第10話

「……3!2!1!終わりでーす!」


「「「だー!!!」」」


渚の初仕事、トレーニング中のストップウォッチの読み上げの声を聞いた後、俺たちはマットの上に崩れ落ちた

龍高陸上部の練習は、体幹トレーニングから始まる これがまたキツいんだ


「体幹トレーニングだけでもうきつい……」


「本当にな……」


井澤もキツそうだ というか新1年生は俺と井澤、あと山口は喋れるくらいには余裕があるが、他は余裕が無さそうだ


「よっしゃ、アップ行くぞー」


アップは400mのトラックを2周した後、各自ドリルを行う この辺りから種目ごとに別れるため、山口や村上、近藤とは分かれることになる その後、ハードルを使ったトレーニングがある ハードルを並べ、横向きにまたぎ越していくのだが、井澤がぶきっちょでなかなかできない 俺もそこまで上手くはできない


「これ、難しいな……」


「ふん、簡単だろこれは こんなことで躓いてちゃなあ」


「……んだよお前」


突然、山本が匠と井澤に喧嘩を売ってきた そういえばこいつさっきから渚のことをチラチラみていたな


「お前みたいなやつが中曽根さんに慕われるなんてな 意外だよ」


「そりゃ俺も思ってるよ けど渚に釣り合うように努力はしてきたつもりだ」


「ふん、じゃあ俺が奪ってやる そのすました顔が歪むのを見るのが楽しみだ」


「こいつ……!」


「はーいはい落ち着けお前ら あと多分無駄だぞ山本 中曽根さんは匠にしか興味無いらしいし」


井澤が止めに入る これ以上やってると先輩たちに迷惑がかかる


「ふんっ……」


「チッ……」


どうやら、こいつとは仲良くなれそうにない




「さて、アップも終わったな さて、今日は初日だし、スタートを数本やるだけで無理はさせない その代わり、今週土曜、4継とマイルのメンバーを決める選考会を行う そのつもりで準備してくれ」


リレー と聞いて匠は震えた 匠はリレーが大好きで、バトンが渡った時の快感はとてつもない そのため、絶対にメンバーに選ばれようと心に誓う


スタート練習が始まると、先輩たちの視線が一気に匠に集まる リレーメンバーを新1年ごときに取られる訳にはいかない、ということだろう こういう練習の場でも、監督に対するメンバーに入るためのアピールになるからな


練習では4人ずつスタートをする なぜ4人かというと、マネージャーは渚と3年と2年に1人ずついるが、2人が2つずつストップウォッチを持ってタイムを測り、1人がその記録をメモする すると自然と4人しか測れないからだ


匠の番になる 一緒に走るのは井澤と2年と3年の先輩


「練習とはいえ勝負だぞ、匠」


「ああ、やってやろうじゃん」


まずは30mだ 先行逃げ切りの俺としては負ける訳にはいかない


「on your marks……」


ピストルを打つのは順番待ちの先輩だ その人も含め、めちゃくちゃ注目されている


(なんかやりにく……)


そう思いつつもスタブロに着く


「set……」


号砲とともにスタブロを思いっきり蹴る いい反応ができた この瞬間が俺は大好きだ


「はえぇ!」


「なんだよあれ!速すぎる!」


スタートから加速 30mの間に3mは周りを引き離したかな


タイムは3.71 手動なので換算すると3.95と言ったところか


「まあまあか……」


「……あれでまあまあかよ 相変わらずスタート速すぎるわ」


井澤に突っ込まれる


「いや、後半があるからわかんないよ」


「それ差し引いてもはええよ、今度コツとか教えてくれ」


「まあそれくらいなら……」


なんだかんだでスタートのメニューは終わり、今日はもう終わりということで新1年生はクールダウンを行った 先輩たちはバトンを持ってきた


「ここからは見学してもらうんだが、今からバトンパスを見せる うちではアンダーハンドパスを採用していて、中学ではあまり馴染みが無いかもしれないからな じゃあ高橋、秋山、頼む」


「「はい!」」


秋山さんが第3コーナーのテークオーバーゾーンの出口辺りまで行く てことは秋山さんが3走か 4走の所で高橋さんがチェックマークを置く


「いきまーす!!!」


と秋山さんが叫ぶ


「「「「はーーい!!」」」」


周りが応える 秋山さんが走り出した 秋山さんがチェックマークを超えた瞬間、高橋さんが走り出す


「はいっ!!」


秋山さんが叫ぶと同時に、高橋さんが左手を少し後ろに下向きに出す すごく綺麗に渡った


「すげぇ……」


井澤が感激している その横にいた西川もだ 俺も同じ感想だ


「俺たちも将来的に、あれくらいできないとな」


「そうだな……西川はマイルがメインか?」


「僕はそうだね、けど、中学では4継きっちりやってたから、やりたい気持ちはあるよ」


「じゃあ、メンバーに選ばれないとな」


「そうだね」


こうして4継のメンバーに入る、リレーを走るという決意を固めていくのだった



(匠……頑張れ……)


その近くで渚は、匠に密かにエールを送るのであった


あとがき

専門用語解説

4継→4×100mリレー マイル→4×400mリレー

スタブロ→スターティングブロックの略 スタートを行う時に使う道具 100mから400mまでの距離で必ず使うよう定められている

テークオーバーゾーン→リレーにおいて、バトンを受け渡す範囲 30mあるが、このテークオーバーゾーンの中でバトンが承け渡せないと失格になる

アンダーハンドパス→バトンのもらい手が手のひらを地面に向け、渡し手がアッパースイングのように下から上にスイングしてパスを行うバトンパスのやり方 陸上日本代表が採り入れているやつです


ちなみに匠にはきちんとモデル(陸上をしている時のみの)がいます広島出身の有名な100mランナーです 調べればすぐ分かるね

今回ガチで陸上面の様子を書きました つまんないかもしれないですが、こういう話も書いていきたいので、よろしくお願いします

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