5. 埃まみれの証明
「助かったよ。今日がゴミ出しの日じゃなくて」
会長の目的は入口のすぐ横にあった。45Lのビニール袋がかかった、青いゴミ箱だ。
「あとは運次第だな」
両手をゴミ袋へ突っ込むと中身を漁り始める。さっき掃除した埃がまって、僕は口元を抑えた。しかし会長は少しも怯む様子がない。
「ちょっ、汚いですよ」
僕の制止を無視して会長はゴミを漁り続ける。ストロー、プラ容器、使用済みのティッシュ。数多のゴミが散乱していく。これの後片付けは当然、僕がするのだろう。力づくでも止めるべきかと考え始めたころ、会長の目が光った。
「あったぞ!」
勢いよく引き抜かれたその手には、よれた、細長いビニールが握られていた。僕はその見た目によくよく見覚えがある。
「折れた割り箸だ」
投げ渡されたそれをまじまじと観察する。間違いない。僕が暇つぶしに折って、柏木さんが貰った、あの割り箸だ。埃をまとって汚れた梱包フィルムの中には、中心で折られた一膳の箸だけが、無様な姿でいる。箸の先端は綺麗なままで、未使用であることも明らかだった。
「でも、どうしてゴミ箱に?」
「そんなもの決まってるだろう。捨てたんだよ。柏木くんが」
「え……?」
「折れた割り箸なんて使い物にならない。要らないものは捨てるしかない。問題は学校で捨てるか、持ち帰って後で捨てるかだけど、彼女はその場で捨ててくれたらしい」
その事実は少なからずショックだった。たとえ折れた割り箸でも、自分があげたものを未使用のまま、あっさり捨てられたことが悲しかった。そんなことするなら、机に戻してくれればよかったのに。
「何故下を向く。むしろ君は喜ぶべきだ。この証拠によって謎は解明されたのだからね」
解明?僕には分からない。折れた割り箸が捨てられていたからって、一体何が分かるっていうんだ。
「よく見てみるといい。前と比べて変化はないか」
「ないですよ。箸の折れ方だって、すっかり同じです」
「本当にそうか。割り箸だけが封入されたその状態は本当に十分か」
圧に負けてしぶしぶ、もう一度観察する。フィルムの中の割り箸。中央部でぽっきり折れているが、切り離されたわけでなく、繋がったままだ。どこかの欠片が、フィルム外に出ているわけではない。だから元のまま……いや、違う。箸以外のものが、そこにはない。
「そうか、楊枝だ。爪楊枝がないんだ!」
「その通り。この割り箸からは、楊枝だけが抜き取られているんだ」
会長がフィルムの端を軽く捩ると、先端がぽっかりと空いた。
「開け口だ。ここから彼女は楊枝を取り出した」
「口が空いてるならさっき漁ったときに、楊枝が落ちたのかも」
「一理あるね。けれど、ああして漁るくらいではフィルムが破れない」
そうだ。開け口が空いていれば、楊枝は落ちるかもしれない。しかし、開け口が空いたのはゴミ箱へ入るその前なのだ。
「この割り箸はフィルムの上から持ったり、見るだけで使い物にならないことは明らかだ。にも関わらず封を切ったのは、中身の楊枝を取り出すため。もし割り箸を取り出すために開けたなら、また袋に戻す必要性がないしね」
会長は折れた割り箸をゴミ箱に投げ捨てる。証拠を吐き出し終えたそれは、彼女にとっても無用になった。
「こうして仮説は証明された。柏木くんの目的は、割り箸ではなく爪楊枝にあった」
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