第21話

「今日行われるのは男女4継、男女400m、男子走幅跳、男子砲丸投げ、女子の走高跳だな 全員で手分けして、応援と選手のサポート等行うこと 補助員は長距離ブロックの人達が行ってくれるそうだ きちんと礼を言っておくように」


龍山高校陸上部は、名義こそ同じだが短距離、跳躍、投擲ブロックと長距離ブロックが完全に別の部活のように行動をしている こちら側にはあまり人員がいないため、補助員が必要な時は種目数が少なく、人の余りやすい長距離ブロックの人たちが率先して行ってくれる


「昨日リレーのメンバーには伝えたが、今回がインターハイに向けての初戦 あまりレベルが高いとは言えない だが、決して手を抜くことは許さない 予選から全て全力でいけとは言わんが、決して舐めてかかるな 全力で競技に取り組んでる人への冒涜になるからな……俺からは以上だ 張り切っていくぞ!」


「姿勢、礼」


「「「「「お願いします!!!」」」」」


こうして、匠達にとっての初試合が始まった




「下岡せんぱーい!」「頑張ってー!」


女子の400mの時間になった 俺たちはスタンドのフィニッシュ側の最前列で応援をする ちなみに時間的には、男子の400mが終わるとすぐに4継メンバーはウォーミングアップに行かないといけない

ちなみにまだ競技は始まっていないが、村上の出る女子走高跳が第1コーナー内側で試合前練習をしている 出場選手の中でも極めて背が高く、足の長い彼女はすぐ見つけられた 調子も良さそうだ


第1組に出てきた下岡先輩も、スタブロからのスタート練習を見る限り、余裕そうだ


予想通り、号砲と同時に下岡先輩が飛び出した 下岡先輩は前半はあまり攻めるタイプでは無いのだが、周りが遅いのかグングン引き離していく 300mを過ぎたあたりでスピードを緩め、かなり余裕を持ってフィニッシュ この後の4継の予選のことを考えてるのだろう


「お疲れ様でした!」


フィニッシュし、腰ゼッケンを外している下岡先輩に俺たちはスタンドから話しかける


「ありがとう、他の子達も応援よろしくね?」


「はい!任しといてください!」


まじでお姉さんみたいな人だ 渚が前言ってたが、下岡先輩はみんなのお姉ちゃんみたいな人だと 本当らしい


2組目に長岡先輩、3組目に岬先輩が出場した 長岡先輩も、あまり調子が良くないという岬先輩も1着でフィニッシュし、準決勝出場を決めた


「じゃ、アップ行ってくるね」


3年の女子キャプテン、村町先輩が立ち上がり、それに続いて2年の脇坂先輩、そして椎名が立ち上がった


「頑張ってください!」「頑張って!」


「ありがと!」


そうして3人はアップに行った ちなみに女子は1走が脇坂先輩 2走が椎名 3走が村町先輩 4走が下岡先輩だ 下岡先輩は4継予選の直後に400mの準決勝があるため、なるべく力を温存させてあげたい


「お、高跳び始まったぜ」


試技順は村上が1番だ つまり、1年生にしてこの大会においてランキング1位であることを意味する しかし1番最初の跳躍者は彼女ではなかった 恐らく、途中までの高さをパスし、ある程度高さが上がってから出てくるのであろう


そうこうしていたら男子400mが始まろうとしていた 1組に高橋さんが出てくる


「高橋さーん!」


全員で高橋さんに声をかける 高橋さんは手を挙げ笑った 緊張は無さそうだ さすが3年生


高橋さんの組がスタートした 高橋さんは前半から周りを置いていくタイプだ 100mで既に先頭に立っている


「高橋さーんファイトー!」「高橋さん!いけー!」


俺たちも声援を送る 高橋さんも300mあたりで力を抜き、余裕を持ってフィニッシュした


「高橋さんお疲れ様です!」


「サンキュ、4継の予選は任せたぜ」


「はい!」


続いて2組 両角さんだ この人は後半あげるタイプだ スタートからはゆったりだが、だんだん上がってきた そしてラスト100は余裕を持ってフィニッシュ


3組目に西川だ うちの1年生で誰よりも早くデビューとなる


「西川ー!」「頑張れよー!」


声援を送ると、小さくガッツポーズをした 一見クールそうなのにガッツポーズをやると思ってなかったため、みんな驚く


「ガッツポーズなんてするんだなあいつ」


「中学の頃は一切やってないぜ、あいつは」


「え?ってことは……?」


「多分、緊張してるのを誤魔化すためだろうよ まあ心配しなくても、きっちり走るさあいつは」


俺の疑問を、隆二が解説してくれた 緊張してるのか……そりゃそうだよな 高校での初試合だし


スタートした 西川は周りを見てペースを決めるタイプと言っていたが、高校に入ってから、自分でペースを作る練習をしてきたらしい 前半から飛ばし、150mくらいで独走になった


「いけー!西川ー!」


西川も同じく300mあたりで力を抜き、余裕を持ってフィニッシュ しかしその表情は険しかった


「おつかれ!」


「少し力んじまった 修正しないと」


「時間もあるし、しっかりアイシングとかしとけよ」


「ありがとう、リレーも頑張って」


「おう!」


男子400が終わった 女子の高跳びは155cmまで上がっているが、まだ村上は出てきていない


「俺達もアップいくか」


嵜本さんが声をかけてきた


「ですね」


嵜本さん、俺、井澤、山本 4人が立ち上がってアップに向かった


「みんな、頑張って!」「頑張ってください」


その場に残っているマネージャーの3人と選手達に応援された


「頑張ってきます!」



あとがき

今回ラブコメ成分かなり、というか皆無でしたね……まぁスポーツものだしこういう回があることも多々……

ひと試合がかなり長くなります 陸上は3日間開催で、かなり濃密な時間を過ごすことになります それをきちんと書いて伝えたいので、そうなることをご了承ください


用語解説

腰ゼッケン:選手がランニングパンツ等の主に右側(全国大会レベルになると両側)につけるゼッケン 各選手のレーンと同じ番号が書いてある 審判がフィニッシュの時に何レーンが何着かを判断するのに使う


パス:主に走高跳、棒高跳の選手が使う 自分が確実に跳べる、という高さを飛ばし、自分が判断した高さからチャレンジすることが出来る


アイシング:スポーツ外傷(肉離れ、捻挫等)を起こした幹部を氷で冷やすことまたは、体を動かして熱を持ち、疲労物質が溜まった部位を冷やし、熱と疲労物質を取り除くこと 今回は後者が目的

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