第17話
「5レーンいきまーす!」
「「「「「はーーーい!!!」」」」」
大きな声で叫び、井澤が5レーンの直線を走りだす 第3コーナーのテークオーバーゾーンの入口で俺は待ち、井澤がチェックマークを超えた瞬間スタート
「はいっ!」
俺は右手を斜め後ろに差し出す アンダーハンドパスだ バトンを受け取り少し加速……した所で減速を始める
「わりい、少し手元狂ったか」
「まあまだ走りながら修正できる範囲ではあるけどな」
俺が持っていたのはバトンの真ん中 井澤と俺の手が合わさるようにバトンパスをしないといけない バトンの真ん中を持つと言うことは、まだ2人の呼吸が合ってないということだろう
あ、ちなみに4継のガチのオーダーは秋山さん、井澤、俺、高橋さんだ 秋山さんは俺ほどではないがスタートが速い 俺が1走でも良かったが、流石に俺1走は勿体ないと監督が判断した 伊澤は加速走がべらぼうに速く、直線で輝くタイプだから2走 そして俺だが、先日行ったコーナー走で圧倒的な強さを発揮したため3走 そして4走は我らがキャプテン高橋さん 400の選手なので加速走が速いことに加え、勝負強さが求められる区間、高橋さん以外にありえない
俺は先程の失敗原因を井澤に聞いてみる
「俺の出す手の高さは?」
「いや〜多分大丈夫、あとはタイミングだけだ 足長もこれでいいだろうよ」
「分かった、少し休憩してもう1回だな」
あとバトンが合ってないのは井澤と俺の区間だけ 他は先輩たちのおかげか、すぐに合わせる事ができた
少し休憩して、もう1回トライ
「5レーンいきまーす!」
「「「「「はーーい!」」」」」
井澤が走り出す しっかり走りを見極め、チェックマークを超えた瞬間走り出す
「はいっ!!」
手を差し出す バトン自体は上手く渡った しかし先程と同じくバトンの真ん中を持っている
「うーん、何なんだろうな」
「もっと練習するしかないな……」
結局上手くいくことはなく、その日の練習は終わった
「匠、帰ろっ!」
その日の練習後、渚が声をかけてきた
「すまん、今日井澤も一緒でいいか?」
「え、俺?」
井澤が何故だ、という顔をする 当然だ、まだ言ってなかったし
「いや、今日バトン上手くいかなかっただろ?原因がさ、俺達、仲良くはしてるけどまだどっかで遊んだこととかないだろ?だからもっとコミュニケーション取った方がいいんじゃないかって思って」
先程クールダウンの整理体操時に思いついたのだ 俺達にはコミュニケーションが足りないのでは、と
「なるほどなるほど……うん、匠がそう言うならいいよ!井澤くんのこと私ももっと知りたいし」
「そういうことならいいぜ!」
了承して貰えたようだ 俺は荷物を持つ
「「「お疲れ様でした!」」」
「おつかれー」「お疲れさん!」「おつー」
そう言って、3人で部室を出た
「でもなんだかな、この夫婦の間に入っていいのか……という疑問が」
何言ってんだこいつは
「なっ……夫婦ってなんだよ!」
「匠と夫婦……私は匠の奥さん……えへ、えへへへへへ」
「いやどう見ても夫婦だろ オフの日の帰りの時の会話がスーパーで何買うかの相談とか……」
聞いてたのかあいつ……ってか待てよ、そこまで聞かれてるなら俺たち同棲してるってことバレてねえよな?
「……渚」
「ん?何?あなた」
「悪ノリするな渚 いや、俺たちが同棲してるってこと、井澤くらいには話しとくか?」
「うーん……まあこの後の話で、確実に信用できるならね」
俺は井澤ならいいと思っているが、渚はまだ警戒心があるらしい
「んで、どこ行くよ?」
井澤が言う
「某ファーストフード店でいんじゃね?それか某イタリアンレストランか」
「イタリアンにしようぜ、ドリンクバー欲しい」
「おっけ」
それから程なくして、某イタリアンレストランに着いた 平日なのですぐに座れた
3人で適当に注文を済ませ、ドリンクを取ってきた
「んじゃ改めて……まずは簡単なプロフでも言っとく?」
「だねえ」
「じゃあ俺が行くか 井澤隆二 千葉県の元山中出身で、ベストは全中の時の記録だな……あとは、誕生日が8月23日、趣味は人間観察」
「人間観察……」
「私たちも観察されてるの……?」
渚が若干引いている
「な、なんで引くんだよ!人間観察って言っても、困ってそうな人や悩んでそうな人を見つけるのが得意ってくらいだ」
「「ああーなるほど」」
だから村上さんが落ち込んでるのをすぐに察知できたのか
「次は俺だな 中嶋匠 広島の海島中出身 ベストは井澤と同じく全中の時のやつ 誕生日は11月29日、趣味は読書」
「読書が趣味か……だから頭いいんだな……俺とは大違い」
「匠には私も勝てないもん……けどいつか倒す」
「はは……」
渚からの倒す宣言に苦笑い
「どうしよ、私もした方がいい?」
「だな、ここにいるんだし」
「じゃあ……中曽根渚 匠と同じく広島海島中出身で、誕生日は11月30日、趣味は匠の背中にもたれながら読書することかなー」
……だからいつも俺が本読んでるともたれてきてたのか
「お前ほんとそれ好きだよな」
「うん!匠の背中ってちょうどいい大きさなんだよね〜」
「……お前ら、俺もいるのにナチュラルにイチャつくなよ……砂糖吐きそう」
井澤がジト目で見てくる
「幼馴染のノリだよこれは、これくらい普通だ」
「……なるほど、中曽根さんも苦労するなあ」
「ほんと、このにぶちん……」
「なんだよお前ら……」
渚までジト目で見てきた 俺なんかした?
「っていうか、匠っていつまで井澤くんのこと名字で呼んでんの?」
「……言われてみれば、じゃあ今日から隆二でいいか?」
「おう!当然!ってか俺的には今更って感じなんだよな」
「すまんな、全く頭になかった」
「ええ……」
そうこうしていると料理が来た
「お、きたきた んじゃ早速」
「「「いただきまーす」」」
その後は、3人で他愛もない話をして食事した だいぶコミュニケーション取れたかな
「ふー食った食った」
満足そうにお腹をさする井澤
「さて、そろそろ帰りますか」
「待って」
渚が止める
「ん?どしたの中曽根さん」
「一応、井澤くんなら信用できるし、言っとこうかと思って」
「なんだよ、そんな深刻なこと?」
「いや、全く?ただ私と匠が一緒の家で暮らしてるってことを知っといてもらおうと」
「……は?え?」
「まあそうなるよな……うちの親が家賃折半のために同じ部屋にしやがって……」
「まあなんで話したかって、井澤くんが信用できるって私が判断したから 一応そういう事情があるってことを知っといて欲しくてね」
「だからこないだの帰りスーパーで何買うかの相談してたのか……おっけー、なにかそういう関連で面倒事が起きそうになったら俺がフォローしとくよ」
「さんきゅ」
「にしても……ほんとに家賃折半ってだけか?俺にはまだ他の理由がありそうな……」
「井澤くん?何を言っているの?」
心なしか、渚の顔が怖い 顔は笑ってるのに笑ってるのに目が笑ってない
「……あーなるほど、そういう事ね 中曽根さんやるじゃん」
「……言わないでよ、恥ずかしい……」
「匠、お前が頑張れよ、中曽根さんがここまでやってるのに……」
……?よく分かんねえ
「だからなんなんだよ……」
「鈍感もここまで来るとイラつくな、まあ頑張れ中曽根さん」
「ありがと井澤くん……ほんっと、このにぶちん男は……」
よく分からないがめっちゃ非難されてる
「さて、今度こそ帰りますか」
「そうだな」
会計を済ませ、俺たちは帰路に立った
あとがき
井澤くんええ男や……こいつのネックは勉強ができないことだけだなあ
匠、にぶちんすぎる!書いた俺が言うのもなんだけど!
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