さが163cmになってから出てきた この高さになる時点で既に3人しか選手は残っていない

村上が助走していく 長い足がリズムを刻み、綺麗に踏み切ってクリア これまでの選手が苦労していた高さを軽々と飛び超える


「おぉー」


スタンドからも歓声が上がる 綺麗なフォームで飛び越える村上の姿は最早芸術の域だ


「さて、そろそろ女子の400だな」


男女の400mの準決勝は共に3組あり、そのうち2着とタイム上位2人が決勝に出る うちの3人は、男女共3人が別の組に入っている 女子の1組は岬先輩だ


「なんか、岬先輩調子悪いっぽいですよね……」


渚が心配そうに言う 先輩たちの中でも、岬先輩が特に仲良くしてくれているらしい だから心配なのか


「もう少し見れば何かわかるかも……」


「え?」


「なんか、原因が分かるかもしれない……もう少し見れれば」


そう、渚の凄いところはこの観察眼だ 普段の動きと少しでも違うと、渚はよく俺に指摘してきた それにより何度俺は怪我を逃れてきたことか


岬先輩がスタートした 調子が悪いとはいえ、ここで遅れをとる先輩ではない しかし、なかなか周りを引き離せない


「手足は普段通り……体幹は……まあ許容範囲……」


渚がぶつぶつ言っている 俺はとにかく応援しないと


「岬先輩ー!ファイトー!」


レースは後半に入り、岬先輩が先行を許していた まさかそんな展開になるとは


「……分かった」


「え?分かった?」


「うん、原因わかったよ」


……流石は渚だ 岬先輩の不調の原因をつきとめたらしい


結局この後、岬先輩は2着になってしまった 決勝には進めるが、不本意だろう


「岬先輩!お疲れ様でした!」


スタンドから腰ゼッケンを外している岬先輩に声をかける


「ありがとう……悔しいけど、これが今のあたしね」


「渚がなんかわかったって言ってます 後で話してみればどうでしょう?」


「え、どういうこと?」


「なんか、岬先輩の走りみて先輩の最近の不調の原因に気づいたんだと思います」


「そう……わかった、話してみる」


そう言い、岬先輩は更衣室に下がった


この後の人達は男女とも問題なく、400mの決勝に進んだ




「いきまーす!」


「「「「「はーーい!!!」」」」」


村上が、自己ベストに挑戦する 169cm これを跳べば、1センチの自己ベストだ


普段のように助走し、綺麗に踏み切った しかし、足がバーに当たり落としてしまう


「おしい!」「いけるよ!」「次だ次!」


俺たちも声援を送る 走高跳は同じ高さで3回失敗すると終わりになる 既に優勝は決めているが、この高さは跳びたいだろう


2度目の挑戦 先程よりも跳べなかった 足どころか、踏み切ってすぐに背中が当たってしまった 本人も悔しそうにしている


「あぁー……」


観客も残念がる 空気が重い こんな雰囲気じゃ跳べそうもない


「……匠、俺、行ってくるわ」


と隆二が言った


「え?どこに?」


「決まってんだろ 鈴ちゃんとこだ」


と言って行ってしまった


井澤は第1コーナーの頂点の所に行き、村上を呼び寄せ何か話ししていた 見ると、村上は笑っている 何を話したのか


3回目、村上の固さが取れた 井澤のおかげだろう 心なしか笑顔に見える


助走を始めた いつも見ているより力強く、軽やかで綺麗だ その流れのまま踏み切る


「いけ!」「跳べ!」


俺たちも念を送る





電光掲示板に女子走高跳の結果が出た


「1等、村上さん 龍山高校 172cm これは見事な大会新記録となりました」


そう、村上はあの後、172cmまで記録を伸ばし、大会新記録で優勝してしまったのだ



あとがき

予約投稿の時間ミスってましたごめんなさい

インターハイ路線の初戦からこんなダラダラ書いていいのかという疑問は多少ありますが、試合のパートに関しては大幅なカットをするつもりはありません なるべくしっかり書きたいので書きます

3走についての話は完全に僕の持論です 僕も3走を務めていましたが、まームズいです コーナーでバトンを受け取るの 初めてやった時やばかったですよ……www

まあこれからもしっかり試合パートは書きます ラブコメ感が薄れるとは思いますが、試合1日目の終わった後など、間でイチャイチャさせたりするんで楽しみにしててください!

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