第19話

インターハイ路線の初戦、地区総体をいよいよ明日からに控えた木曜日 明日から金土日と3日間にわたる戦いが行われる 実際のところ、この試合ではシードというものを使い、出場せずに都大会から出るという選手もいるが、うちではチーム方針で怪我以外の理由ではそういうのを使わないこととなっている 学力の高さと、シードを使えないという不便さから、龍山高校陸上部は少数精鋭となっているのだろう


「明日から、俺達龍高の戦いが始まる 龍高の選手だという誇りを持ち、全力で戦おう」


「「「「「はい!!!」」」」」


「では解散だ あと、男女両リレーの正メンバーだけ残ってくれ」


そう指示がでた 正メンバーってことは、俺、隆二、高橋さん、秋山さん、西川、両角さん あとは女子の短距離の人達か……今思うと女子ってすげーすくねえんだな 女子がすげー強いとこあるからそっちに流れるのかな


グラウンドへの礼の後、渚に「着替えたら駐輪場で待っとくね」と言われたので忘れないようにしないと


「さて、なんで君たちに残ってもらったのかだが」


1年のメンバーに緊張が走る だが上級生はいつも通りって感じだ 何を話されるのか知ってるのか?


「上級生は知ってると思うが、俺たちはインターハイ路線の初戦だろうがなんだろうが、決勝はこの正メンバーでいく 理由は、いくらインターハイ路線の初戦、地区の総体といえど、ここで終わってしまう選手も少なくない そんな人達でも、3年間陸上を続けてきた選手たちだ、そんな選手たちの前で、俺たちが手を抜くのは許されない」


そういえば決勝は誰が走るとかそういう話はなかったな 予選は1走が山本、4走が嵜本先輩って言われたけど なるほど、これを言うためにあえて今まで言わなかったのか


「いいか、どんな選手、チームが相手でも全力で戦う、それがうちだ 予選から全力とは言わん だが決勝で最高のパフォーマンスを見せるということは忘れるな 特にリレーは安全にバトンを落とさないようにと慎重になってしまうことが多い しかしそれを恐れるな それを恐れていては、肝心な時にやらかす そうなってからでは遅い」


なるほど、リレーだけでなく個人種目でも安全にやって勝てるならみんなそうする けどそれはこの大会に賭けてる選手たちへの失礼になる、か……考えたこともなかった 特にリレーは手を抜いてるかは走ってるメンバーとバトンパスを見ればすぐに分かる


「明日の朝、もう一度全員の前でこの話はするが、このチームの代表の代表とも言えるリレーメンバーには、先に話して覚悟を強めておいてもらおうと思ってな しかも今回は1年生が男女合わせて5人もいる それなら話さない手はないだろう?という訳だ よし、話は終わりだ、解散!」


「「「「「ありがとうございました!」」」」」


話が終わった すると高橋先輩が1年生に話しかけてきた


「ま、つまるところ、どんな大会でもいい意味で目立っていこうぜってことさ 宣伝って訳じゃないが、いい意味で目立つってカッコイイだろ?」


「そうっすね!目立ちましょう!」


と隆二


「目立つ、か……悪くない考えですね」


西川 そして


「やってやりましょう!」

元気な村上


「分かりました」(あーっ!もっとテンション上げたいのにー!)


クールな椎名……なんかうずうずしてるけどどうしたんだ?


そして俺が


「やってやりましょう!」


全員で、インターハイ路線目立ちまくってやる!




更衣を済ませ、渚が待っているであろう駐輪場に急ぐ


「……渚?」


渚が見当たらない どこだ?……なんか近くから聞こえてくる 駐輪場横のトイレ裏からだ 喧嘩?


「何よ、私にどうして欲しいわけ?」


「なんで俺の誘いをいつも断るんだよ!そんなに中嶋がいいのか!?俺の方がいい思いさせられるぞ!」


「そういう問題じゃない、匠とあなたを比べないでくれる?匠に失礼よ」


「このアマっ……!!」


山本と渚だった 山本が渚にビンタしようとしている かけよって山本の腕を掴む


「なっ……中嶋!?クソっ!」


「匠……!」


渚が喜びで目を輝かせる


「山本お前、何してんの?渚に手を上げてさ、そんなに俺が気に入らない?」


「ああ気に入らないさ!なんでお前が中曽根さんの隣にいるんだ!お前がいるから中曽根さんは僕のものにならない!」


「渚は物じゃねえだろ、ってか、試合前日にこんなことしてる場合じゃなくね?さっきキャプテンが言ってたよ 俺たちは試合でいい意味で目立とうって お前ここで女子高生を暴行して、新聞記事に乗って悪い意味で目立って、今後一切試合どころか社会に出れなくなってもいいわけ?」


「なっ……!!」


「それに、そんなことしても渚がお前に振り向くわけねえだろ 渚は相当警戒心が強い、それに曲がったことが嫌いだ どうせやるなら陸上で結果出すってやり方の方がいんじゃね?まあもうやらかしかけたから無理かもだけど」


「……チッ!分かったよ」


山本は帰っていった




渚を連れ、駐輪場まで戻ってきた 山本がもう居ないのを確認した後、渚は安心したのか座り込んでしまっていた


「……たくみ、こわかった、こわかったよお……」


ついには泣き出してしまった そっと顔を隠すように頭を抱き寄せる 渚が泣いた時にはこうするのが1番だと知ってるからな


「……もう大丈夫 俺もいるから」


そう言いながら頭を撫でる まだ泣いてはいるが、嬉しそうにしてくれた


「うおっ!中曽根さん大丈夫か!?」


隆二がきた 先輩達じゃなくてよかった……とは言っても、先輩達と渚以外の女子はこっちとは逆側の門から帰るんだけど


「山本に泣かされたんだよ なんか詰め寄られたっぽい」


「俺たちが話してる間にそんなことなってたのか……山本あいつ……」


「まあもう懲りただろあいつも、またなんかあれば俺がどうにかするさ」


「ま、そんときは俺も手伝うさ 山本を徹底的に更生させないとな……」


渚も泣き顔を見られたくなかったのか、隆二が来た時には泣き止んでいたので、帰路に経つことにした 隆二とは校門前で別れた


「ごめんね匠」


「いいって」


気分的に、自転車は押して帰ることに 帰りは話しながらがいいんだろう


「明日試合なのに……変なことに巻き込んじゃった」


「いいんだよ、あれで襲われてた方が試合に集中なんか出来ないし」


「でも……」


「じゃあ、渚特性カルボナーラを今日作ってくれるってことで手打ちだ 頼んだぜ?」


「そんなことでいいの……?」


「いいんだよ、俺の試合前のルーティンを手伝ってくれるって言う大仕事だ、他の奴には務まらねえよ」


「……うん、わかった!」


やっと笑顔になってくれた この笑顔が大好きだ


「じゃあ、スーパー寄って帰るか 翼をさずけるドリンクも買わないといけないし」


「うん!」


明日からは試合、ルーティンもカンペキ 絶対に勝ちに行く


匠はそう決意した


あとがき

18話の修正に関して謝罪します本当にすみません なぜ忘れちゃったのか……メモしてたのに

さて、山本くんついにやらかしましたねえ暴行未遂 まあ監督や先輩にバレてないんでお咎めはないでしょう

次から試合編になります 専門用語等増えますが解説をあとがきで書くつもりですので着いてきてくださいm(_ _)m

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