僕には少しフランスの血が流れている。


そのために、僕は幼い頃から見た目が"ハーフみたい"だということで、比較的良い待遇を受けてきた。


正確にはクォーターだよ、なんて言ってしまってはいけない。

貰えるものも貰えなくなる。

損はしないが得が減る。


そんな訳で僕は物心ついたときから、

"聞こえていないフリ"をするようになった。


僕は何も聞こえていない、聞いていないから都合の良い間違いを、訂正する義務もない。必要最低限のことを話しておけば良いのだ。



と、こうやって生きていくと、妙なことが起こる。



何故か女性から好意を寄せられる。


僕としては、"は?"という感じだ。

僕の何を知っているんだ、という僕の気持ちは関係ない。


"青葉くんったら、何も喋らなくても、かっこいいんだよ"


"違うよ、青葉くんは何も喋らないから、かっこいいんだよ"


とこんなことをよく小耳に挟んでしまっては人間不信になった。

(後者の発言に関しては少々的を得ているが)



つまり何が言いたいのかと言うと、

こういう経験上、

僕は女性の細かな仕草や、発言から、

その女性が僕に好意があるかないか、読み取ることができてしまうのだ。

別にこんな能力要らない。

ただ、勝手にわかるようになってしまっただけだ。


それで僕は、小学生の頃、

色々な女性(この場合は女子か)と付き合った。


今考えてもすごく可笑しいが、

この僕が、女子と手を繋いだり、

ベンチに並んでソフトクリームを舐め舐めしたりしていたのである。


その頃の僕はまだ、女性と付き合うことが損になるのか得になるのか、よく判っていなかった。それを確かめるためにも、僕は告白されても断ることをしなかった。


段々周囲からは

"女を取っ替え引っ替えするプレイボーイ"

のように見られ、

(もう一度断っておくがこの時僕は小学生)

それでも女子からの好意は絶えず僕に向けられていた。


すると、時が経つにつれ同性の方から直接的な色々の嫌がらせを受けるようになってしまった。


僕は嫌がらせを受けても、不登校になるようなタイプでは無かったので、人生においての大した傷は残らなかったが、お気に入りの消しゴムを取られたり、楽譜に落書きをされたりすると腹が立った。



こういうことで、女子と付き合うのは"損"になるのだと、小学校の終わり頃に悟った。



中学の方は、父の転勤のために、知り合いが一人もいないところに通わなければならなかった。


しかしそれが好都合で、僕が一切喋らなくても、誰も気にしない、何も起こらない、ある意味平和、という状況をいとも簡単に作り出すことができたのだ。


女子と付き合うこともなければ、

同性から嫌われることもない。


こういう3年間を過ごした。






俗に言う"青春"は僕には無かったが、

昨日からの奇妙な状況に比べると、

非常に充実した3年間だった。




戻れる事ならあの頃に戻りたい。





戻りたい理由。

それが、今僕の手に握られている真っ暗なスマートフォンの向こうにある。


外がもう明るくなってしまっていた。

僕は結局眠れず、変なテンションで「ドグラ・マグラ」を読んで一夜を過ごした。





もう一度言うが、僕は、女子からの好意が読み取れる。

男子からの好意は向けられた経験が少ないから、よくわからないが。



しかし、昨日から僕を悩まし、安眠を妨害し、今ですら恐怖させるこの男は、



僕の16年の経験上、





"明らかに"、





"女子からの好意"と全く同じものを僕に向けているのが、判るのである........。

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