考え込まれたであろう文章。愛国心ある登場人物たち。精緻に描かれる日常のワンシーン。
それらはまるで文字であるというのに美しい絵画の様に、世界を物語る。
私は何よりあらすじから既に引き込まれていたのだが、扱えば扱うほど身を滅ぼす力という魔法の設定が一周回って今までにない新規性があってとても面白い。
大いなる力には大いなる代償が伴う。個人的に私がこういった話が好みであるというところもあるのだが、異世界転移などのファンタジーが増えたこの世の中だからこそ、この「さよなら、ファンタジー」は特に異彩を放っているように思える。
ストーリーは未だその代償がどのように表れるのかというのを抽象的にしか描いていないが、それが進むにつれてどのように登場人物たちに影響していくのかとても興味深い。
ストーリーは、裏切り者と称された兵士の親戚が彼の一生を辿る形で物語が展開していく。
戦記のようで、しかしなぜクライブがあのような行動をとったのかという謎を紐解いていくミステリーのようで、でも大きな代償を伴う魔法という設定上ヒューマンドラマも展開されていくだろう。
あらゆる小ジャンルが絶妙にマッチするように組み合わせられたストーリーのプロットは恐らくかなり精密に書きあげられたものなのだろう。
驚くべきはこれがファンタジーであるということだ。愛国心ある兵士に、まさに目に浮かぶような訓練の風景や、未来でのアイリーンと館長のやり取りなどは、現実世界で繰り広げられた本当のストーリーのようで、これが魔法を扱ったファンタジーであるということを忘れてしまう。
まさに「さよなら、ファンタジー」と、魔法に対するファンタジー的憧れが消え去っている自分に驚く。しかし、そのファンタジーらしからぬ要素がしっかりと機能しているところが素晴らしい。
ファンタジーでありながらファンタジーを忘れる作品。
是非、ネット小説のファンタジー界隈に一石を投じる作品になってくれることを願う。
星は完結した際に「完結おめでとう」という気持ちと共に三つにさせていただきます。