第24話 天国

 ギラトの奇襲で、街の8棟が焼けて、死者が6人、負傷者が、18人出た。


 街の片隅には共同墓地があり、昔から戦死した者も、老いて亡くなる者もみんな一緒にここに埋葬される事になっている。


 この朝は悲しい朝だった。街が静まりかえり、ほとんどの街人が喪に服すために墓地に集まった。昔から、ラペでは死者が出ると街人みんなで弔うのが通例になっている。


 これほどまでにたくさんの仲間が亡くなる事がなかったために、みんなの悲しみも深かった。


 外に花も摘みに行けないので、皆は思い思いに酒や食べ物をそなえた。残された家族にはみんなで家族の代わりをする。足りないものは補い合ってきたのだ。


 「そうか」ベイクはカーと共同墓地にいた。ベイクは今朝、親方の山から寝ずに走って帰ったばかりだった。


 「あれは恐らくギラトだったと思う。名乗りはしなかったが」カーが言った。


 「間違いないだろう。ハザンはどうだ?」


「広く全身を火傷はしているが、致命傷にはならんみたいだ。治療を続ければ皮膚は再生するらしい。今は髪も半分焼け焦げているが」


「しばらく無理だな」ベイクは歩き出す。


 「動かん方がいいな。まあ今の彼ならもう戦えんかも知れんが」


「まあ、起きてどうなっているやら、だな」


 2人は往路を歩く。後片付けをする戦士達がベイクとカーに挨拶する。その表情は暗い。


 「親分はどうだった?」カーが訊いた。


 「行って、すぐに実力を試されたさ」ベイクは笑った。


 「何させられた?」


「巨大アリ地獄を潰せだと」


カーは静かに笑った。今は不謹慎だとは思ったが、彼にはそれが必要だった。まずは自分が立ち直らないと。


 「協力してくれそうか?」


「約束した。帰りながら考えたんだが、打って出てはどうかと思う。連合軍を結成して、研究所を潰すんだ」


 「連合軍か。つまり全面戦争か」


「まず、研究所の場所を全部調べんといかんな。あと、太后の居場所もな。相手の戦力は減ったと思う。あとは長男テスと太后だけだ。研究所の研究員も出来る限り助けたい」


「俺は反対だな」


 「え?」ベイクは立ち止まった。


 「私は出来る限りこれ以上の犠牲者は出したくない。こちらから戦争を仕掛けるのには反対だ」カーには昨晩の事が頭をよぎっていた。何も出来なかった無力な自分。


 ベイクもそれに反論出来なかった。彼の気持ちは痛いほど分かったのだ。同じ経験をして、同じ思いをした事があった。


 しかし、ベイクは同時に、それを払拭した事もあった。たくさんの仲間を失えばそうなりがちになる。それでも戦わなければならぬ時を経験していた。乗り越えたのだ。


 「それでも代表を集めて話し合いをせねばならんだろう」ベイクは言った。





 「目が覚めた?」


「...」


「おはよう」


「ここは...。ルーザ」


「ハザン」


「...。そうか」


「聞いたわ。とても怒ってたって。あれほど怒ったあいつを見たのは初めてだと」


「一緒に、ここに来られて嬉しいよ」


「あなたがこうなったって聞いて、飛んできたの」


「こうなる前に、もう1度2人きりになりたかった」


「何言うの」


「夢みたいだよ。俺が作り出した妄想なのかな」


「妄想ではないわ。現実よ」


「なら、本当に俺も死んでしまったのか」


「死んでなんかないわ。私がいるじゃない」


「君がいるからだよ」


「え?何かの例えなの?」


「ここがどこだろうと構わない」


「え」


「遅くなったけど、言いたかったんだ。ずっと側にいて欲しい」


「私もいたいと思うわ。もうすぐ何か分かるような気がする。私にとって、他の人とあなたが違うのが」


「ありがとう。それだけで嬉しいよ」


「私もありがとう」




 ヘカーテの工房には彼の意に反して常に誰かがやって来た。


 「分からんから聞いてるんだ」ミミズクが喚き立てた。「何でルーザさんが生きとるのか」


「はー」牛蛙が頭を抱えた。


 「お前らよ、人の工房でたむろすんなよ。話なら別の所でしろ」ヘカーテが手を止めて言った。ヘカーテはこれからの事で大忙しだった。


 「つまり、どう説明したらいいか。ヘカーテさん。説明して下さいよ」牛蛙が助け舟を求めた。


 「うるせーな。つまりだな、危険を察知して、穴に飛び込んだんだ。次元の歪みに。谷に逃げ込んだんだよ」ヘカーテが言った。


「あの部屋から谷に逃げ込むっていうのがよくわからん。ギラトが?ルーザさんが?」ミミズクが訊いた。


 「ルーザに決まってるだろ」


「なんでルーザさんに次元の歪みが開けられるの?」


「持ってたんだよ。バッグに入れてたの」


「バッグに入るの?」ミミズクはひつこい。


 「入るんだよ!」





 

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