殻
とりあえずコイツに何か送るべきか。
このまま無視というのもマナー違反になってしまう。
"別に気にしないよ"
と打って送信....しかけて全部消す。
こんな出任せを言ってしまった後で、
他のヤツらにも万が一友だち追加されては困る。
どうしよう。
もうメッセージに既読を付けてしまった。何か返さなければ、不審に思われる。
"うん"
この2文字の平仮名が、今最も適しているような気がした。
これ以上既読を付けたままにして返事を遅らせる訳にもいかないので、確定ボタンを押さずに直で紙飛行機のマークをタップする。
これで良し。もう、何の返信もないだろう。
というかやめてくれ、もう。
すると息を吐く間もなく"既読"の文字が表示された。
僕は怖くなって、LINEをタスクキルする。
'何だ。何なんだ。
コイツとは今日初めて交流(と言っていいのかもわからないが)をし、アイツは僕の名前すら知らない筈だ。'
'しかし冷静に考えてみると、これも新型コロナウイルスが生んだイレギュラーのうちか。
クラス発表だけが先走ってしまったせいか、自然と僕はこのクラスに対する希望の類は全て捨ててしまっていた。'
'今日まで何度か登校日はあったが、自己紹介やオリエンテーションすらまだしていない。
そういう訳で、1年時に他クラスだった高山、いや高島?高波か、が、僕の名前を知っていること自体まずおかしいんだ。'
'何らかの理由で、ずっと目を付けられていた?'
と、こんなことを脳内に大勢いるミニ僕の口で呟かせながら鳥肌を立てていると、
"、てそれだけ?笑"
"そういえば、今日クラスで話題になってた........."
と書かれた通知バナーが降りる。
"うん"という少ない、けれども十分な2文字で返信したにも関わらず、
"...."で省略された通知バナーが表示される程の長文を寄越してきたという事実。
突然、今までの恐怖やら緊張やら怒りやらが、全て消え去った。
乾燥した唇を舐めながらLINEを開く。
もうこの時の僕はある種の発作のようなものが出てしまっていたのかも知れない。
"ごめん。それもこれも全部だけど君の話すこと全てに興味がないから、もうこれ以上は何も言ってこないで。"
打って、送信した。
もう何も考えずに、スマートフォンの電源を切った。
もういい。これでいい。あの妙なヤツとはおさらばだ。
僕は枕に顔を埋めた。
ここまで書いて、一つ断っておきたい。
何故僕がこんなに混乱しているか?
恋愛経験が無いから?
そんなんじゃない。
僕の中の色々なものが狂ってしまったのは、
この"高波"とかいう厄介者が、
男だったからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます