第33話 カーの苦悩
ベイクとカーが走っている方角は宮殿とは真逆で、どちらかというと山岳地帯の方向だった。2人は訳もわからず、骸骨を蹴散らしながら進む。
「無限なんて事はあるのかな」カーは手を膝について言った。しばしの休憩中で、街から森林地帯が始まる場所まで走ると、骸骨軍団が一旦途切れた。奴らはどうやら足は遅いらしい。
ベイクもさすがに息が切れていたが、何も話そうとはしなかった。カーはまたベイクが何か考え事でもしているのかと、無理に話しかけはしなかった。
「術で操るなら」ベイクがカーに言うでもなく呟く。「たくさんのものを操作するなら、指示があるはずだ」
「そうだ。俺もみんなに作戦を説明して、方法を教えて、そんで初めて実行できる」
「規模、数が大きければ大きいほど精密な動きはさせられない」
「そうだな」
「なぜだろう」
「何がだ」
「なぜ太后は俺達を直接殺しに来ないんだ?あの骸骨で事足りると考えているのか」
「子供をやっつけた、憎き仇だぞ。こんなに周りくどいやり方するか」
「お前なら?」
「直接殺す」カーは体力が回復してきたようだった。
「ならば、太后は俺達に気づいていない。そうだろう」
「多分な。そう仮定すると?」
「この骸骨を操る術は自動で行われている。侵入者に対してな。つまり、いちいち術をかけてはいないという事だ」
「なるほど。よく分からんが。つまりどういう事になるんだ?」カーはいい加減頭が痛くなってきた。
「代わりに術を継続させるものがあるのさ。詠唱の代わりを果たすものが。そら来たぞ」ベイクは走り出した。しかし、ベイクは逃げる方角ではなく、骸骨の大群に向かって走って行く。カーは溜息をついた。
蹄の音が、木で盛り上がった瓦礫の前で止まり、地面に白銀の具足が着地する音が鳴り響いた。
辺りは静かで誰もいない。半壊した木造の旅籠の床にはおびただしい人骨が散らばっていた。
白銀の騎士は、またかと苦虫を噛む。
しかし彼には希望があった。もうじき終わる見通しが。自分の刀剣を託した勇者が、きっと果たしてくれる。
彼は確信に満ちて瓦礫を探した。割れた木をどけ、感じるままに掘り進む。ふと見ると乗ってきた馬がある場所を見つめ、やがて鼻を突っ込んでいる。そこかと白銀の騎士は歩み寄り、瓦礫を退けた。
そこには球体があった。それは向こうが透けて見えぬ透明の球。持ち上げられる空間であり、存在しない歪んだ物質。
白銀の騎士はそれを持ち上げて、歩いて無人の往路に置いた。
そしてまた白銀の甲冑を着る馬にまたがり、歩いて去って行った。
しばらくして、その球は人ぐらいの大きさに広がった。
「あら、瓦礫で出られないと思ったのに、出られるようになったわ」ルーザがその歪みからおそるおそる出てきた。
「何かの拍子に移動したか。それともベイク達が見つけてくれたか」後からハザンも出てきた。
「ベイク達も移動したみたいね。跡を追いましょう」ルーザが言った。
「親分さん達、2日前に出たってさ。順調なら明日の朝には着くだろうって」ヘカーテがどこかから戻って来て言った。
「良かったわ。骸骨が向かう方を追いましょう」
島の藪の中では、またベイクとカーが骸骨軍団につかまっていた。
「でもよ。この広い島でそいつを探すのは大変なんじゃないか。くそ」カーは骸骨にしがみつかれて、噛みつかれていた。その力はかなり強く、犬歯が刺さった所からは血が出ていた。
「そいつを探し当てないと、俺達の未来はないぞ」ベイクも必死だった。森に逃げ込んだのは失敗だった。2人とも木のせいで思うように武器が振るえない。
「それが宮殿にあったとしたら、太后をやっつけちまった方が早いんじゃないか」
「確かにそうだが、今は探すしかないんだ」
「ここは戦いにくい。行こう」カーがそう言うと、2人はまた走り出した。
2人は木々の間を走り抜けて、最初に到着した波止場へとやって来た。カーは随分長い距離を走って来たものだと感心してしまった。
骸骨達はまだたどり着いていなかったので、2人はしばし休む。
波で揺れる水面が橋桁を叩く。浮遊物がぶつかる音もしていた。
2人は海を背にして骸骨達がどちらから来るか見ていた。左の藪か、右の街に続く下り坂か。2人とも膝に手をついて、息を忙しく吸っては吐いていた。
ベイクはカーが静かになったのに気づいた。息が整ったみたいだ。
横目で、カーが千鳥足のような、妙な行動をとっているのが気になり、ベイクはカーを見た。
「おい、大丈夫か?」ベイクが聞く。
「ベイク。静かに、これを見てくれ」カーが言った。
「どこを見るんだ」
「足だ」
カーの足を見ると、黒い影が足首を掴んでいて、その腕は背後の、海の方から伸びていた。海から這い上がってきた骸骨が、カーの足を掴んでいたのだ。
ベイクは急いで、骸骨の腕を切ってやり、街への下り坂を走って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます