第4話 決別

「あなたの子じゃないわ」

 私は怒りに震えながらもしっかりと雅也の目を睨みつけ言葉を放った。本当はこのお腹の子は紛れもなく彼の子だけど私の子供は渡さない。

 毎日愛しさの増していく我が子を手放しはしない。


「ふぅ。やっぱり」

 大げさに息を吐いて雅也は深く椅子に座り直し、馬鹿にしたような意地の悪い顔に歪んだ笑いを浮かべた。

可笑おかしいと思った。ちゃんと気をつけてた俺が失敗するわけない。で、父親は誰?」

「雅也には関係ない」

「結婚できないマズイ相手だろ? お前まともな相手いなかったの?」

 限界。

「――っ!」

 びちゃーん。

 私は右手にずうっと握っていたグラスの水を雅也に向けてビシャッとぶっかけてやった。

 放心した雅也は水を被って髪は濡れてベタッと顔に貼りつき顎から雫がしたたっている。


「あんたって格好悪い男だね。別れて良かった。二度と近寄らないで」


 久しぶりのイタリアンだったが水しか口にせずに帰ることになった。

 どのみち悪阻つわりが酷かったしコース料理なんて食べられなかっただろう。


 私は呆然とする雅也を一瞥して個室をあとにした。


 レストランを出てタクシーを拾うために大通りに向かう。道が視界が、涙で揺れる。


 くぅっ少し泣けてきてしまった。


 期待していたのだろうか?

 どこかで私は『妻と別れるから結婚しよう』とか言ってもらえると思っていたんだな。雅也があんな風にいう男だった事があまりにもがっかりで愛した事が情けなくって……。


 はぁ。帰って、あったかいうどんでも食べたい。家族と一緒に。





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