第16話

スタートラインでスタブロを調整し、スタート練習を行う ……うん、今日は調子がそこそこ良い 完璧ではないが、これなら行けそうだ


1レーンから山本、高橋先輩、井澤、俺、秋山先輩、嵜本先輩、谷田先輩、岡本先輩だ ……俺、真ん中のレーンでよかったのか?とは思うが、自己ベストでレーンを決めたらしい


「勝負だぜ、中嶋」


5レーンの秋山先輩から声をかけられる


「おっと、俺も忘れるな」


井澤からも言われる


「……負けない」


全員の準備が整った スターターは監督自ら行うらしい タイム計測はマネージャーの先輩たちと走らない選手たちで、本格的な機械を使って計測する このグラウンドは記録会も行えるような設備が整っているのだ


そして渚はフィニッシュライン横の応援の所にいた


「on your marks……」


一礼し、ルーティーンを行いながらスタブロに付く ……うん、ルーティーンの感じを見ても調子はいい


スタブロに足をかけて膝を着き、フィニッシュラインの方を見る これから俺が駆け抜ける道、そして勝負する道だ


(絶対に、勝つ)


スタートラインに手を着いた


「……set!」


腰を上げた 絶対に最高のスタートを切ってやる


パァン!!!


スタート、誰よりも速く飛び出した そのまま加速、20m程で誰も視界には映らなくなった


この瞬間が好きだ 誰も視界に映らず、先頭を駆け抜けているこの瞬間 誰にも邪魔されず、自分1人だけがレースを支配しているような感覚


……50mを過ぎたあたりでで左から足音が聞こえてくる 井澤だ 井澤は後半の伸びが半端じゃない 秋山先輩も来た 近寄ってくる 逃げる どんどん来る 逃げ切ってやる 残り30m


「……!!!」


ふと、フィニッシュライン横に居る渚が視界に映った なにか叫んでいるが分からない けど、俺を応援してくれてるのは確かだ それだけで力が湧いてくる


「……っだあ!!!」


全力でフィニッシュラインを駆け抜けた 全力で胸を突き出してフィニッシュしたせいか、声が漏れた 結果はどうなったのか全く分からない やり切った、とにかくやり切った


「はあ、はあ、はあ……」


息が荒れる いいレースができたあとは必ずこうなる 全身をフルに使えた感覚だ


井澤が近寄ってきた


「……流石だな」


とだけ言って離れた どうなんだ、結果は……?


数分後、3年のマネージャーさんが発表してくれた タイムは


「1位、中嶋くん 10.55 2位 井澤くん10.62 3位 秋山くん 10.67 4位 高橋くん 10.75 5位 嵜本くん 10.84 6位 山本くん 10.95 7位 岡本くん 10.98 8位 谷田先輩 11.02でした」


「っし!!」


ベスト近くのタイムが出た しかも1着 井澤から逃げきれた


しかし、その喜びはすぐに消えた 高橋先輩に頭をド突かれた


「……中嶋、あまり過度なガッツポーズはするな……見ろ」


そこには、涙を流す谷田先輩の姿があった 3年の谷田先輩は、この選考に漏れたので実質引退が決まってしまったのだ


「嬉しいのは分かるが、これで引退になってしまう先輩のこともよく考えるんだ そして、俺たちができるのは結果を出すこと 選考に漏れた人達の分まで走ることだ」


考えたこともなかった 中学では部員が少なく、和気あいあいとした雰囲気で走っていたため、選考会など無かった


「……はい」


俺は覚悟を決めた 誰よりも速くなり、先輩達の思いも込めて走ると そして全国で勝てる選手になると


「まあしかし、まだ少し肌寒いくらいの季節で10.55か……バケモンだな これインハイの季節には何秒出すんだ?こいつ」


「ですね……将来が楽しみです」


高橋先輩と秋山先輩が褒めてくれた それは素直に嬉しい


スパイクを脱いでいると、渚がウ〇ダーのゼリーとドリンク、タオルを持ってきてくれた


「おめでと匠!いい走りだったよー!」


「ありがと……けど、谷田先輩には失礼なことしちゃったな」


「後できちんと謝れば大丈夫だよ、それより、次の400のこと考えなきゃ」


「そうだな……」


そうだ、400が残ってるんだ ここで悩んでる場合じゃない


「んじゃ、他の先輩たちにドリンク渡してくるね!」


そう言って離れていった そういえば山本はどこ行った?辺りを見渡すと、既にスパイクを脱ぎ、ドリンクを飲んでいた 俺に負けたことよりも、渚にドリンクを貰ったことの方が勝ったらしい 嬉しそうにしている


……あ、渚をナンパしてる 速攻で断られてやんの






軽くストレッチをする この後、初めての400mの選考が始まる きちんと準備をしなければ

と考えていると、先程泣いていた谷田先輩が話しかけてきた


「流石だな……お前、やっぱはええよ……俺なんか、相手にもならなかったな」


「ありがとうございます……すみません先程は、何も考えずにガッツポーズとかしてしまって」


「いいんだよ……あれくらい感情的な方が短距離はいいだろ……その代わり、今年じゃなくてもいい、絶対に、全国で勝て 1位以外は許さねえぞ、約束してくれ」


「はい、必ず」


「まあそうすりゃ、インターハイチャンピオンと同じ学校で一緒に走ったっていう自慢ができるからな!頼むよ!」


「はいっ!」


面白い人だな谷田先輩、この人の分まで走らないといけないんだな……


「さて……これで俺は100は引退だ どっか枠空いてる種目にでも出させてくれるよう、監督に頼んでみるか……」


……どうやら、引退するのは100mだけらしい



400mの選考の時間になった 再び各自アップを済ませた高橋先輩、俺、井澤、西川、秋山先輩、2年の両角先輩、飯田先輩がスタブロを調整する この2年の先輩たちも実力者だ 49秒台は持ってたはず


100の疲れは残ってはいない しかし経験がないのが恐ろしいところだ なので先程高橋先輩に、400の走り方のコツを聞いてきた


「そうだなあ……中嶋は200も自信があるなら、前半突っ込んで後半耐える感じでいいんじゃないか?具体的には前半200を22秒5位で入って後半耐えれればいいタイムは出るだろう」


とのこと、早速実践だ


ちなみに井澤も400は走ったことがなく、200m以上はそこまで得意ではないらしい 馬鹿だからペース配分とか出来ないって自分で言ってた


「on your marks……」


やべえ、100より緊張する


「set……」


パァン!


スタブロを蹴って飛び出した 高橋先輩のアドバイス通り、22秒くらいで200mを通過する……つもりだったが、少し速すぎたかもしれない


300mを通過した 足が鉛のように重くなる 耐える やはり少しオーバーペースだったか 既に高橋先輩には抜かれている 西川もきた


「はぁっ、はぁっ…!!」


ラスト50m 苦しい 息が荒れる 両角先輩が来た 飯田先輩の足音も聞こえる 負けたくねえ!


全身でフィニッシュラインに飛び込んだ きつい、苦しい、心臓が壊れそうだ


「はぁっ、はぁっ、ゲホッ!」


荒れた息と咳が止まらない 400の選手はこんなきついの走ってるのか……尊敬するよ


数分後、結果が発表された


「1着から 高橋くん、47.59 西川くん、48.72 中嶋くん、48.97 両角くん、49.02 飯田くん 49.21 秋山くん、50.21 井澤くん、50.54でした」


……ええ!?48秒台!?人生初の400でそんなタイムが出せるとは……ってか、西川自己ベストじゃん、しかも大幅に 井澤が落選か


西川が話しかけてきた


「ありがとう中嶋くん、君にいい感じに引っ張ってもらえて、大幅に自己ベスト更新だ」


「あ、ああ……」


「にしても本当に人生初かい?48秒台だなんて、そう簡単に出せるもんじゃないよ?」


「自分でもびっくりだ、まさかこんなタイム出るなんて思わないし」


「これで君も、マイルのメンバーだな てかトップ3入ったし、400も出る?」


「いや勘弁してくれ!」


なんて恐ろしいことを言うんだこいつは

なんて話していると、両角先輩が話しかけてきた


「まさか負けるとはな……こんなんで400の枠譲ってもらうと、なんか情けなく感じるよ」


「俺は400は勘弁ですよ……マイルもどうなる事やら」


「馬鹿言え、お前が速いから選ばれてるんだ きっちり仕事してもらうぜ」


「……はい、分かりました」


「ま、頑張ろうな」


そう言って去っていった

こうして、選考会は終わりを告げた


結果 インターハイ路線 地区大会出場メンバー

男子

100m 中嶋 井澤 秋山

200m 中嶋 高橋 井澤

400m 高橋 西川 両角

110mハードル 山本 岩崎

400mハードル 岩崎

4×100mリレー 中嶋 井澤 秋山 高橋 山本 嵜本

4×400mリレー 高橋 西川 両角 中嶋 秋山 飯田

走幅跳 谷田 小松原

走高跳 上林

三段跳 小松原

砲丸投げ 山口

やり投げ 山口 桜本

円盤投げ 桜本


女子

100m 椎名 村町 脇坂

200m 椎名 村町 脇坂

400m 長岡 岬 下岡

4×100mリレー 椎名 村町 脇坂 村上 長岡 岬

4×400mリレー 上におなじ

走高跳 村上

七種競技 近藤



あとがき

さーてまた登場人物増えました……メモしとかなきゃ

次回からはリレー練習の始まり、そして定期テストの話となります

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